(※写真はイメージです/PIXTA)

相続で揉めないためには、事前の対策が必要です。そこで、「信託」を活用すると、柔軟な財産管理が可能になります。今回は、特定の相続人を除いて遺産を相続する方法を見ていきます。※本連載は、宮田浩志氏の著書『相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本』(近代セールス社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続人の母が「認知症」になったときに備えた相続対策

Q. 先日亡くなった高橋父郎は、敷地内に自宅建物と賃貸アパートを所有していました。相続人は、母子(80歳)と長男太郎(55歳)、長女の木下長子(53歳)の3人で、母子は、太郎の家族(妻・子2人)と同居中です。長子は結婚していますが子供はおらず、他県でマンション暮らしをしています。

相続人3人で遺産分割協議を行うことになり、次のような内容で話がまとまりましたが、高齢の母子の今後のこと、将来の母子の相続後のことも家族全員で話し合うことになりました。

特に、もし万が一母子が認知症になっても、財産管理等に支障が出ないようにしたいこと、長子に子供がいないので、長子が相続する賃貸アパートは、最終的には太郎の家族に引き継がせたいという母子の希望についても、何らかの形に残しておきたいと考えています。

 

<遺産分割内容>

・自宅の土地と建物は、母子と長男太郎が共有で相続
⇒母子と長男太郎の家族の生活拠点の確保

・賃貸アパートは、母子と長女長子が相続
⇒母子と長女長子の生活費を確保

 

<解決策>

高橋母子、高橋太郎、木下長子の3人全員で遺産分割協議を行います。それと同時期に3人で信託契約を2本締結します。

 

1つ目の信託契約は、母子が委託者兼受益者となり、太郎を受託者として、母子が相続した自宅の土地・建物(持分各2分の1)と現金を信託財産とするものです。2つ目は、母子と長子の2人が委託者兼当初受益者となり、太郎を受託者として、母子と長子が相続した賃貸アパートを信託財産とするものです。

 

【信託設計】

信託契約A


委託者:高橋母子
受託者:高橋太郎
受益者:高橋母子
信託財産:母子が相続した自宅の土地と建物(持分各2分の1)および現金
信託期間:母子が死亡するまで⇒≪生前の財産管理機能≫
残余財産の帰属先:自宅の土地・建物の持分はすべて長男太郎へ、金融資産は太郎、長子で折半

信託契約B

委託者:高橋母子、木下長子
受託者:高橋太郎
受益者:①持分2分の1:高橋母子⇒②木下長子
    ①持分2分の1:木下長子⇒②高橋太郎
信託財産:母子および長子が相続したアパート(+敷金相当の現金)
信託期間:母子および長子が死亡するまで⇒≪受益者連続≫
残余財産の帰属先:太郎へ

 

<要点解説>

自宅持分に関する信託契約は、母子の生前の財産管理(後見制度の代用)の機能と遺言の機能として活用するので、母子の死亡により信託を終了させて、自宅の土地・建物が長男の単独所有となるように設計します。母子の老後の資金として預かった信託金融資産で残ったものがあれば、太郎、長子で分けます。

 

賃貸アパートに関する信託契約は、その最終的な行き先を太郎の家系にしたいという希望を踏まえ、受益者連続型にします。つまり、委託者兼当初受益者は、受益権2分の1が母子、2分の1が長子としてスタートし、賃料収入を母子と長子とで分けます。

 

将来母子が亡くなった場合には、母子の受益権持分は、長子が取得することにし(結果として100%を長子が取得)、母子も長子も亡くなった場合は信託契約を終了させ、所有権の財産として太郎に渡すことを設定できます。

 

なお、実務上は太郎が亡くなる場合にも備えて、予備的受託者(第2受託者)や予備的残余財産帰属者を信託契約で定めておくことも大切です。

 

宮田浩志

宮田総合法務事務所代表

 

※本記事の事例に登場する名前はすべて仮名で、個人が特定されないよう内容に一部変更を加えております。

 

 

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相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本

相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本

宮田 浩志

近代セールス社

家族信託は、不確定要素や争族リスクを最小限に抑え、お客様の資産承継の"想い"を実現する手段として活用できます。それには、家族信託を提案・組成する専門家は実務知識を、利用を検討する人は仕組みを十分理解しておく必要が…

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