「何を言ってもやる気にならない」という勘違い
うちの子、全然勉強しなくって…。テストの解き直しはもちろん、宿題もまともにやらない。私が子どものときには、テストで悪い点数を取って怒られるのが怖くて必死に勉強したものなのに、何度怒ってもちっともこたえなくて、どうしたらいいのかもうわからない…。
そんなお悩みを私たちはよくうかがいます。これはありがちな失敗パターンです。前項で、子どもの「勉強するべき理由」の大枠がわかっていただけたなら、あなたもこの失敗の原因にお気づきではないでしょうか。
お子さんによって、6つの動機のどれが響くかはバラバラです。じつは私たち大人も、自分の子ども時代を振り返ってみれば、6つの動機すべてが揃っていたということはまずありません。どれかが原動力になっていたのです。そして多くの人は、とりあえず「自分の経験上はこうだったな」と思い出して子どもに伝えようとします。
しかし、お子さんが親と同じ動機でやる気になってくれるとは限りません。子どもは自分のコピーではないのです。だから、もしお子さんに響かなかったら別の方法に切り替えなければいけません。それなのに、ほかの動機のくすぐり方を知らないと、同じ方法を繰り返すしかなく、「子どもがやる気になってくれない」と嘆くことになります。そうならないように、ご自身とは別の動機からもアプローチできるようになりましょう。
やる気の「入口」に火を着ける、3つのアプローチ
【報酬志向の火のつけ方】
●叱るのではなくほめる
●成果主義でなく行動主義
●良いことがあったら即ほめる
●一貫性を持ってほめる
●報酬を自己設定させる
子どもにとっては、「叱られる行動を避ける」より、「ほめられた行動をもう1回やる」ほうがわかりやすいです。一度やった行動なので、「これをすればいい」という実感が湧きます。「これがうまくいったね」「次はさらにこうしてみよう」とほめて伸ばしましょう。
叱る際も、「こういう行動をとってほしい」と明確に伝えることで、その後の行動の改善につながります。結果には偶然も多く含まれます。学習の結果には再現性がありませんが、プロセスには再現性があります。山頂にたどり着くかどうかは天気次第ですが、前より一歩多く坂を登ったかどうかは確実に評価できます。行動を見てほめましょう。
ほめ方のコツは、大まかに言うと「行動をほめる」「良い行動を見たら即ほめる」「一貫性のある基準を持ってほめる」の3つです。ほめることを通じて、お子さん本人が「これが良い行動だ」と自己判断できるようになることを目指しましょう。
【自尊志向の火のつけ方】
●近いレベルの競争相手と切磋琢磨する
●勝ち負けがはっきりするよう点数(スコア)を可視化する
自尊志向をくすぐりたいのであれば、まずは近いレベルの生徒がいる塾に入れましょう。負けっぱなしにならない環境が必要です。
ただ、塾ではちょうど良い環境を用意できても、家庭内では競争場面を作ることはなかなか難しいでしょう。親子でも兄弟でも、力の差があるので勝ち負けが固定されてしまいがちです。そういうときには、競争内容に工夫が必要です。結果を競うだけでなく、行動を競う形にしたり、ハンデを作ったりすればいいのです。
「お父さんの禁煙・お母さんのダイエット・子どもの朝学習のどれが長く続くか」
「お父さんの会計士資格の勉強時間と、子どもの算数の勉強時間を競う」
「親も同じ算数の問題を解きつつ、解答時間を2倍して子どもと比べる」
こういったアイデアを考えてみてはいかがでしょうか。
【関係志向の火のつけ方】
●目的・目標を共有し、チームの連帯感を作る
●まずは親自身が子どもにもしてほしい行動をとる
塾選びの際は、そこに通う生徒とお子さんの人間関係に注目しましょう。目標が同じ子がいるほうが、子どもは燃えます。「志望校に受かった先輩がこれをやっていた」もよく聞いて実践しようとします。
例えば伸学会では、クラス内で1週間の学習時間を報告しあったり、他の生徒に応援コメントを書きあったり、算数の問題を教えあう場面を作ったりすることで、チーム感の醸成を進めています。
家庭内では、「親も勉強する」ことが最善策でしょう。「仕事の資格をとる」「料理の本を読む」「リビングで読書する習慣を作る」といった、「親が何か新しいことを学んでいる姿」をお子さんに見せましょう。私も小学生時代は親が読書をしていたので読書にはまりました(ただ、親がテレビドラマにはまったら読書から遠のきましたが)。子どもは親を何かと真似するものなのです。
【まとめ】
報酬志向は「叱るよりほめる」「行動を・即座に・一貫性を持ってほめる」
自尊志向は「ライバルを作る」「ほどほどの勝率を取らせる」
関係志向は「望ましい友人を作らせる」「手本を親が見せる」
菊池 洋匡
中学受験専門塾「伸学会」 代表
秦 一生
中学受験専門塾「伸学会」 開発部主任