「受益者の定めのない信託」を設定するときの注意点
受益者の定めのない信託のポイントは以下になります。
(1)受益者の定めのない信託をする方法(信法258①)
信託契約により行うか、遺言により行うかいずれかの方法により信託することが可能です。信託宣言により(自己信託)行うことはできません。
これは、受益者がいない信託においては、受益者が存する信託において受益者が有する受託者に対する監督権限を委託者に認めるため、委託者と受託者が同一の信託では監督権が機能しないことになるためです。
(2)受益者の定めを設けることができるか(信法258②)
受益者の定めのない信託の場合、信託の変更によって受益者の定めを設けることはできません。また、逆に受益者の定めのある信託を信託の変更によって受益者の定めのない信託にすることもできません。
これは、受益者の定めのある信託と、定めのない信託では、その目的が大きく異なり、信託の設定方法や関係者の権利内容及び信託期間が相違するため、信託の変更により受益者の定めの「ある」「なし」を変更することはできないものとされています。
(3)遺言による信託の場合の注意点(信法258④〜⑧)
遺言により、受益者の定めのない信託をした場合には、委託者が存在しませんから、委託者による監督ができません。そこで、遺言によりなされる場合には、信託管理人を設定しなければなりません。
信託管理人が遺言で指定されていない場合には、遺言執行者が定められている場合には、遺言執行者が信託管理人を選任し、遺言執行者が定められていない場合には、裁判所が利害関係者の申立てにより信託管理人を選任することができます。
なお、信託管理人が不在の状態が1年間継続したときには信託は自動的に終了しますので注意が必要です。
(4)受益者の定めのない信託の存続期間(信法259)
受益者の定めのない信託の存続期間は、20年を超えることはできません。
(5)受託者に対する監督権限(信法260)
受益者の定めのない信託においては、受益者が有する受託者に対する監督権を、受益者に代わって委託者に認めています。
〔受益者の定めのない信託の税務上の注意点〕
受益者の定めのない信託は、税務上「法人課税信託」と分類され(注)、信託時に信託財産が委託者から受託法人に寄付されたものとして、受託法人としては受贈益を計上し、法人税の課税を受けます。したがって、信託をした際に信託に拠出された財産の約30〜40%が法人税の納税に充当されて信託財産が減少します。
(注):受益者の定めのない信託であっても、特定委託者が存する場合には、法人課税信託に該当しません。つまり、特定委託者を受益者とみなして課税関係が整理されます。
笹島 修平
株式会社つむぎコンサルティング 代表取締役
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