「きつい」と言えない妻には「観察」を
ところが、奈々子さんは八つ当たりしているわけではありませんでした。努力家で責任感の強い彼女は、多少体調が悪かったとしても、そんなそぶりをいっさい見せまいと努めてきたのです。微熱くらいで寝込んでしまっては家庭を切り盛りすることはできない。
ましてや、一人ではまだ何もできない赤ん坊が目の前にいるのだから、泣き言をこぼすわけにはいきません。だから、きつくても疲れていても頑張り続けていたのに、夫は微熱で大騒ぎをしている。「私はいつも我慢しているのに」と不公平な状態にあることに、不満爆発してしまったのです。
「きついならきついと言ってくれれば手伝うのに」と思うのが男性です。しかし、母親になった女性たちは「自分がしっかりしなくちゃ」と常に気を張っています。
自分から「きつい」と言えない妻に対して、必要なのは「観察」です。無理をしていないか、平気なふりをしていないか、普段と違う様子はないか。観察をして気づくことができれば、優しい声をかけられます。
妻が求めているのは励ましの言葉や応援する言葉ではなく、「いつもありがとうね」「つらくない?」という労いの声かけなのです。それだけで「私のことを見てくれている」「大切にしてくれている」と感じ、優しい気持ちになります。
妻も本当は、夫に優しくしたいと思っています。しかし、それだけの余裕がないのです。夫としてできることは、妻の心に余裕がないと思ったら手を差し伸べてあげること。それだけで二人の関係はぐっと改善されるでしょう。
東野 純彦
東野産婦人科院長