事例①:「口頭贈与」に潜む相続リスク
しかし、Aさんは普段から寡黙な性格だったこともあり、妻のBさんには何も伝えていませんでした。Bさんは、ある程度まとまったお金が入っていることは知っていたものの、生活費をまとめて多めにくれているものだと思っており、残ったお金は「へそくり」としての自分の資産だと考えていました。
夫Aさんが亡くなった際、Bさんは生活費口座として使っていた自分名義の預金を相続対象に含めていませんでしたが、のちに税務署から調査が入り、「名義預金」として相続税の対象に加えられることになったという事例があります。
【事例の概要】
■夫が生前、将来の生活費のつもりでまとめて夫の口座から妻の口座へ資金移動(たとえば、数百万円などまとまった単位)
■そのあとも、数年ごとに同様の資金移動が行われていた
■夫は妻に対して生前贈与のつもりで振込をしていたが、それを妻には伝えていなかった
■妻は夫から生前に贈与を受けた認識はなく、生活費をもらっているだけであり、残ったお金は妻の「へそくり」と認識
■税務調査時に、妻は夫と共同で財産を管理運用していたことを理由に、妻の口座にあるお金は妻固有の財産であり、夫からの相続財産ではないと主張した
【税務調査が入った場合】
名義預金の指摘を受ける可能性が高いです。一般に夫婦間で、妻が夫の財産を管理・運用することは不自然なことではなく、特段重視すべき理由にはできないと考えられます。
つまり、妻名義の口座にあるお金は「夫の財産を管理・運用するために一時的に移動されていただけ」であり、夫の口座から振り込まれたお金が原資である以上、夫からの相続財産であると判断されます。
【資産防衛術としてのアドバイス】
■贈与する場合は、贈与契約の締結を!
今回の場合、口頭でのやり取りも行われていませんでしたが、実際には口頭による贈与契約があったとしても、相続税の場合、贈与者が既に死亡していることもあって立証が困難になるため、多くの場合、税務署から認められません。
なお、贈与契約書を結ぶ場合は、贈与者、受贈者ともに署名押印し、併せて公証人役場で確定日付印をもらうことをお勧めします。あらかじめ公証人役場で確定日付をもらっておくことで、あとから贈与契約書を作成したのではないかと疑念を持たれるのを回避することができます。ちなみに、確定日付をもらうための手数料はたったの700円です(2021年5月時点)。
■夫婦間のお金の移動こそ、贈与契約書が重要!
一般的な感覚だと、親族間、特に夫婦間でわざわざ契約を結ぶのは、やり過ぎだと感じるかもしれません。しかし、こと相続に関しては、親族間や夫婦間という入出金が曖昧になりがちな関係だからこそ、特に問題視されやすいので、対策が必要になります。
■名義預金判断は、財産の「原資」を重視!
名義預金かどうかの判断は、財産管理や「運用を誰が行っていたか」ではなく、財産の「原資が誰によってもたらされたか」という点が重視されます。税務調査の場面で、税務署は銀行のデータを調べることができるため、贈与契約が結ばれておらず、利用目的が明確でない振込があった場合などは、名義預金と判断されやすい傾向にあります。
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