サブスク登場で、Webマーケティングの評価指標が変化
これまでのWebマーケティングでは、どれだけサイト訪問者に申し込みさせるか、そして1件あたりの獲得コストをどれだけ圧縮できるかが重要な指標であった。ビジネス用語でいえば、WebマーケティングのKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)はコンバージョン数とCPA(Cost Per Action)だった。
しかし現在、サービス自体が大きく変化してしまった。サブスクリプションモデルが登場したことにより、1ショットの単価でのビジネスではなく、毎月・毎年の継続的な定額制課金が一つの主流になってきている。昔は売りきりのパッケージソフトであったMicrosoft Officeが、今では年額制のMicrosoft365となったことは、ビジネスマンであれば既知の事例だろう。
定額制サービスの月額使用料はかなり安く抑えられているため、ユーザーがほかの商品・サービスに乗り換えるときに発生するコスト(スイッチングコスト)も極めて低くなった。いい換えると、ユーザーはほかのサービスに簡単に切り替えることができるようになったということだ。
月額使用料が安いということは、ユーザーが数ヵ月以上継続して使用料を払ってくれないと利益が出ない価格体系になっているということでもある。よって、いくらコンバージョン数が増えても、またCPAを抑えられたとしても、獲得したユーザーが1ヵ月で競合他社のサービスに移ってしまったらまったく利益につながらない。
サブスクリプションモデルで利益を出すためには、自社のサービスに愛着をもって継続してくれる質の高いユーザーを集めることが今では必須となっている。
こうした背景から、コンバージョン数やCPAに変わって、LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)がWebマーケティングのKPIとして浮上してきている。
「ユーザー」という言葉が出てきたが、無定義で使っていた。いくつかの用語について、ここで定義しておきたい。
●ユーザー:商品やサービスを購買して使う人。消費者、生活者などと同じ意味。見込み客も含む
●事業会社:商品やサービスを提供・販売する企業
●クライアント:当社のお客さま企業
継続してくれる「質の高いユーザー」の確保が最重要
かといって、コンバージョン数やCPAなどコンバージョンに関わる指標が不要になったというわけではない。サブスクリプションモデルの多くは、獲得するユーザー数が多い一方で、解約するユーザーも多いというデータがある。
理由は前述したようにスイッチングコストが低いからだ。ということは、サブスクリプションモデルになった現在でもユーザーを獲得し続けることは重要となる。そのためにはコンバージョン数を増やし獲得単価を抑えることは当然求められる。
しかしそれ以上に、解約するユーザーを減らす、イコール継続してくれるユーザーを増やすことができれば、CPAを抑えるよりも効率的に利益を増やすことができる。よくいわれることだが、サブスクリプションでは解約率を数%減らすだけで多額の利益へとつながる。このコロナ禍のなか、米国のサブスクリプション業者は新規獲得のための広告宣伝費を圧縮して、その分を解約防止に回したところ、かなりの利益が出たという。
以上を踏まえると、Webマーケティングにおいては継続してくれる質の高いユーザーを増やすことが最重要だといってもいいだろう。
インターネット広告の「圧倒的コストパフォーマンス」
これはWebマーケティングに限らず、あらゆるマーケティングでマス(大衆)を集める時代ではなくなったということでもある。
大衆に訴求するための広告をマス広告といい、代表的なものとしてはテレビ広告、ラジオ広告、新聞広告、雑誌広告の4つが挙げられる。一昔前はマス広告が広告の主流であり、インターネットの普及とともにインターネット広告が台頭した当初は、インターネット広告も安価なマス広告のように扱われていた。
ところが従来のマス広告と大きく異なり、Web上ではユーザーを特定したり、ユーザーの個人情報を獲得したりすることが可能であり、またその技術の発達も目覚ましいものだった。ユーザーの個人データや購買履歴、行動履歴を大量に蓄積すれば、そのデータを基に極めて細かいセグメンテーション(同じニーズや性質をもつ塊に分けること)が可能になったわけだ。
何を欲しているのかよく分からない何百万人ものターゲットに向けて同じ内容の広告を打つのと、ある程度ニーズが分かっている数百人、数千人単位のターゲットに向けてそのニーズに応える商品・サービスの広告を打つのとでは、どちらのコストパフォーマンスが高いかは考えるまでもないだろう。
2019年には日本でもインターネット広告費が2兆1048億円となり、テレビ広告費の1兆8612億円を抜き去った(電通調べ)。現状マス広告にも大金が投じられているが、主役の座はインターネット広告に移ったといっても過言ではない。
高原 英実
株式会社Macbee Planet 執行役員プロダクト本部長
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