スゴいむし歯予防…衛生面に一役買っていた「お歯黒」
小難しい話を続けてしまいましたので、ここでしばし、箸休めをすることにします。
「8020運動」、80歳になっても20本以上自分の歯を持とう、全国民にすっかり定着した言葉だと思います。個人個人の、歯の健康に対する意識は、昔とは比較にならないほど高くなっており、非常に喜ばしいことです。
今、昔と書きましたが、それよりかなり昔の話をさせてください。黒船に乗ってやってきて、日本を開国させたのはかの有名なペリーです。彼は、当時の日本の既婚女性にみられる歯を黒く染める「お歯黒」という習慣に嫌悪感を抱いておりました。紅で唇を塗った赤と、お歯黒の黒の対照性をグロテスクに感じ、忌み嫌っていたとされております。
けれどもお歯黒って、むし歯予防、むし歯にかかっても進行させない、など口腔(こうくう)衛生面で一役買っていたのですよ。中に含まれるタンニンの作用だと言われております。
むし歯の予防とくれば、「歯と口の健康週間」(6月4〜10日)、ではありませんか? この前身となる「虫歯予防デー」の制定は1928年と意外に古く、口腔衛生に対する我が国の意識の高さに驚かされます。
もう一つ、「いい歯の日」(11月8日)というのがありますが、こちらの方は、1993年と、制定されてからあまり年月が経ってはおりません。
最後に、「むし歯のひどい人は、歯周病になりにくい。歯周病にかかっている人はむし歯になりにくい」という眉唾物の話を耳にされたことがあるかもしれません。
実際は、もちろん100%正しいとは言えませんが、否定することもできないのです。
前述したように、むし歯は虫歯菌が原因で、歯周病は歯周病菌が原因で起こります。両者は口の中で、一方が増えると片方は減る、といったシーソーゲームのような勢力地図を描いております。それに照らし合わせると、あながち単なる都市伝説として片づけてしまうこともできないのです。
第一のむし歯予防は「歯磨き、うがい」の徹底
ベタ中のベタですが、やはり歯みがきと、うがいをしっかりすることがむし歯予防の第一です。食べかすから作られてしまう歯垢が、むし歯菌のかたまりですから、食べかすを歯や歯肉に残さないようにすることです。
ところで、意外な話をさせてください。歯垢ができるのには、むし歯菌自体も関与しているのですが、その際、むし歯菌は酵素を出します。その酵素を利用して、ナイロンよりも強い樹脂の開発に、東京農工大学が成功したようです。むし歯菌、百害あって一利あり、かな!?
むし歯予防で有名なものに、キシリトールがあります。市場に出回っているキシリトール含有のガムは、多くのものが、60%以下の含有量です。これはキシリトールのコストが高いことに起因しております。残りの%にショ糖が入っているガムもありますのでご注意くださいませ。
歯周病は「歯磨き、うがい、年2回の“除石”」で予防
歯周病を引き起こす大きな原因は歯石です。歯石は、歯垢からできます。ですから、歯周病を防ぐには、むし歯と同様、きちんと歯みがき、うがいをすることが何にもまして大切です。
しかしながら、一生懸命に歯みがきをしても、どうしても、歯石は歯の周りについてしまいます。ですから、半年に一度、歯科医院に行き、歯石を取ってもらうこと(除石)を勧めます。
ところで、世界で初めて除石をした人物をご存じでしょうか? アブルガルジスというアラビア医学を代表する人です。知っている人はまずいないと思いますし、覚える必要もありませんね。失礼しました。
紅茶・緑茶、コーヒー、ヨーグルト…飲食物でも予防
紅茶・緑茶は、歯周病ならびにむし歯の予防に一役買ってくれる飲み物です。紅茶・緑茶に含まれるカテキンやタンニンといった、抗酸化物質が、歯周病菌、むし歯菌の繁殖を抑制してくれるからですよ。
あと、コーヒーにも歯周病を予防する効果があると言われております。歯周病の原因の一つに、先ほど述べませんでしたが、活性酸素が挙げられます。反応性の高い酸素分子のことで、過剰につくられると、生体の組織を攻撃してしまいます。
この活性酸素が歯肉の中で増えると歯肉の組織を破壊してしまうのですが、コーヒーには、活性酸素を抑える働きがあるのです。ただし、コーヒーは口臭の原因にもなります。そこは臨機応変にお願いします。
最後に、ロイテリ菌という乳酸菌がむし歯菌と歯周病菌を退治してくれることがわかっております。ですから、市販されているロイテリ菌入りのヨーグルトもお勧めです。
厳密に申しますと、乳酸菌はそのほとんどが胃酸で死んでしまいますので、ヨーグルトを食べるというよりは、お口にしばらく含んでおく、のがベストです。味云々は、その際、考えないでくださいね。
野村 洋文
木下歯科医院副院長、歯学博士
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