●海外資本への依存度が高い新興国は、有事の資本流出リスクと通貨安のリスクを常に抱えている。
●要注意通貨を、対外債務・外貨準備比率や経常・財政収支の対GDP比率、インフレ率で確認。
●海外資本に大きく依存し、インフレ率が高い国はアルゼンチンで、トルコも通貨安には注意が必要。
海外資本への依存度が高い新興国は、有事の資本流出リスクと通貨安のリスクを常に抱えている
新興国は一般に、国内経済が十分に発展しておらず、民間部門も政府部門も、資本不足の傾向にあります。そのため、企業の設備投資や政府の公共投資などは、海外からの借り入れ(海外資本)に依存しています。海外からの借り入れが増えると、対外債務残高が増加し、それが政府部門であれば、財政赤字が拡大します。また、国内の貯蓄投資バランスが投資超過(貯蓄不足、すなわち資本不足)の場合、経常赤字になります。
つまり、対外債務残高と双子の赤字(財政赤字と経常赤字)が大きい新興国は、海外資本への依存度が高く、有事の資本流出リスクを常に抱えているといえます。対外債務は米ドル建てが多いため、いったん資本流出が意識されると、為替市場では、海外資本依存度の高い新興国通貨が対米ドルで大きく下落することになります。
要注意通貨を、対外債務・外貨準備比率や経常・財政収支の対GDP比率、インフレ率で確認
今回のように、コロナショックで世界的に景気が減速する局面においては、海外資本への依存度が高い新興国の通貨には売り圧力が強まりやすくなるため、十分な注意が必要です。それでは、具体的にどの新興国の通貨に警戒すべきか、以下、確認して行きます。手順として、①対外債務残高・外貨準備預金残高比率、②経常・財政収支の対GDP比率、③インフレ率、という3つの項目をチェックします。
①は、対外債務残高が外貨準備預金残高で賄われているかを判断するもので、②は、双子の赤字か否かを判断するものです。①の数字が大きく、②の双子の赤字が確認されれば、海外資本への依存度が高いと考えられます。③は、持続的な経済成長を実現するために、政府の財政政策や中央銀行の金融政策が適切に行われているかを判断するものです。ここでは5%を目安とし、それを大きく上回る国の通貨は下落リスクが大きいと考えます。
海外資本に大きく依存し、インフレ率が高い国はアルゼンチンで、トルコも通貨安には注意が必要
主な新興国10ヵ国について、3つの項目をチェックし、まとめたものが図表1です。①では、タイを除く9ヵ国の対外債務残高が、外貨準備預金残高を上回っています。②では、6ヵ国が双子の赤字となっています。ロシアは双子の黒字ですが、最近の原油安の影響で、先行きが懸念されます。③では、アルゼンチンとトルコのインフレ率だけが5%超で、いずれも2桁に達しています。
図表2は、3つの項目について、該当すれば〇、該当しなければ×をつけて、10ヵ国を比較したものです。3項目すべて該当した要注意国(対外債務残高が外貨準備預金残高を上回り、双子の赤字を抱え、インフレ率が5%超)はアルゼンチンでした。ただ、該当が2つの項目にとどまった国のなかでも、トルコはインフレ率が15%を超えており、こちらも通貨安には注意が必要と思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『注意すべき新興国通貨』を参照)。
(2020年5月11日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト