「選ばれた名言」から透ける、党中央の3つの思惑
第1に、現職の習氏が毛沢東と並ぶ最多で、鄧小平をも大きく上回っており、党中央あるいは習氏自身が様々な場面で、習氏を毛沢東や鄧小平に並ぶかそれ以上の歴史的思想を持つ指導者に位置付けようとしているが、ここでもそれが表れた格好だ。
他方で、習氏に並び毛沢東も最多だったことは、2月に発刊された新版党簡史(略史)で、毛沢東や文革に対する否定的評価が抑えられる一方、当時の成果に関する記述が大幅に増えたことと軌を一にしている。
第2に、香港の「一国両制(二制度)」の源である鄧小平の「1つの国家、2種類の制度」(1982年、米国華人協会主席との会見で発言)がリストアップされている。
香港の国家安全維持法施行や選挙制度見直しで、海外から「一国両制」は終わったとの批判が高まっているが、中国としては「一国両制」方針に変化はないこと、そもそも諸外国の「一国両制」に対する解釈・認識が誤っていることを示す狙いがある。
中国からすれば「一国両制」は鄧小平が提起した中国特色社会主義理論の1つで、「1つの中国」の前提の下、「大陸の社会主義を堅持すると同時に、香港、澳門。台湾がもともと有している資本主義的要素を維持する形で、これら地域の主権回復や統一を目指す重要な戦略的政策概念・科学的構想」という位置付けで(中国百度百科)、そうした認識を改めて対外的に示す機会にしたということだろう。
第3に、上述「一国両制」もそうだが、外交環境の悪化を背景に、海外への発信を意識して選んだと思われるものが多い。毛沢東が1949年新華社に掲載した、「さようなら、レイトン・スチュアート」と題する論考で述べた「中国人は死さえ恐れない。困難など恐れるものか」がリストアップされていることがその典型とみられている。
この論考は国民党との内戦で米国が国民党を支持したことを批判したもので、レイトン・スチュアートは中華民国政府が台湾に移る前の最後の駐中米国大使だった。毛沢東はこの文脈で、「8年、10年封鎖してみろ。その間に中国の一切の問題は解決しているだろう」とも述べている。米国が対中包囲網を築こうとしているかにみえる現下の外交環境を意識したことがうかがえる。
さらに習氏が2013年、モスクワ国際関係学院で行った講演で述べた「靴が足に合うかどうかは、自分で履いてみて初めてわかる」も同様だ。発展の道は各国によって異なることを強調したものだが、最近の「中国式民主」の主張にも通じる。
いずれも、党員を始めとする国内向けというより、米国に聴かせることが念頭にあるという受け止め方が多い。
「江山こそ(就)人民、人民こそ江山」の真意
最新の「名言」は新版党簡史発刊後行われた「党史学習教育動員大会」での習氏の講話から、「江山こそ(就)人民、人民こそ江山」。
「江山」は「河や山」→「国土」で、「国家」「政権」の意味がある。習氏は「江山」を好んで多用しており、5月の河南省視察、7月1日の党創立百周年祝賀行事での演説でも同様の発言をしている。
「名言」では抗日戦争などを例に、党百年の歴史は党と人民が一体となって闘ってきた歴史であることを強調する文脈でこの表現を使用し、その後、多くの地元メディアがこの表現に焦点を当てて習講話を伝えている。
「江山」の関連表現として、「紅色江山」が「共産党統治国家」、「打江山」が「政権を獲る」、「守江山」が「政権を守る」と「人民を守る」の両方の意味になることを勘案すると、現下の厳しい外交環境の下、党の求心力を高め政権の正当性を強調する意図があると思われる。
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