「海外に移住予定のない日本人」が、海外資産を持つべき理由

日本から出る予定がなければ、「円資産があるから海外資産は不要」だと考える方は少なくありません。今回は、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社・グローバル資産形成研究所所長の加藤航介氏が、諸外国と比較しながら、「生活の基盤と金融資産の投資先を分ける」必要性について解説します。

投資先を「生活の基盤」という観点から考えてみる

今までのマインド・セット:生活の基盤と、金融資産の投資先を一致させる

新しいマインド・セット:生活の基盤と、金融資産の投資先を分ける

 

海外投資について、「私は一生、日本に住み続けるので外貨預金や海外への投資は必要ない」という声をよく聞きます。

 

私は世界3ヵ国に住み、約30ヵ国で仕事をしてきましたが、日本は、治安、おもてなし、健康・長寿、文化、インフラなどの点で、世界に比較して大変素晴らしい国です。

 

世界の多くの国では他国への移住を望む方が多くいますが(たとえば、私の友人の韓国人、インド人、中国人などはアメリカやカナダに移住しました)、日本では自国で一生生活の基盤を築きたいと思っている方が多いのではないかと感じます。

 

「日本に住み続けるなら外貨預金や海外への投資は必要ない」は、正しいのか
「日本に住み続けるなら、外貨預金や海外投資は不要」は正しいのか

 

「自分の生活の基盤と金融資産の保有・投資先を一致させる」という考えは、とてもシンプルでわかりやすいといえます。その考えで人生を過ごしている代表的な人々は、アメリカ人です。アメリカ人の多くは生涯を自国で暮らし、アメリカ株とアメリカ国債という自国の金融資産への投資のみで人生を送ることが一般的です。

 

近年、急成長してきた”FAANG”*1といわれる巨大IT企業は全てアメリカの上場企業であり、アメリカのみならず、世界中で利益を得ています。アメリカ国債や米ドルは、世界最強の軍事力に守られた世界でもっとも安全な資産だといえます。

 

*1…Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Googleの頭文字を取った造語

かつてのヨーロッパ貴族や昭和の日本を振り返る

さて、アメリカと正反対の考えをもっているのが、ヨーロッパの富裕層です。かつてのヨーロッパ貴族は、一族の資産や子供の教育を自国外へ分散させる知恵をもっていました。ロスチャイルド家が、一族の五人の息子をフランクフルト、ウィーン、ロンドン、ナポリ、パリに別々に送り出した話などが有名でしょう。

 

これらは、自国が戦争に負けるなどの万が一の時に、財産を失ってしまうリスクへ備えるための、資産家たちの知恵でした。「たまごを一つの殻に入れるな」という分散投資の発想です。

 

そして、現代でもヨーロッパの人々や、自国の経済や政治が不安定な新興国の人々は、かつてのヨーロッパ貴族の知恵を参考にしているように見えます。

 

 

ヨーロッパでは、すでに地域通貨の「ユーロ」が生活通貨になっており、普通に銀行預金をするだけで、複数国へ外国預金をしている環境となっています。また、特にインフレ率が高く、自国通貨資産の価値が下落しやすい新興国では、米ドルやユーロなどの世界の主要通貨で資産形成を組み立てるのが一般的です。これらはアメリカ人の考えとは正反対であり、彼らは、自分の生活の基盤がある場所と、金融資産の投資先を同じにしないのです。


2つの考え方は、それぞれ一理あるように思えますが、どちらが正しいのでしょうか?

 

その答えは「自国の経済環境と、時代によって正解は異なる」と考えます。過去の日本の例で考えてみましょう。

 

昭和の日本経済は世界と比べより高い成長を遂げ、株や土地の価格も大きく上昇しました。また為替も、1米ドル360円から200円、100円と強くなりました。その結果、日本人の給料や円資産は、世界基準(米ドルなど)で飛躍的に上昇することになりました。

 

かつての日本人の豊かさは、海外旅行、ドイツ車やフランス製革製品の購入などに現れていたと思います。このような時代において、生活基盤と金融資産の投資先を揃えるのは大正解の選択だったといえます。

 

一方、平成の時代では、日本と世界の経済成長率は逆転し、日本人の給料の伸び率が世界に大きく見劣りする30年が続きました。為替は平成の始まりと終わりで1米ドル100円前半と、ほぼ横ばいの水準にとどまったものの、日本人の世界基準で見た豊かさは少しずつ低下したことになります。

 

また、この期間の日本資産の利回りも、海外と比較して大きく見劣りしました。たとえば、平成時代の日本株式(TOPIX)がほぼ横ばいのなか、同期間の世界株式指数(MSCI World Index)は世界経済の堅調な成長を背景に大きく上昇しています。

令和の時代、どちらのマインド・セットを持つべき?

さて、私たちは、令和の時代を生きるにあたって、昭和の日本人や現在の米国人、もしくはかつてのヨーロッパ貴族、どちらの考え方を持って人生を過ごすべきでしょうか?

 

結局、「自国の長期の経済成長を、世界より高く見込めるのか」が、この選択の大切なポイントだといえます。日本が世界より一貫して高成長であった昭和は30年以上も昔の話であり、平成の実績や今後の少子高齢化の流れを考える限り、昭和のマインド・セットを令和にそのまま持ち込むのは正しくないでしょう。

 

そして、現在の米国は生活基盤と投資先を一致させるという合理性がある数少ない特殊な国であり、その投資の考え方は、日本が模範とする事例ではありません。

 

これからの時代、私たちが令和の時代を生きるにあたっては、世界の多数の人々と同じく、「生活の基盤と金融資産の投資先を分ける」という新しいマインド・セットが求められます。人生100年時代、これからの時代に合った投資のマインド・セットをもち、皆で幸せな人生を歩んでいきましょう。

 

 

加藤航介

インベスコ・アセット・マネジメント株式会社

グローバル資産形成研究所所長

インベスコ・アセット・マネジメント株式会社 グローバル資産形成研究所 所長

幼少より、両親の影響から「世の中のしくみ」や「日本と世界の違い」について興味を持つ。大手日系資産運用会社にて日本株式アナリストとしてキャリアをスタート、その後、世界株式アナリスト、世界株式ファンドマネージャー、プロダクトマネージャーなどに従事し、資産運用業一筋20年。「投資の本質」を考えながら約10年間をロンドン、ニューヨークで過ごし、米州、欧州、アジアなど世界約30ケ国を訪れての経済・企業調査を実施。グローバル視点での社会のしくみ、世界の人々の多様なライフスタイルや幸せへの価値観について、豊富な知識を持つ。2015年1月、インベスコに入社、2020年2月より現職。米国コロンビア大学MBA(経営学修士)修了。米国公認会計士、ファイナンシャル・プランナー、証券アナリスト試験に合格(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員)。一般社団法人 投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」客員研究員。「実経験が大切、顧客とは同じ船に乗る」との考えから、自らもグローバルな資産運用を行う投資家でもある。

著書に、お金と投資の付き合い方の本「世界を見てきた投資のプロが 新入社員にこっそり教えている 驚くほどシンプルで一生使える 投資の極意」がある。

 グローバル資産研究所ホームページ


http://www.invesco.co.jp/Institute_Global_Investment_Learning/index.html

著者紹介

連載インベスコ・グローバル資産形成研究所レポート「100年時代のお金について考える」

※本記事は、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社のインベスコ グローバル資産形成研究所レポート「100年時代のお金について考える」Vol.3として公開されたものです。

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