3月後半以降安定性を増しつつある米国株式市場
新規感染者数には引き続き注意が必要
■米国株式市場は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による経済・企業業績の悪化懸念を背景に、2月後半以降大きな下落局面となりました。結局、S&P500種指数は年初から3月23日の安値まで約40%下落しました。
■新型コロナウイルスの米国での新規感染者数は4月上旬まで大きく増加しましたが、3月23日の米連邦準備制度理事会(FRB)の無制限の量的緩和の開始、3月25日の米議会での2兆ドル規模の対策合意などを背景に下落に歯止めがかかりました。
■4月6日以降、新規感染者が趨勢的に減少し始めてから、政策の中心は中小企業を中心に信用力を支援する対策にシフトしています。FRBが米財務省からの信用補填を利用し、2.3兆ドルに及ぶ貸出支援策を発表したことなどから、株式市場は回復傾向を維持しています。ただ、新規感染者数はここにきてやや増加傾向を示しており、引き続き注意が必要です。
けん引役は「情報技術」と「ヘルスケア」
年初から高値までと安値から足元までで、けん引するセクターに変化
■今年に入り、新型コロナウイルスが米国中に広がり始めて以降、セクター間のパフォーマンスに乖離が生じています。下記の図表は、セクター別株価指数の騰落率ですが、(1)年初来高値までの上昇率、(2)高値から安値までの下落率、(3)安値から足元までの戻り率、の3つの局面に分けて整理しました。新型コロナウイルスの感染拡大と都市封鎖(ロックダウン)の影響で、けん引するセクターから「公益」、「不動産」が後退し、「ヘルスケア」が台頭しました。
■すべての局面でS&P500種指数を上回ったセクターは、「情報技術」、「一般消費財・サービス」でした。
■局面(1)でS&P500種指数を上回ったセクターには「公益事業」、「不動産」が含まれていました。
■局面(2)で下落率が最も大きいセクターは「エネルギー」で▲61.1%でした。「エネルギー」は新型コロナウイルスの感染拡大に加え、原油価格の大幅な下落による業績悪化懸念が背景です。他のセクターも企業の信用不安の拡大やロックダウンの影響などが現れました。「金融」が▲43.1%、「資本財・サービス」が▲42.6%、「不動産」が▲38.9%などでした。
■局面(3)では「エネルギー」が+51.3%と大きく反騰しました。また、「ヘルスケア」、「一般消費財・サービス」、「情報技術」など軒並み+30%以上の回復となりました。
共通点に注目~コロナと共生・共存するための新時代の必須「キット」
■こうした環境の中、市場平均を上回る上昇率を達成しているセクターの共通点は、新型コロナウイルスと共生・共存する新時代の必須「キット」を生み出す点だと考えられます。足元では、新型コロナウイルスへの対応が注目を集めていますが、より中期的な視点に立てば、「デジタル化」の流れが加速する環境に至ったのだと思われます。以下では、市場平均を上回ったセクターの概要を整理しました。
■情報技術
5月14日現在、「情報技術」は年初来の水準を回復しました。そのけん引役となったサブセクターは「ソフトウエア」、「コンピュータ周辺機器」、「半導体」などです。それぞれの代表的な銘柄が、マイクロソフト、アップル、エヌビディアなどです。マイクロソフトは新型コロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンの混乱もリモートワークの恩恵などで利益の悪化が相殺され、またクラウド需要の急拡大が恩恵をもたらしています。アップルはオンライン学習の需要が伸びるなど、これまでの多角化が業績のブレを押さえているようです。今後は中核のiPhoneをベースに、世界各国・地域のロックダウン解除で経済活動の回復が見通せるかどうかが重要です。
■ヘルスケア
「バイオテクロノジー」、「医薬品」がけん引役となっています。ギリアド・サイエンシズやJ&Jなどが含まれます。いずれも、新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンの開発など、その使用開始が待ち望まれている企業です。今後は情報技術のイノベーションとの協調が重要になると期待されます。
■一般消費財・サービス
「小売り」がけん引役となっています。サブセクターは「インターネット販売」で、中心はアマゾン・ドットコムです。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、移動や外出が制限されたことでオンラインショッピングが拡大しました。
■コミュニケーション・サービス
中心は「メディア・サービス」です。FaceBook、Alphabetが含まれます。
■生活必需品
「家庭用品」がけん引役となっています。消毒液など身の回り品ですが、P&Gなどが含まれます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米国株式市場~市場平均を上回るセクターの共通点』を参照)。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
(2020年5月18日)
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