日本では、相続税と贈与税は異なる枠組みになっていて、生前贈与と死後の相続では税負担額が大きく変わります。一方、欧米主要国では二つの税を統合。資産移転の時期に関係のない中立的な税制になっています。そのため“国際標準”に合わせようとする動きが活発化しているというのです。そこで相続税申告を数百件経験した相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の山田浩史税理士に、相続税と贈与税の一体化について解説いただきました。

寄付について知りたい→「寄付・遺贈寄付特集」を見る>>>

相続税と贈与税の一体化…欧米はどうしている?

これらの問題点を解消するために今後議論がされていく二つの税の一体化には、以下の点が考えられます。

 

(1) 一生累積課税

相続が発生した際、その時点で残された遺産と過去に行われたすべての贈与額の合計が相続税の対象になるというものです。アメリカの連邦遺産税・贈与税でこの方法がとられており、相続税と贈与税が一体的に課税させれる仕組みになっています。

 

なお、日本の相続時精算課税制度についても、適用後は一生累積課税となり相続税と贈与税が完全に一体化することになりますが、選択制であることや、対象者に年齢制限等が設けられているためこの制度があるだけでは問題点の解消のためには十分ではないと考えられています。

 

(2) 一定期間累積課税

相続が発生した際、その時点で残された遺産に相続開始前の一定期間の贈与額を加算して相続税を計算するというものです。諸外国では、イギリス・ドイツ・フランスなどがこの制度を導入しており、それぞれ累積期間は以下の通りです。

 

① イギリス…7年
② ドイツ…10年(贈与税についても10年間の累積課税)
③ フランス…15年(贈与税についても15年間の累積課税)

 

なお、前述したように日本にも相続開始日前3年以内の贈与額は相続財産に加算される一定期間累積課税の仕組み(相続税法第19条)は既に存在していますが、上記の通り諸外国に比べると短い期間となっています。

 

■まとめ

“諸外国の制度を参考にしつつ”というキーワードがあることから上記に挙げたような国の税制が参考にさせることは間違いないですが、実は日本にもかつて一生累積課税が導入されていた時期(昭和25年~28年)がありました。

 

しかし、一生累積課税は相続税と贈与税が一体化され資産移転の時期についての税制の中立性が確保されるメリットがある反面、過去の贈与に関する資料情報を管理しなければならない点で非常に煩雑であり税務執行が困難であるなどの理由により廃止された経緯がありますので、どちらかと言えば、相続開始前の一定期間贈与を相続財産に加算する期間を現状の3年から延長する一定期間累積課税の強化を図る方が現実味はあるのではないかと考えます。

 

現時点では具体的な改正案等は示されておらず確かなことは言えない状況ですが、生前贈与による節税対策を実行中、または検討中である場合には、その金額を増やしたり時期を早めたりすることを考えたほうが良いかもしれません。

 

劇的に納税者不利になるような改正が行われることはないと思われますが、今後の法改正議論の動向については注意深く見守っていきたいところです。

 

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧