お金のプロは、結局「金融商品」を売りたいだけ
◆金融商品から入るのはNG
「寿命が延びているし、長生きをしたら、老後資金が足りなくなるのではないか」と不安を持っている人は多いでしょう。
そんなとき、銀行や街の保険乗り合い代理店、大手のファイナンシャルプランナー(以下FP)事務所(お金について総合的にアドバイスにのるという形ですが、保険代理店です)に相談に行く人がなんと多いことか――餅(もち)屋は餅屋、お金のことならプロに相談すればよいと思っているのでしょうが、それは大きな間違いです。
たとえば、銀行の窓口で、「老後資金を増やしたくて」などと相談すれば、「それなら外貨建て個人年金保険がよろしいのではないでしょうか」「こちらの投資信託は今、非常に売れ筋ですよ」とすぐに商品が出てきます。結論から言います。
「すぐに金融商品を買ってはいけません。金融商品を選ぶのは、いくつかのことを考えた一番最後です」
そして、金融商品を売っている人のアドバイスは聞いてはいけません。なぜなら、彼ら銀行員は、販売員であり、アドバイザーではないからです。保険ショップのアドバイザーやFP、証券会社のセールスの人も同じです。
彼ら彼女らはみんな、一応、あなたのニーズや目的、何年くらい運用できるかなどを聞いてはくれるでしょう。でも、結局は、金融商品を売りたいのです。売ることが目的です。アドバイスは、商品を売るための道具にすぎません。
あなたが、自分の老後の不安について正しく合理的な解決方法を望むなら、相談すべき人が違います。
彼らの話を聞いて金融商品を購入し、問題が生じてご相談にいらっしゃる方があまりにも多いので、私は、最近、資産形成をするときにまず避けなければならないのは「人のリスクだ」と考えるようになりました。
老後不安を解消するために、「じゃあ、個人年金保険に入ろう」「外貨建て養老保険を買おう」など、すぐに商品を買わないことです。また、短時間で成果を出そうとしないことです。50歳代という年齢で、定年までに投資で資産を2倍3倍にするなど普通は不可能です。うまい話はありませんし、特別に儲かる商品はありません。
「必ず増えます」「元本割れしません」「高金利です」などと商品を勧められたら「そんなうまい話はない。カモにされようとしているのではないか」と疑ってください。
西欧では「厳しい規約」がある一方、日本は…
アメリカなどでは、「大切なお金でどんな商品を買うのかを決める前に、誰をアドバイザーとして選ぶかを決めることが大切だ」と認識する人が増えています。
生活者は、投資を始めるときには、顧客の利益を一番に考えて、そして実行してくれるアドバイザーを選ぶことに労力を費やします。十分な訓練を受けていて経験豊富で、プロフェッショナルとして信用できて、手頃な相談料で、自分が求める金融商品について十分な知識を持っている人を比較検討して選びます。
よいファイナンシャルアドバイザーは、顧客のライフプランの希望や考え方に沿って相談にのり、適切なアドバイスをしてくれて、シンプルで正しい運用方法を教えてくれる。間違っても、自分が売りたい商品を売ったりしないということを知っているからです。少なくとも、そういう投資教育の重要性が認識されていますし、実際に行われています。
アメリカやイギリスでは、ファイナンシャルアドバイザーに、フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営。以下FD)を遵守する義務を厳しく課しています。
イギリスなどでは、老後資金の運用については一切のコミッションも禁止されていますので、自分の目的や意向に合ったアドバイザーを選ぶことができます。
しかし日本では、個人のお金の専門家であるFPに相談すれば安心かといえば、そうとは言い切れません。FPの中には、中立を装いながら、最終的には保険や投信を売ることを目的にしている人も大勢いるからです。
世間では、FPといえば「保険屋さん」と思っている人も少なくはありません。保険を売れば、販売時の手数料のほか、お客様が商品を保有している間、一定期間ないしは継続的に手数料が入る仕組みがあり、安定した収入となるので、中立なアドバイスよりも売りたいものを売るという発想になりやすいのだと思います。
実は日本でも、2017年3月に金融庁が金融業界全体へのFDの浸透を目指して、「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定、公表しました。これを受け個人の相談等を受ける私たちFPも、FD宣言を行う必要があると感じ、私は、同年6月17日にFD宣言をして金融庁に届けました。FP協会の会員向け情報誌に寄稿したり、講演等をして、お仲間を増やしたいと思いましたが、3年経つ今もその浸透はイマイチです。
残念ながら、生活者が、「商品販売をしない中立的な立場で、顧客の利益優先で相談にのり、最善の方法を提示してくれるアドバイザー」を見つけるのが難しいという状況です。そのせいで、なかなか運用の一歩が踏み出せず、預貯金の割合が多く、効率的な資産形成ができない人が少なくありません。老後不安を払拭(ふっしょく)することができないのです。
いまだ預貯金率高い日本だが、投資の波は来つつある
金融庁の作成した資料に、「家計所得の日米比較」というデータがあります。2018年現在で、米国の株式、投資信託の保有割合は約43%、預貯金は13%です。対する日本は、株式投信約17%、預貯金54%です。
でも、最初から米国のリスク商品の保有率が高かったわけではありません。1992年頃までは日本とさほど差はないのです。
しかし、米国では、退職口座(IRA、401〈k〉等)で、現役時代から投資信託を中心として資産形成を継続した結果、金融資産は20年間で8倍強に増加しました。日本は、貯蓄率が低下傾向にあり、かつ、預貯金の割合が高いために、この20年間で金融資産は2倍程度にしか増えていません。
制度面以外にも、低コストのインデックスファンドが運用に積極的に用いられるようになったこと、FDの強化、浸透、そして、独立系ファイナンシャルアドバイザーの増加などが背景にあります。
これらの流れをみると、日本も、議論の余地はまだあるものの、イデコ(iDeco、個人型確定拠出年金)やつみたてNISA(少額投資非課税制度)などの制度が整い、低コストの投信ラインアップも揃(そろ)った今、次なるはプロフェッショナルとしての知識、経験、倫理観に基づき、顧客に信任されるアドバイザーの育成とその存在が認知されることが必要だと思います。
先日、金融庁の遠藤俊英長官のお話を伺う機会があったのですが、長官も、良質なアドバイザーの養成が必要であるとおっしゃっていました。アドバイスを、商品販売をするための道具くらいにしか考えていない人も多い中、変革は大変な道のりだとは思いますが、FD宣言をしたアドバイザーが増えれば、正しい投資教育が日本中で展開できると信じています。
それは、人生100年時代、生活者に安心で豊かな人生をもたらすための大きなサポートとなるはずです。金融機関から独立した立場で、生活者の利益を第一に考えて、忠実な立場で助言を行うプロフェッショナルなアドバイザーの必要性は高まっています。
また、生活者の皆さんにも、「良質なアドバイスを受けることは、料金を払っても価値があることだ」と気づいてもらわなければなりません。
人生100年時代、豊かで幸せな人生を送るためには、なるべく長く働き続けること、公的年金を柱としながら、自助努力で資産形成を続けることが両輪で重要です。効率的にお金を増やしていくには、正しいマネーリテラシーが不可欠です。「生活者のマネーリテラシーの向上」と「信頼できるアドバイザーの育成」の両方が必要なのです。
岩城 みずほ
ファイナンシャル・プランナー/CFP認定者