がん、糖尿病、嚥下困難、胃ろう、認知症、独居うつ、褥瘡など、様々な病気の知識を持っている方は多くても、実際に患者の声を耳にする機会はほとんどありません。本連載は、国民健康保険坂下病院名誉院長の髙山 哲夫氏が、高齢患者の声を「現役医師」の目線からお届けします。

認知症を疑った家族は、精神科受診を考えていたが

「お蔭様で90歳になり何の役にも立ちませんが、それでも家の留守居をしたり電話番をしています」

 

にこやかでいつも丁寧な物言いのHさんです。Hさんとのお付き合いはもう5年になります。5年前Hさんの認知症を疑ったご家族は精神科受診に連れて行く予定でした。ところがあいにくその診療所が休診であり、困ったご家族が私の所に連れて来たのです。

 

 

夜になると胸がえらい(苦しいの方言)えらいと騒ぎ立て、救急車で病院を受診するのですが、検査をしても何も異常ない。でもしばらくすると、また同じような発作で救急車を呼ぶ。

 

そんなことの繰り返し。病院からはまたかと見放される。

 

しかしそんなことはお構いなしにHさんの発作は生じ、えらいえらいと騒がれる。ほとほと困ったご家族は「おばあちゃんは認知症ではないだろうか」と考えられたのです。

 

おばあちゃんは認知症なのではないだろうか…(画像はイメージです/PIXTA)
おばあちゃんは認知症なのではないだろうか…(画像はイメージです/PIXTA)

胸・喉の痛みや喘息は、「逆流性食道炎」の症状かも

診察室に入られたHさんを見て化石医師の頭にある病気が浮かびました。Hさんは腰が曲がり少し前屈みの姿勢でした。「逆流性食道炎」。化石医師の頭に浮かんだ病名です。化石医師が若い頃はあまり注目されなかった疾患です。しかし食生活の欧米化の進行と高齢社会の中でとても増加し、問題になっている疾患です。

 

Hさんのような胸の痛みばかりでなく、喉の痛みや喘息も逆流性食道炎のためだと考える説もあります。

 

私達には通常は強酸である胃液が食道へ戻らないようにする機能があります。しかし年を取るとその機能が衰え、胃液が容易に食道まで逆流するようになります。特に化石医師が注目しているのは腰の曲がった方(亀背と呼ばれます)です。

 

こうした方々の胸部のX線写真をじっくり眺めていますと心臓の陰影に重なり、本来そんな場所にあるはずのない空気の影が認められます。その影は胸部のCT検査を行うともっとはっきりします。

 

なんと胃袋が心臓の裏側に存在するのです。周知のように胃袋はお腹にある臓器です。それが胸まで押し上げられているのは異常事態です。

 

本来ない場所まで胃袋が押し上げられそこに食べ物が入ったらどうなるでしょう。肋骨で囲まれスペースが限られている場所です。余分な物が入り込めば周囲の臓器が圧迫され異常を感じるのは当たり前です。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

新・健康夜咄

新・健康夜咄

髙山 哲夫

幻冬舎メディアコンサルティング

最新医療機器より大切なものは、患者さんを想う心――。著者のところには、がん、糖尿病、嚥下困難、胃ろう、認知症、独居うつ、褥瘡など、様々な病気をもつ高齢の患者さんがやってくる。地域の高齢な患者さんの声に真摯に耳を…

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