医師国家試験合格率は地方国立大が大健闘
今回、新卒・既卒を含めた総合合格率で100%だった産業医科大学は偏差値では24位。自治医科大学は30位。大阪医科大学は34位だ。新卒合格率が100%だった和歌山県立医科大学は偏差値18位、北海道大学は24位、福井大学に至っては66位だ。北海道大学は旧帝国大学の威信を保った。
ほかに特筆すべきなのは、偏差値22位の山梨大学が、総合ランキング8位。国公私立別ランキングで2位と健闘している。そして、偏差値では68位という秋田大学が12位、3位と大健闘。私立では偏差値82位と最下位の川崎医科大学が、出願者数に対する受験者数が90%未満とはいうものの、15位、9位と大健闘している。
2020年に限らず、近年の特徴として気づくのは、かつて、評論家の大宅壮一氏が「駅弁大学」と評した地方の国立大学が健闘している点だ。 秋田大学、岐阜大学、福井大学、香川大学などがその例だ。旧帝国大学に勝っている。
ただし、その同じ地方大学でも、その近隣県の大学同士で、なぜか順位に差が出ている場合がある。たとえば、山陰では、偏差値49位の鳥取大学が31位、12位であるのに対して、偏差値57位のお隣の島根大学は70位、38位と奮わない。偏差値49位と同じ順位の香川大学と高知大学では、それぞれ23位と8位、64位と33位という差が出ている。
さらに、旧帝国大学の次に序列される旧六大学(新潟、岡山、千葉、金沢、長崎、熊本)のうち、千葉大学は16位と4位と健闘したが、岡山大学と熊本大学は、それぞれ、71位と39位、79位と43位とかなりの下位に甘んじた。
なぜなのだろう。その分析と対策は、各大学の受験指導にお任せするが、ある医学部OBのサイトを読んでいたら、次のような内容を目にした。
「医師国家試験合格率は、自由度の高い校風の大学で成績が伸びている」
それ以外の要因としては、自習環境など学内設備を整えている大学、CBT(医学部4年生が受けるコンピュータによる共通試験)を3年時に繰り上げるなど、医師国家試験対策のためのカリキュラム改革に力を入れているといったことがあるらしい。
これは医学部志望者にとっては、受験前のガイダンスで聞くべきポイントとしては見逃せないだろう。さまざまな要因をじっくりと研究してから医学部選びをすることは重要と言えそうだ。
と、ここまで医師国家試験ランキングの話に終止してきたが、よくよく考えると、合格率は、最下位の帝京大学でも79.4%(新卒86.2%)とほぼ8割だ。80医学部(新設の東北医科薬科大と国際医療福祉大学の2校はまだ受験生がいない)で、それほど遜色があるとは思えない。
もちろん先述したとおり、在籍者数と出願者数と受験者数の関係は気になるが、偏差値下位の私立大学でも、近年では、臨床実績に長けた医師を教授に招聘し、その指導・薫陶を受けた優秀な医師が育っている。そこから生え抜きの教授・准教授になっている人も増え、後進の指導にあたっている。
実際、私が取材しているなかでも、偏差値下位の医学部附属病院で、そういう優秀な医師に出会うことが多い。
その他にも、カリキュラムの充実を図り、学内設備、教育方針の拡充など、学生が学生生活のモチベーションを上げる努力をし、成果をあげている大学は多いはずだ。そういう大学の附属病院やその関連病院は、医師臨床研修マッチングでも上位に入っている。
それらを考慮すると、高校時代の成績によって、単に偏差値の高い医学部に入るのが賢明かどうかはよく考えるべきだと思う。医学部でいかに充実した6年間を過ごせて、医師国家試験合格後にどういう道を選択するかを考える方が重要なのではないだろうか。
来たる2021年2月6日、7日には、2021年の医師国家試験が実施される。合格発表は3月16日。来年はどのような結果になるのか、今から注目したい。
伊波達也
編集者・ライター