EV市場が抱える不安要素①:世界的な「半導体不足」
半導体は、スマホやPC等、様々な製品に利用されており、自動車にも約30個使われています。この半導体の受託生産は、台湾が世界シェアの64%を占めているのが現状です。
現在、この半導体が世界的に不足しています。その背景には、コロナ禍以降の巣ごもり需要でゲーム機やPCの販売が急拡大し、半導体メーカーが自動車向けの生産ラインをPCやゲーム向けに切り替えたという背景があります。
それに加えて、半導体不足に拍車をかけたのが、2021年に発生したサムスンの米国工場の停電と、日本のルネサスエレクトロニクスの那珂(なか)工場での大規模火災です。
その影響はかなり広がってきており、トヨタ、日産、海外メーカーは軒並み車の生産台数が減っており、全世界では150万台以上の減産を余儀なくされています。さらに、半導体の値段が軒並み上がり、車載用の半導体は1割~2割値上がりしました。通常は値引き販売していたものでも、一切値引き販売はなくなりました。
では、この半導体不足はいつまで続くのでしょうか?
世界最大の半導体受託生産メーカーである台湾セミコンダクターは、大規模な設備投資をして増産を急いでいます。ただし、少なくとも年内(2021年)は半導体不足が続くと言われており、車載用半導体は2023年まで生産数が元に戻らないという話もあります。
EV市場が抱える不安要素②:「サプライチェーン」
EVのアキレス腱と言われているのが、「サプライチェーン」です。そのなかでも、レアメタルの不足に関しては注意が必要です。なぜなら、レアメタルは生産している国が限られているからです。代表的なものを【図表3】にまとめました。
精錬済みニッケルは、中国が世界の22%以上のシェアを握っています。リチウムはオーストラリアで60%、コバルトはコンゴ民主共和国で7割近くの生産が行われています。
また、レアアース(レアメタルの一種で、スカンジウムなど15元素の総称)は中国への依存度が非常に大きく、アメリカでは約8割、日本でも約6割を中国からの輸入に頼っています。
さらに世界のリチウムイオン電池の大規模工場の生産能力は、中国が7割を占めています。つまり、EVに欠かせないリチウムイオン電池と、その製造に欠かせないレアアースの生産は、中国をはじめとした特定の国に偏っており、EV市場にとって大きなリスクです。
しかし最近では、このリスクに対応する動きも出てきています。日本、米国、オーストラリア、インドの4ヵ国でQuad(クアッド)という枠組みで連携を強化して、サプライチェーンを見直す動きが出てきています。また、米国のバイデン政権は、半導体やサプライチェーンの強化に3,000億ドルの予算を充てる発表をしました。
繰り返しになりますが、現状では、台湾が世界の6割以上の半導体を生産しています。中国が台湾へ政治的圧力を強めているので、今後6年以内に中国が台湾に何らかの軍事的仕掛けをするのではないかという見方も出てきています。
もしそうなれば、半導体が一気に手に入らなくなる恐れがあるため、バイデン政権は国内生産への舵を切ったと考えられます。
日本でも、電池材料確保のために国内企業が連合する動きが出てきています。国内の55社が連携する新団体が、2021年4月に立ち上がりました。リチウムイオン電池の材料を国内企業で連携して確保したり、新しい方法で開発したりすることが狙いです。
特に注目するのが、リチウムイオン電池からリチウムイオン電池を作る「リサイクル」です。実用化までにまだ時間がかかりますが、今後の動向に注目です。
■まとめ
EVは、今後大きく伸びるマーケットです。その一方、半導体不足やサプライチェーンの問題があります。その動向次第では、関連する会社の株価が大きく上がったり下がったりするケースも出てくると考えられます。
しかし、EV関連銘柄への投資に限らず、株式投資は株価の上下そのものではなく、①その企業がしっかり成長するのか、②事業に投資する価値があるか、の2つを見極めて中長期的に判断することが重要です。
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濵島成士郎
株式会社WealthLead
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