本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●米大統領選後ドル円は103円台前半をつけたが、ワクチン実用化期待で9日に105円台後半へ。
●注目は米国債の動向だが大幅な利回り上昇とドル高・円安には景気の相当強力な材料が必要。
●米10年国債利回りは緩やかな上昇が見込まれ、ドル円は当面103円~106円程度での推移か。

米大統領選後ドル円は103円台前半をつけたが、ワクチン実用化期待で9日に105円台後半へ

ドル円は104円台で11月3日の米大統領選を迎えましたが、開票後は民主党圧勝の予想に反して接戦となり、先行き不透明感からドル買いの動きが強まると、ドル円は日本時間の11月4日正午前、105円34銭のドル高・円安水準をつけました。ただ、民主党圧勝シナリオの後退で、市場は増税と過度な財政支出拡大の懸念が和らいだことを好感し、米国株は上昇、米国債利回りは低下、米ドルはほぼ全面安で反応しました。

 

ドル円はこの流れを受け、ドル安・円高が進行し、11月6日には一時103円18銭水準をつけました。しかしながら11月9日、米製薬大手のワクチン開発進展が報じられると、市場に経済活動の正常化や金融政策の正常化への期待が広がり、米国株は上昇、米国債利回りも上昇しました。日本円はほぼ全面安となり、ドル円は同日、105円65銭水準までドル高・円安が進みました。

注目は米国債の動向だが大幅な利回り上昇とドル高・円安には景気の相当強力な材料が必要

米大統領選直後のドル安・円高は、「株高を伴うリスクオン(選好)のドル安」によるものです。一方、ワクチン開発進展の報道を受けたドル高・円安は、「株高を伴うリスクオン(選好)の円安」によるものです。いずれも、株高を伴うリスクオンの反応であることに相違はありませんが、ドル円の方向は正反対です。この違いは米国債利回りに起因するもので、前者は利回り低下、後者は利回り上昇となっています。

 

そのため、今後のドル円相場を見通す上では、国債利回りの動きが重要と考えますが、日本ではイールドカーブ・コントロールが導入されており、相対的に変動が大きい米国債を注視することになります。ただ、米国でもゼロ金利政策の長期化が予想されていることから、米国債利回りが大きく上昇してドル円をドル高・円安方向へ大幅に押し上げるには、ワクチンの実用化に向けた進展など、景気にとってかなり強力な材料が必要となります。

米10年国債利回りは緩やかな上昇が見込まれ、ドル円は当面103円~106円程度での推移か

弊社では、米10年国債利回りについて、2020年12月末は0.9%程度、2021年3月末は1.0%程度を予想しており、これらがある程度、ドル円のドル高・円安方向の支えになるとみています。なお、ドル円は現在、「三角保ち合い(さんかくもちあい)」を形成していますが、先週は下値支持線をいったん下抜け、今週は戻っています(図表1)。仮に今月、105円台で取引を終えれば、三角保ち合いは失効し、当面横ばい推移が示唆されます。

 

ドル円はしばらく、103円~106円程度で推移する公算が大きいと考えていますが、世界の金融市場には米ドルが大量供給されているため(図表2)、米ドル安への注意は引き続き必要です。また、市場参加の中には、米ドル安論者と評されている米連邦準備制度理事会(FRB)のブレイナード理事が財務長官になることを警戒する向きもあり、今後は、新政権の陣容や為替政策にも注目が集まると思われます。

 

(注)データは週足で2020年1月3日までの週から11月13日までの週(ただし11月10日まで)。下値支持線は2020年3月9日のドル安値と9月21日のドル安値を結んだ線。上値抵抗線は2020年2月20日のドル高値と6月5日のドル高値を結んだ線。 (出所)BloombergL.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]ドル円の下値支持線と上値抵抗線 (注)データは週足で2020年1月3日までの週から11月13日までの週(ただし11月10日まで)。下値支持線は2020年3月9日のドル安値と9月21日のドル安値を結んだ線。上値抵抗線は2020年2月20日のドル高値と6月5日のドル高値を結んだ線。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

(注)データは2015年1月から2020年8月。ワールドダラーは世界の金融市場に米ドルがどれだけ出回っているかを測る指標。 (出所)BloombergL.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]ワールドダラーの推移 (注)データは2015年1月から2020年8月。ワールドダラーは世界の金融市場に米ドルがどれだけ出回っているかを測る指標。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米大統領選後のドル円相場の方向性』を参照)。

 

(2020年11月11日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

【ご注意】
●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものです。特定の投資信託、生命保険、株式、債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。
●当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、三井住友DSアセットマネジメント、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
●当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
●当資料は三井住友DSアセットマネジメントが信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
●当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
●当資料に掲載されている写真がある場合、写真はイメージであり、本文とは関係ない場合があります。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧