日本における一般的な相続財産の内訳は「自宅と多少の預貯金のみ」というケースでしょう。そこで、自宅は分割できないから兄弟で仲良く共有しよう…という安易な選択をすると、あとあと大きなトラブルを引き起こしかねません。争いを避け、相続を無事に乗り切るには、自宅などの「物理的な分割が難しい財産」をいかに平等に相続するかが重要です。※本記事は、税理士法人・社会保険労務士法人タックス・アイズ代表 五十嵐明彦氏の著書『親が元気なうちからはじめる後悔しない相続準備の本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より一部を抜粋し、被相続人である親自身が取り組むべき相続対策を解説します。

分けられないものを「平等に相続」する方法

親が残してくれたのは、多少の預貯金と自宅のマンション一室のみ。

 

住む家にかかるお金が世界一高いといわれている日本では、相続はこのようなケースが最も一般的かもしれません。実際、国税庁のデータによると、「相続財産に占める不動産の割合は42%」となっています。

 

自宅と預貯金を子ども2人で相続するような場合、「自宅も預金もそれぞれ半分ずつ相続したい」と考える方も多いのですが、問題は、自宅は2つに分けることができないということです。

 

現金や預金は簡単に分けることができますが、家やマンションといった不動産は物理的に分けることができません。不動産がいくつかあれば、兄弟で1つずつ分けることもできるのでしょうが、「不動産は自宅だけ」という方がほとんどですから、2つには分けられません。

 

そこで、兄弟で平等に相続するためには、1/2ずつ一緒にもつことになるのですが、これがあとで大きな問題を引き起こします。

 

そもそも、不動産を相続するには、次の4つの方法があります。

 

●現物分割

●換価分割

●共有

●代償分割

 

[現物分割]

これは、不動産そのものを物理的に分ける方法です。ただし、自宅しかない場合には、物理的にこの方法は難しいというのが現実です。

 

[換価分割]

これは、不動産を売ってお金に換えてから分けるという方法です。この方法もわかりやすくていいのですが、家は誰かが住んでいると売れないということと、売却することによって所得税がかかってしまうという欠点があり、使えないケースが多いです。

 

[共有]

平等に分けることができ、所得税もかからない方法として、「兄弟で一緒にもつ」のが共有です。相続ではこの共有が選択されることが多いのですが、共有にはさまざまな問題があります。兄弟それぞれ、生活が順調なときには問題が生じないのですが、どちらかに緊急でお金が必要となった場合に、家やマンションを売ろうとしても、共有している人の同意が得られなければ、売却することができないからです。また、共有が兄弟同士で収まっている間はいいかもしれませんが、どちらかが亡くなれば、その子どもたちが共有者に加わることになったり、配偶者が共有者に入ったりして、共有している人たちの関係はどんどん複雑になっていきます。自分たちだけのときは、よく知った兄弟同士だからいいですが、子どもや孫の世代になったときに、争いや面倒のタネになることもあります。

 

[代償分割]

これは、不動産を相続する人が、不動産を相続する代わりに、ほかの相続人にお金(など)を支払う方法です。あまり知られていないのですが、意外と使い勝手のいい方法です。

 

たとえば、相続財産が評価額5,000万円の自宅と、1,000万円の預貯金しかない場合。兄弟2人が仲良く3,000万円ずつ分けたいと思っても、自宅は今後も自分が住むので自分が相続することにすると、平等に相続することができません。

 

そんなとき、自宅は自分がすべて相続する代わりに、自分が現金2,000万円を兄弟に渡すようにするのです。そうすれば、ちょうど半分になりますよね。

 

もし、自分に預貯金がなくて一度に2,000万円を支払うことができない場合は、分割払いにしてもかまいません。

 

このように、不動産を兄弟で共有することは極力避けて、モメずにどちらかが相続できるような手はずを整えることで、不要な争いを避けることはできるのです。

 

 

五十嵐 明彦
税理士法人・社会保険労務士法人 タックス・アイズ 代表

子どもに迷惑かけたくなければ相続の準備は自分でしなさい

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五十嵐 明彦

ディスカヴァー・トゥエンティワン

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