やらなければならないと分かっていてもなかなか始められない相続税対策。平均寿命が延び、まだ大丈夫だと思っていても、突然の病気や認知症などになってしまってからではできる対策も限られます。早めの対策が大切なことを事例を交えて株式会社福田財産コンサル代表取締役の福郁雄氏と税理士の木村祐司が解説します。

相続税対策なしで家族仲に亀裂が…

相続対策なしでは深刻なトラブルにつながることも

東京都内で戦後、機械部品の専門商社を立ち上げたAさんは、80歳を超えてもなお現役の社長として、毎日元気に出社していました。

 

Aさんの会社は1980年代後半のバブル景気の頃、年商10億円、総資産は50億円を超えるまでになり、税務署から優良法人(年間納税額5000万円以上)の表彰も受けていました。

 

しかし、バブル崩壊後、ゴルフ会員権や株式投資に失敗し、資産は半分以下に減少。事業も時代の流れに乗り切れず、経営の内情は思わしくありませんでした。

 

そんな中、昨年Aさんが突然、心筋梗塞で亡くなってしまったのです。会社はすでに専務である長男が実質上取り仕切っていますが、相続については生前にほとんど対策をとっておらず、Aさんの死後にトラブルが噴出することになりました。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

まず問題になったのは、遺産の分割です。Aさんには先妻との間に2人、今も存命の後妻との間に2人(長男もその1人)、計4人のお子さんがいます。

 

しかし、資産としてめぼしいものは会社の株式だけです。都内の白金、新橋などに時価8億円ほど土地を保有していますが、自宅の敷地も含めてすべて会社保有。しかも、その多くが会社の運転資金として毎年借り入れしてきた銀行融資の担保に入っています。

 

自社株についても、税務署の言うとおりに評価すると10億円程度になりますが、そのうち5億円分は在庫(簿価)が占めており、実際にはずっと少ないと思われました。

 

相続人、特に兄弟の間での話し合いは紛糾し、何とか遺産分割協議がまとまったのは、申告納税期限(相続開始から10カ月)のわずか3日前のことでした。

 

銀行の担保がついている不動産については、長男以外の相続人が保証人になるのを嫌ったので、わずかな預貯金を長男以外で分けるほか、担保のついていない不動産のみ共有名義にしました。

 

長男も自社株の相続で1億円近くの相続税が課せられ、新たに銀行から借り入れをするはめになってしまいました。

 

さらに問題なのは、三女(長男の妹)が認知症気味の母親を言いくるめ、母親が所有している1億円近くの金融資産の中から、長男以外の相続人に、贈与税の精算課税制度を使って1人2000万円、合計6000万円を生前贈与するという話をまとめ、実行してしまったことです。

 

長男だけが今のところそのことを知らず、いずれ新たなトラブルの種になることが予想されます。

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※ 本記事は、2015年9月19日刊行の書籍『余命一カ月の相続税対策』(幻冬舎MC)より一部抜粋・編集したもので、税制などは当時のものです。しかし、「正しい知識をもち、早めの行動をする」ことの重要性がよくわかる事例として、改めて取り上げます。

余命一カ月の相続税対策

余命一カ月の相続税対策

福田 郁雄,木村 祐司

幻冬舎メディアコンサルティング

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