「4月のM&A件数」は過去10年で最多の83件
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大してから1年以上が経過し、自粛生活でできなかった消費がまとめて出てくる「リベンジ消費」に先行して、「リベンジM&A」ともいうべき現象があらわれ始めている。
M&A仲介大手のストライクが集計した上場企業が関連する4月のM&A件数は83件と前年同月を31件上回り、4月としてはここ10年間で最多に達した。ここにきてのM&A件数の急増は、コロナ禍で昨年難しくなった企業間のM&Aの交渉が一気に進み始めたことをうかがわせる。
神奈川大学経済学部の飯塚信夫教授は、M&A増加の背景について「昨年6月は業況が不安定になり、適切な価格で事業を売却できるか、うまく事業を引き継げるか懸念が高まっていたが、足元で業況が落ち着いてきたことで、経営者らがM&Aに前向きになったのではないか」と分析する。
ストライクによる3月の中小企業経営者アンケートでも、コロナ禍が「M&Aや事業承継に影響していない」との回答の比率が6割近くに上った。昨年6月の調査時には36%にとどまっており、経営者の心理が大幅に改善していることを示した。
4月M&Aは取引金額も最高、1~3月も回復傾向が鮮明
M&Aは件数だけでなく、取引金額も増えている。ストライクの集計によると、4月のM&Aの取引金額は1兆9263億円で、3ヵ月連続で1兆円の大台を超えた。前年4月は約350億円と過去最低水準に落ち込んだが、一転して4月として過去10年で最高となった。
全83件中、海外案件は28件と3分の1を占め、2016年12月(29件)以来およそ4年半ぶりの高水準だった。海外案件は昨年の同時期、コロナショックの影響で失速した後、秋口から持ち直していたが、ここへきて回復基調がより鮮明になってきた。
1~3月(第1四半期)のM&A件数は前年同期比1件減の242件だったものの、月別の推移をみると回復傾向は鮮明だ。年明け1月のM&A件数は53件と前年同月比21件の大幅減だったが、2月は急増し、前年同月比14件増の95件と月間100件に迫った。さらに年度末の3月も同6件増の94件とハイレベルを維持。2カ月連続で月間90件台に乗せるのは2008年以来13年ぶりだ。
企業の景況感改善が鮮明、M&A市場に好影響
M&Aの増加には、企業の景況感改善が大きく影響しているようだ。飯塚教授によると、日銀が昨年6月に実施した全国企業短期経済観測調査(短観)では、中小企業の業況判断がすべての業種で悪化。業況判断DIがプラスを維持したのは36業種中3業種に過ぎなかった。
一方で今年3月の調査では、回復幅には大小があるものの、すべての業種で業況判断が回復。業況判断DIがプラスの業種は9業種に拡大した。特に、ワクチン接種の加速で回復が鮮明な米国など堅調な海外経済の恩恵を受ける製造業、なかでも自動車、非鉄金属は業況が急回復した。飯塚氏は「経営者が落ち着きを取り戻しつつある」とみる。
実際、ストライクによる3月の経営者アンケート調査でも「コロナ禍がM&Aや事業承継に与えた影響はあるか」との質問に対して「ない」と回答した経営者の比率が59%にのぼり、昨年6月調査と比べて23%ポイント高まった。昨年10月時点の調査と比べても15%ポイント改善している。
「マイナスの影響がある」との回答の比率は33%となり、昨年6月と比べて20%ポイント低下した。昨年10月調査と比べても3%ポイント低下した。「コロナ禍によるM&Aや事業承継への影響がない理由」については、64%が「経営への影響がそれほどないため」と答えた。「コロナ禍の影響はあるが、M&Aや事業承継は必要であると考えているため」との回答は35%だった。
M&Aの増加の直接の原因は、超金融緩和でM&Aをテコとした企業の選択と集中の動きが活発化したほか、コロナ禍に対応して不採算子会社・事業の売却が広がったためだ。その背景には、企業の景況感、経営者心理の改善や「リベンジM&A」の動きがあるようだ。
4月のM&Aの金額上位の案件は次の通り。
日高 広太郎
株式会社ストライク 執行役員 広報部長
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