「自力で説明する」経験が、わが子の思考力を伸ばす
「お前はきっと〇〇だと考えてるんだよな?」
三者面談のときに、そんなふうに保護者の方がお子さんの考えを代弁しているのを目の当たりにし、正直心の中で頭を抱えたことがあります。その推察が仮に当たっていたとしても、これは子どもの思考力を奪う典型的なNG行動です。
理性や論理的思考力を司る「2階の脳」は、言葉を使って説明する経験を通じて成長していきます(関連記事『ジョブズも実践…子どもの「自制心・勉強意欲」が高まる脳トレ』参照)。子どもの言葉を待たずに親が代わりに言ってあげたり、何かをしてあげたりすることは、成長の機会を奪うことです。子どもの宿題を代わりにやってあげるのと同じです。
思考力を伸ばしたければ、日頃からお子さんに言葉で説明させる経験を積ませてあげましょう。そのために使うといいのが「質問」です。この項では、質問力を増すためのテクニックを紹介します。
人は話したがる生き物です。自分の話を聞いてくれる人に好感を持つようにできています。お子さんにはたくさん話をさせてあげましょう。いつも、親子の会話ではどちらが多くしゃべっていますか? 大半が親の発言で、子どもはあいづちをうったり、うなづくだけになっていたりしていないでしょうか。
「話す:聞く=1:2」を目安にしましょう。子どもが親の2倍はしゃべっている状況を作るのです。質問を通じて子どもの2階の脳を鍛えると言っても、親が長くしゃべった上で「~ということでしょ?」と聞くのでは尋問と一緒です。会話の主役はお子さんに演じさせてあげてください。
会話の基本は「復唱+返答」「復唱+質問」
では、親がすることは何か。まずは、子どもが言ったことを、そのまま繰り返しましょう。復唱するのです。復唱には「聞いている」「わかっている」ことを伝え、安心させる力があります。何度も同じことを繰り返し、親が「わかった」と言ってもやめない子は、親が本当にわかってくれているか不安なのです。同じことを親が繰り返せば、これ以上ない「わかっている」アピールになります。
鏡のように、オウムのように復唱すると、子どもが「間違ったことを言った」際に自分自身で気づくことができるようになります。他人のミスはすぐ見えても、自分のミスはわからないもの。自分の発言を人に繰り返してもらうことで、客観視しやすくなるのです。
親の返答や意見は、復唱した後で付け加えればよいのです。「~だと思ったんだね。私は~だと思うよ」と、いったん受け止めた上で返答するのです。この「復唱+返答」「復唱+質問」を会話の基本にすることを心がけましょう。
思考力を伸ばす3つの質問テクニック
質問テクニック①「5W1H」
質問の基本は、英語の疑問詞「5W1H」です。
(WHAT)具体的にどういう状況? 今、何をしているの? 今日のよかったことは?
(WHY)なぜそう思う? そうなった理由は何だろう?
(HOW)どのくらいそう思う? どんな気持ち? 今日の自分は何点?
(WHEN)いつ、どういうときそう思う?
(WHERE)どこにいるとき、どんな状況でそう感じる?
(WHO)誰と? どんな人? どの人に似ている?
特に子どもに対して有効なのは、「今、何をしたの?」です。子どもは、自分が何をしたのかわかっていないことが多いのです。トラブルを起こして騒いでいるときは、たいてい「あの子が~した」と他人の話をします。そこで「君は何をしたの?」と聞くと、そこから自己客観視が始まります。
質問テクニック②「やさしい言葉を使う」
「なんで?」「どうして?」は非常に攻撃的に聞こえるセリフです。2階の脳を鍛えたいのに、子どもが「攻撃されている」と感じてしまったら、それは直感を司る1階の脳を刺激するだけで終わってしまいます。そこで、何かとやさしい言い回しに変えてみてください。
「どうしてうまくいかなかったの?」は「うまくいかなかった原因は何かな?」「敗因は何だろう?」に、「なんでそんなことしたの?」は「その目的を教えてほしいな、どういういいことがあると思ってやったの?」に変えましょう。「原因を考える」「目的を考える」と言うだけで、少し冷静になれるものなのです。
質問テクニック③「主観的な意見の理由を問う」
「駄々をこねるだけ」を論理的思考へ導くには、自分の意見を客観視させる必要があります。そこで、主観的な発言に目を向けるのです。
感情…「面白かった」「つまらなかった」「嫌い」
評価…「頭がいい」「頑張った」「難しい」「得意だ」
親自身も、この主観的評価に敏感になってください。「成績が悪い」は全く客観的ではありません。「偏差値が50だ」という事実があったとして、それを良い悪いのどちらととらえるかは主観的な評価に過ぎません。主観的な評価は選べます。「宿題を半分終わらせた」に対して、「成長」と「焦り」のどちらを感じるかも親自身が選べるのです。そして、主観的な評価だからこそ、子どもと親の意見が異なっていてもおかしくありません。
子どもの感情の理由、評価の根拠を問うと、思考が深まります。「どうしてあの子のことを頭がいいって思うの?」から、「頭がいいって何だろう?」と考える機会が得られます。
「成績がいいから」「算数を速く解けるから」が返答なら、「なぜ成績がよければ頭がいいことになるのか」「なぜその子は成績がいいのか」「予定を立てて計画的に行動できる人こそ頭がいいのではないのか」と考えを深めることができるでしょう。「どういうところが難しかった?」から、「難しい問題とはどういう問題のことなのか」「どういう練習をすれば難しい問題と闘えるのか」を考えていくこともできます。
あるとき、生徒の宿題を増やしたところ、「多いよ! 無理!」という声が出ました。そこで、「じゃあ、なぜ無理だと思うの?」「今までの宿題にかかった時間ってどれくらい?」「今回の宿題は、それと比べてそんなに大きく変わる?」と聞いていくと、子どもたち最初の直感が大げさだったことに徐々に気づいていきました。
理由なく、根拠なく、降って湧いた「多い!」という直感は、あくまで1階の脳の判断です。過去のデータと比べて数字で考えること。2階の脳を使った冷静な判断を自力ですることは難しい。そこで親が質問を通じて考えさせ、手伝い支えるのです。
【まとめ】
子どもにたくさん説明させよう。大人は「話す:聞く=1:2」を意識する。
「5W1H」「やさしい言葉」「主観的な意見の理由」が質問のコツ。
菊池 洋匡
中学受験専門塾「伸学会」 代表
秦 一生
中学受験専門塾「伸学会」 開発部主任
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