2020年のM&A市場では、業種別の件数ランキングで「下剋上」が起こった。長年、件数トップを走ってきた「製造業」を抜いて、人材派遣や介護などの「サービス業」がトップの座を奪った。海外M&Aが多い「製造業」が件数を減らし、国内勢中心の「サービス業」が件数を伸ばしたためだ。2021年に入ってからも、サービス業はM&A件数で製造業を上回っている。背景には、新型コロナウイルスの感染拡大と国内の資産価格の上昇があり、岡三グローバル・リサーチ・センターの高田創理事長は「2021年はサービス業など国内M&Aの幕開けの年になるだろう」と予測している。2020年のM&A市場と2021年の見通しについて、同社執行役員広報部長の日高広太郎氏が解説する。

株高など「資産価格の上昇」が国内勢のM&Aを後押し

岡三グローバル・リサーチ・センターの高田理事長は、資産価格の高騰が、2021年も国内勢によるM&Aを増加させると予測する。高田氏は過去の経済危機であるバブル崩壊、リーマン・ショックでは「株式の時価総額や不動産価格が大幅に下落し、日本は国富を失うと同時に、リスクテイクを可能とする資本を失った」と指摘。株式市場やM&A市場での海外への依存度が高まったと分析する。

 

しかし、今回のコロナ禍では、中央銀行の超金融緩和や大規模な財政出動を受けて、国内の資産価格が大幅に上昇している。たとえば株式市場では、日経平均株価が一時3万円と30年ぶりの高値を付け、企業の含み益が拡大。余剰資本が膨らみ、その分をM&Aなどの投資にまわすことが可能だという。

 

日本政府も中小企業の経営資源の集約化に関する税制を創設するなどM&Aを後押しする方針を打ち出している。大企業、中小企業ともに生産性や資本効率の向上が課題となる中、2021年もM&A市場の動きに注目が集まりそうだ。

「2月のM&A件数」は13年ぶりの高水準

2021年2月のM&A件数(適時開示ベース)は95件と前年同月を14件上回った。2月としては2008年(95件)と並ぶ13年ぶりの高水準に達した。新型コロナウイルスの感染拡大や政府による緊急事態宣言などを背景に、1月は53件で前年同月比21件の大幅減だったが、2月は持ち直した。取引金額は前年(2943億円)の約4倍にあたる約1兆1700億円だった。

 

月間のM&A件数が90件を超えるのはリーマン・ショック前の2008年3月(111件)以来。2月単月でも同年2月と同数で並んだ。コロナ禍で昨年は低調だった海外案件も16件と昨年2月の17件に迫った。

 

金額トップはルネサスエレクトロニクスが英半導体大手ダイアログ・セミコンダクターを買収する案件。6157億円で全株式を年内に取得する。ルネサスはここ数年、M&Aへの積極姿勢が際立ち、2017年に米インターシルを約3200億円、19年に米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジーを約7300億円で傘下に収めた。  

 

※売り手・買い手の業種ではない
[図表]M&A業種別の推移(対象企業・事業の業種を集計) ※売り手・買い手の業種ではない

 

 

 

日高 広太郎

株式会社ストライク 執行役員 広報部長

 

 

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