本でも映画でも、魅力的なものに出会ったときは他人と共有したくなるものだ。おすすめしたい気持ちが強いほど、その魅力を伝えるべく一生懸命に説明してしまう人は少なくないだろう。しかしながら「どう伝えれば関心を引けるだろうか?」と悩み考え抜いた文章では、かえってアピール力が弱くなることもある。他人の心に届く魅力的なレコメンドを書くには、どうすればよいのか? ※本連載は、成毛眞氏の著書『バズる書き方』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋、再編集したものです。

他人の心に響くのは「思いつきで書いた文章」

文章は一文一文悩みながら書くものではない。とくに何かをおすすめしたいときは、気のおもむくままに書いたほうが読む人の心にストレートに届く文章になる。

 

説明は必要ない。ここで書いておきたいのは「レビュー」ではなく「レコメンド」である。レビューならば詳細な説明が必須だが、レコメンドで問われるのは「自分自身がどう感じたか」だ。その点にこそ読む人は心動かされ、「買う」といった実際の行動に移すのである。

 

いってみれば、書き手がレコメンドしたものに触れる楽しみや面白みとは、読む人にとってはあらかじめ説明されるようなものではなく、みずから体験して発見するものなのである。

 

そこで変に説明しようとすると、書き手は「どう説明しようか」と考えなくてはならない。考えると筆がつっかえる。書き手がつっかえると、読む人もつっかえる。

 

要するに、どこか不自然な引っ掛かりのある文章になり、読んでいる人はおすすめを素直に受け止められなくなってしまうのだ。

あえて「おすすめしたいもの」に触れないアピール術

ここでは2例ほど挙げておこう。1つめは私の投稿だ(図表1)。ある知人の著書をすすめているが、その人がどういう背景を持つ人物か、いかに私が知り合ったか、どれほど興味深い人であるか、といった話に終始しており、肝心の本の内容についてはほとんど説明していない。

 

[図表1]筆者の投稿

 

私としては、ぜひ自分のフォロワーにも本書を読んでほしくて書いている。あなたも、投稿で何かをすすめるときには、「自分が感動したのと同じ体験をしてほしい」と思っているはずだ。

 

内容をチラ見せして、読む人の興味をかきたてるというのは常套手段だが、それだけに見飽きた感もある。

 

そこで私がやったように、内容にはほとんど触れずに「こんなに面白い人が書いた本(こんなに面白い背景があるもの)」とアピールすると、ひと味違ったレコメンドになる。しかも、より効果的だ。人は意外とバックグラウンド・ストーリーに心惹(ひ)かれるものだからだ。

 

その本の面白さは読めばわかるのだから、下手に内容を明かせば、その面白みを発見する楽しみをフォロワーから奪うことにもなりかねない。あるいは背景すらも語らず、ひたすら自分の感動を書きつづるというのもいいだろう。

言語化できない感想を「!!!!!!」で表現したら…

2つめの例は私の知人の投稿だ(図表2)。ある映画をすすめているが、映画の概要はおろか背景にも一切触れていない。

 

[図表2]筆者の知人による投稿

 

ただただ、この映画を見た衝撃と読んでいる人にも観てほしいという思いが炸裂(さくれつ)しているのだ。複数の人からすすめられて興味を持った様子を、「ふーん」ではなく「ほーん」と表現しているのも絶妙だ。当時の自分を振り返って素直に書いたら、こうなったのだろう。

 

その映画を観た衝撃を「!!!!!!」と表現しているあたりは、もはや言語化すらできていないわけだが、レコメンドの場合はこういう表現もありなのである。

 

投稿者も書いているように、この映画は事前に何も情報を入れずに見たほうが楽しめるのだろう。

 

だから内容については一切触れたくないが、ぜひとも多くの人に見てほしい。さてどう紹介しようか…と逡巡(しゅんじゅん)したかどうかは知らないが、ともあれ投稿者はひたすら自分の感情をつづることを選んだ。結果として面白いレコメンドになっている。

 

何かをすすめたいとき、余計な説明は、むしろ読んでいる人の感情の動きを妨げると心得ておいたほうがいい。文章が粗いところはのちの推敲段階で直すとして、とにかく気の向くままに書いてみることである。

 

<POINT>

●考えながら書くほど、文章はつまらなくなる。

●読み手の共感が得られるのは、思いつくままに書いたレコメンド。

●何かをすすめたいとき、説明は読み手の感情の動きを妨げる。

 

 

成毛 眞

書評サイト「HONZ」 代表

 

 

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