車の損傷が大きいほど、ケガの症状は軽い?
交通事故で一番問題になるのが、追突事故。いろんな患者がやってくるが、車がグシャグシャになるような事故の患者は、ケガの症状が軽いことが比較的多い。それは衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンに入ったときの状態で、車が「グシャッ」と潰れながらも、急激な衝撃が体に伝わらないのだ。車が最大限に衝撃を吸収してくれるので、人体への影響が少ないということ。F1なんかでも、グシャグシャになった車体からドライバーが平気で出てくる。いい意味で、車が壊れてくれている。
車の破損が少ないときほど、ケガの重症化に注意しなければならない。追突時に車が変形する直前の衝撃が一番大きく、体に障害が出やすいのだ。試しに生卵を金槌で叩いてみると、よく分かると思う。金槌で真横から強く叩いた卵は、当然ながら割れる。割れたら卵は転がらない。だが、「コツン」と軽く叩けば、卵は遠くまでコロコロと転がるだろう。割れる手前の瞬間が一番転がるということ。
実際の事故でいえば、「トン」と軽くぶつけられたときは、首や腰に瞬間的にものすごい力が加わる。それはのちに、被害者がもともと持っていた弱点や素因を表に引きずり出す。検査等で明らかな損傷がないから「大丈夫」などと決め付けずに、元からある所見を見落とさないこと。小さい事故ほど要注意。
「たいしたことない」「大丈夫だろう」という事故ほど、実は一番大変だったりする。特に、運転席の座り方でも、衝撃を受ける度合いが変わったりする。運転するときに、ほとんどの人が、ヘッドレストと頭の間に、拳ひとつくらい隙間が空いていることが多い。その場合、万が一事故に遭うと、体はシートと一緒に動いて、頭だけが残った状態になり、「せん断」という現象が起きる。
ダルマ落としで頭が残るのと同じ。車を運転するときは、シートをできるだけ直角にして、ヘッドレストと頭の隙間をできるだけ少なくして座ること。
むち打ちじゃなくて「せん断」。