産後の夫婦関係はその先何十年を左右する。日本では「産後うつ」になる女性が30%を超えるが、男性のサポートが得られなかったことも大きな原因だろう。産婦人科院長を務める著者が、夫婦で仲良く過ごすための男性からの働きかけのヒントを伝授する。本連載は、東野産婦人科院長の東野純彦氏の著書『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎MC)から一部を抜粋した原稿です。

妻に「この子のこと愛してないの?」と非難される夫

【坂田さん夫婦の例】

 

映像制作の仕事に携わる坂田さんは長時間労働が当たり前で、平日の帰宅時間は深夜0時を過ぎることも少なくありませんでした。子どもが生まれたあと、心身ともに疲れ切っている妻をなんとか支えようと、出社前の時間を使って子どもの面倒を見たり、掃除や洗濯をしたりと家事や育児に懸命に取り組みました。

 

しかし職業柄、撮影の予定が入ると、土日でも仕事に行かざるを得ません。家族の時間が捻出できず、妻からは「家族より仕事が大事なの?」「この子のことを愛していないの?」と非難されるようになったのです。

 

家族のことが大切でないはずがありません。坂田さんはどうにか状況を変えようと職場に掛け合ってみましたが、上司は「家族のために仕事をしているんだろう。そんなことも理解できない嫁を説得しなさい」と聞く耳を持ってくれませんでした。

 

毎日納期を気にしながら仕事を進め、家では妻の機嫌を気にしながら家事と育児に励む坂田さん。次第に心の休まる時間が持てなくなり、以前まで情熱を燃やしていた映像制作の仕事にも面白さを感じられなくなりました。そんな状況を学生時代からの友人に相談し「会社では代わりがきくけれど、嫁と子どもにはお前しかいないだろう」と言われて目が覚めます。

 

このころの坂田さんは睡眠欲と食欲がなくなり、体重が激減していました。当時は会社と家庭を両立することに必死で、自分の現状を顧みる余裕などありませんでしたが、そのまま無理を続けていればおそらく倒れてしまっていたことでしょう。友人の言葉を機に転職を決意し、今では子どもの送り迎えをしながら、無理なく仕事を続けられています。

 

谷口さんと坂田さん、どちらも夫として父としての責任を果たそうと必死になっていました。二人の場合はすぐそばに信頼し、相談できる同僚や友人がいたから良かったのです

 

が、つらい状況に気がつかず、無理し続けてしまう人も多くいます。しかしその結果、困るのは妻や子どもです。

 

国立成育医療研究センターの調査によると、父親がうつになった場合、産後2カ月の時点で虐待傾向の行動を取るリスクが4.6倍も高くなることが分かっています。具体的に「つねる」「お尻をたたく」「入浴や下着の交換を怠る」「大声で叱る」といった行動です。

 

虐待をせずとも、読み聞かせをしなくなったり、一緒に遊ばなくなったりと、子どもへの愛情が薄くなり面倒を見なくなることもあります。

 

産後で弱っている妻と産まれたばかりの子どもを守ってあげなくてはいけない。父親になった責任を感じるからこそ抱えるストレスですが、それに押し潰されてしまっては元も子もありません。

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知っておくべき産後の妻のこと

知っておくべき産後の妻のこと

東野 純彦

幻冬舎MC

知らなかったではすまされない「産後クライシス」―― 産後の妻の変化、訪れる最大の離婚危機…… カギを握るのは夫の行動!? 女性の生涯に寄り添ってきた産婦人科医が伝授する夫婦円満の秘訣とは

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