定額制サービスの成功は「解約率の改善」がカギ
本稿は、主なターゲットとして「集客はできているのだが、その先につながっていない企業の経営者やマーケティング担当者」を想定している。
ここでいう「その先」はクロスセル、アップセル、継続利用、他ユーザーの紹介、口コミなどのことで、要するにLTVを最大化するためのすべての取り組みのことを指している。これまではいかに低コストでコンバージョンを獲得するかが最重要指標だったが、マーケティングの目的も取り組む内容も大きく変化した。
例えばマーケティング部門や営業部門には新規顧客獲得チームが存在するが、カスタマーサクセス(解約率〈チャーンレート〉やクロスセル・アップセル、ユーザーのアクティブ率向上をKPIとして、顧客の成功体験をつくるチーム)が設置されている会社は存在しなかった。
従来のビジネスモデルでは契約成立はゴールであり、その後のサポートは「待ち」の姿勢でも問題なかったからだ。現在でも契約成立を一つのゴールとしている会社では、そこまでカスタマーサクセスに注力していないだろう。
しかしサブスクリプションモデルのように使い続けてもらうことを前提にしたサービスを提供している会社であれば、カスタマーサクセス部門を設置し、総合的に継続率の向上に取り組む必要がある。ただしその場合も、効率的に施策を行うためにツールを活用するのが望ましい。
継続率を向上させるためには解約する理由を集めて傾向を分析し、対策を練って施策に反映させなければならないが、そのためにはまずユーザーの声を集めるためにアンケートを採る必要がある。ここで重要性を大きく発揮するのが、Cookieの代替手段として出てきた「ゼロパーティーデータ」という概念だ。
ゼロパーティーデータとはユーザーから使い道に関する同意を取って集めた自社データ(ファーストパーティーデータ)のことで、アンケートもそれに該当する。つまりゼロパーティーデータを集めるための取り組みが、継続率の向上にもつながるのだ。
効果絶大の解約抑止策は「AI搭載のチャットボット」
現実問題として、解約理由をしっかり聞き出すのは難しい。やめたいと言っているユーザーに長々としたアンケートに答えさせると、SNS等で「あの会社のサービスはなかなか解約できない」などと悪評を書かれてしまう危険性もある。
そこで一般的に行われている解約抑止策は、既存会員のログイン回数、訪問頻度、注文履歴などからヘルススコアというユーザーのアクティブ度を表す指標を計算し、一定値より低いユーザーへ働きかけるという方法だ。
働きかけとは、例えば期間限定のクーポンを送る、アンケートに答えてくれれば無料サンプルを送るなどで、一定の効果は期待できる。ただしユーザーの不満や誤解が分からないため、ヘルススコアの恒久的な向上にはつながらず、結局解約されることが多くなってしまう。
一方、最新の解約抑止策はこれとは違う。例えば、AI(人工知能)を搭載したチャットボットを使えば、解約したいというユーザーと対話しながら2種類のアプローチの解約抑止策を実行することができる。
一つ目のアプローチは、対話の段階でユーザーの誤解を解き、解約そのものを防止するというアプローチだ。もう一つは、解約理由をユーザーから聞き出し、商品・サービスに対する不満や問題点をユーザーの属性と付き合わせて分析し、それを商品設計やWebでの集客方法に反映させることで、将来的に解約を減らすアプローチである。
この2種類のアプローチをどちらも実施することで、解約抑止効果は極めて高くなる。
よくある「商品が見つからないから解約」を即改善
この2種類のアプローチが有効な理由について掘り下げていく。
サブスクリプションサービスを利用するユーザーのなかには、サービス内容を誤解して解約してしまうユーザーがたいへん多く、その場合にユーザーの誤解を解くアプローチは有効に働く。
例を挙げると、VOD(Video on Demand、ビデオ配信サービス)の会社では、解約が多いためチャットボットを導入して理由を聞き出すようにしたところ、「xxという動画が見たくて入会したのに、見つからなかった」というユーザーが多いことが判明。しかし実際にはその動画は存在しており、ユーザーが見つけられないことが問題だった。そこでチャットボットに動画検索を支援するシナリオを追加したところ、お目当ての動画が見つかり、解約せずに継続する人が大いに増えたのだ。
見つけられない理由は、UI/UX(ユーザーインタフェース/ユーザー体験)の設計が悪かったからだ。それはのちにサービス設計に反映されたが、UI/UXの修正にはデザイナーやエンジニアが必要になるため、それなりの時間がかかることになる。サイトの修正が終わる前に解約を防げることはたいへん有効であり、そのためには即時的にユーザーの誤解を解くアプローチが必要だったのだ。
「将来的に解約する人」を激減させるアプローチも可能
商品アイテムやサービス機能が存在しないと誤解して解約するユーザーよりもずっと多いのが、商品・サービス設計やWebでの集客方法が悪かったために解約してしまうユーザーだ。この場合は解約理由を将来的に集客方法に反映するアプローチが有効に働く。
これも例を挙げて説明すると、とある会社では健康補助のためのジュースを提供していたのだが、量が多くて1回で飲みきれないというユーザーが多数存在した。毎月30本送ると半分ほど残ってしまい、月を追うごとにジュースが部屋に溜まっていく。ユーザーとしては解約したくなるのも頷ける状況だ。
この解決策として、一度に送る本数や配送頻度を変更できるようにサービス設計を見直した。ただしその見直しを実施するためにはサイトの修正はもちろん、業務オペレーションも見直す必要があったため実施までには時間がかかった。しかし、その後飲みきれないことが理由で解約するユーザーは激減したことを考えると、将来的に解約を減らすアプローチが有効に働いたといえるだろう。
Webの集客方法が悪いというのは、いい換えるとユーザーの期待値と実際のサービス内容にギャップがあるということだ。宣伝段階では、誇大広告にならない範囲でユーザーの期待値を高めてしまっていることはよくある。
ユーザーが期待値どおりの効果を得るためには、プロセスも重要で、当然ながら正しい方法でサービスを使用しないと効果は出ない。効果が出なかったユーザーは、正しいやり方をしていないがために効果が出なかったとしても裏切られたと感じ、最終的に解約してしまうのだ。
何事にも適切な使用法、効果を実感するまでの期間はあり、早い段階でその方法を伝えるようなサービス設計にしておけば、こうした解約を防ぐことが可能となる。
高原 英実
株式会社Macbee Planet 執行役員プロダクト本部長
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