「妻がずっと専業主婦」の場合、受け取れる年金は?
◆結婚も卒業?熟年離婚という選択も
筆者のもとに多いご相談は、「離婚をしたら年金がどのくらいになるか」というものです。
人生、山あり谷あり。愛し合って結婚した夫婦にも離別のときが訪れることもあるでしょう。価値観の相違などは如何(いかん)ともしがたく、ストレスを抱えながら生きるより、さっさと離婚したほうがいい場合も多いと思います。実際、離婚原因のトップは性格の不一致だとか。
収入があれば、離婚して人生をやり直すことが可能です。リタイアメントへの助走は、夫婦関係を見直す最後のチャンスかもしれません。
熟年離婚はしてもいいと思いますが、収入はぐっと減ることを覚悟して周到な準備をする必要があります。大抵の場合、婚姻期間中に築いた財産は折半になりますが、考えなくてはならないのは老後です。年金生活は苦しくなると覚悟することが必要でしょう。
ずっと妻が専業主婦の場合、婚姻期間中の夫の老齢厚生年金は折半になります。たとえば、婚姻期間30年間の老齢厚生年金額が月額10万円の場合は半分の5万円です。自分の老齢基礎年金と合わせて、多くても12万円弱ということですね。ともに会社員の場合は、老齢厚生年金を合算して半分に分割します。妻の収入のほうが多い場合は、夫へ年金を渡すことになります。
自営業の場合は、老齢厚生年金がありませんので、20歳から60歳になるまでの40年間の全期間保険料を納めた人は、満額で約78万円、月6万5000円ほどです。これは分割対象にはなりません。
リタイアメントへの助走期間にできることは、公的年金を増やすことです。今専業主婦の人は、しっかり働いて、自分で社会保険料を納めましょう。離婚をするなら当然ですが、老後のおひとりさま対策として一生受けとれる自分の年金額を増やすことです。
「150万円の壁」…年収130万円の主婦にはどう影響?
2018年1月から、夫の「配偶者控除」がストップする妻の収入が「150万円」になりました。今まで言われていた「103万円の壁」が「150万円の壁」になったのです。夫の所得によっても違いますが、妻の収入が150万円を超えても、段階的に「配偶者特別控除」が受けられますから、夫の年収は大きくは減りません。
しかし、妻のほうは、週30時間以上130万円を超えて働くと、夫の社会保険の扶養から外れて、自分で社会保険料を支払わなければならなくなります(従業員501人以上の会社では、週20時間を超えて働いたら106万円超で厚生年金に加入。労使合意がある場合は、従業員500人以下の企業でも同じ条件で厚生年金に加入)。
たとえば、131万円稼ぐと、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料の合計が約19万8000円になり(H31年4月分〈令和1年5月納付分〉から。東京都の場合)、手取りはその分、減ることになります。
しかし、ここで「ソン」と思うのは間違いです。自分で社会保険に入ることで将来もらえる年金は増えるからです。厚生年金に加入することになるので、将来、老齢基礎年金に上乗せして老齢厚生年金を受け取ることができるのです。
では、元の手取りを回復するくらいに稼ぐとどうでしょう。年収約155万円とした場合、保険料は年間約22万6000円です。10年間保険料を納めるとすれば、受給年金は約8万5000円上乗せされます。終身で受け取れますから、特に寿命の長い女性にとっては心強い限りです。
もう少し頑張って、年収約300万円を稼ぐようにすれば、年金保険料は約47万円になりますが、10年働くと年金額は16万4000円上乗せされます。会社が保険料を同じ金額支払ってくれるので(労使折半)、このように年金額が効率的に増えるのです。また、基礎年金部分も1年につき約2万円増額されます(480月まで)。さらに、自営業や自営業の妻など第1号被保険者の人は、次のような方法で年金を増やすことができます。
① 40年(480月)の保険料納付済期間がない人は60歳以降も任意加入をする。
② 月額400円の付加保険料を納めると、「200円×付加保険料納付月額数」の付加年金を受け取ることができる。付加保険料を10年間(合計4万8000円)納めると、65歳から老齢基礎年金に年額2万4000円が上乗せされます。もちろん一生涯受け取ることができます(国民年金基金加入者は付加保険料を納めることはできません)。
③ 国民年金基金に加入する。一口いくらの掛け金を納めることで、65歳以降、老齢基礎年金に上乗せして年金を受け取れます(イデコと併用する場合は、拠出金の合計金額の上限は6万8000円)。
年金を増やすには「繰り下げ受給する」という方法もあります。年金受給を70歳まで繰り下げることで、「繰り下げた月数×0.7%」が増額されます。65歳で受給するよりも、70歳まで繰り下げることで、「42%」も年金額を増やせます。老齢基礎年金しかない人も、78万円が約110万8000円になります。
付加年金も老齢年金に合わせて繰り下げられ、同じ割合で増額されます。増額率は一生続きます。ちなみに、65歳より早く受け取ることができる繰り上げもありますが、月に0.5%減額されます。付加年金も同じく減額されます。
岩城 みずほ
ファイナンシャル・プランナー/CFP認定者