新型コロナウイルスの感染拡大により、外出禁止令が施行されたニュージーランド。物件のある現地に行けないため不動産売買が停滞するかと思いきや、ネットを介した売買契約が盛んです。本記事は、オークランド在住で不動産会社を経営する著者が、現地でしか掴めない不動産事情をレポートします。

3月26日より、4週間の外出禁止令を実施中

3月23日月曜日の1時45分より、アーダーン首相の記者会見が行われました。このとき、首相はコロナ感染拡大により、48時間後に警戒レベルを4へと引き上げること、それに伴うロックダウン、すなわち外出禁止令を出すことを発表しました。

 

記者会見では、「ロックダウン(Lockdown)」のほか、 「エッセンシャルワーカーズ(Essential Workers)」といった簡単なようで耳慣れない単語が飛び交っていました。

 

欧米の様子が緊迫しはじめたのは2月末からです。3月に入り、感染者数が増大するなかでも不動産業界は忙しく、不特定多数の訪問者がオープンホームにいらっしゃいますから、筆者のところにも、全員にマスクの使用を義務付け、除菌剤を置き、室内の消毒を行うようにとの指示が下りました。急にいわれたものですから、あわてて除菌剤を求めて薬局店やスーパーなどを回りました。

 

その矢先に、レベル4への引き上げが発表されました。実際の引き上げは48時間後ということで、2日間の猶予がありましたが、3月26日水曜日未明の時点にいたところに住み、外出を禁止するとのことでした。

 

ただし、エッセンシャルワーカー、エッセンシャルサービスについては、引き続き営業・業務ができるということ、また、警察、医療、銀行、食料品店(スーパーマーケット、小型店舗)、ガソリンスタンド、緊急の建築仕事の業者については、規制があるものの利用可能です。

 

しかしそれ以外の業種は自宅勤務となり、自宅勤務ができない場合はすべてストップとなりました。今回の外出禁止期間は4週間の予定です。

 

われわれの仕事は、お客さまに家を見せ、弁護士や市役所へのアプローチをしてはじめて売買が成立するものですから、外出できないとなると、業務の大半を奪われたことになり、現在は失業に近い状態です。

 

ニュージーランドは車社会
ニュージーランドは車社会で、車通りが絶えない

 

閑散とした高速道路から緊張感が伝わる
平時ではありえない、閑散とした道路

 

閑散とした高速道路
閑散とした道路から、事態の緊迫感が伝わる

現場チェックが不可能でも、ネットを通して順調に販売

ただし、あくまで「失業に近い状態」であり、「失業」ではありません。

 

3月23日に外出禁止令が発表されてからというもの、実施に至るまでの2日間は準備に追われて大変でした。

 

家の現場に行けなくなるということで、真っ先に筆者の頭をよぎったのは以下のことです。

 

①物件引き渡しが終わり、引っ越しの家具を配送する予定の家をどうするか

②別荘用として管理している空き屋の家をどうするか

 

①に関しては、家具配送日を前倒しにし、届けてもらえないものは自ら店まで取りに行きました。家具を組み立て、最低限の生活環境を整えました。

 

②に関しては、空き家の戸締りを確認し、万が一の盗難事故に備えて当時の状態を写真に記録しました。


ロックダウンにともない、新規の問い合わせ・営業はいったん中断しました。しかし、ネット広告は引き続き掲載します。家にこもり、暇をもてあましている人々が大勢いるので、ロックダウン中のいまこそ広告を見てもらう絶好のチャンスというわけです。

 

売買契約もメールで交換できます。基本的に弁護士事務所は自宅勤務となるため書類上の交換が可能で、現場チェック以外の業務はできる環境です。契約に条件を付けることで商談を進められます。たとえば、内覧、建物検査についてはロックダウン終了後に対応するという条件を記載しておけば、両者が十分理解したうえで、商談の第一弾を成立させられます。

 

頭金として10%を支払っていただくのですが、銀行はエッセンシャルサービスなので営業していますし、インターネットバンキングで支払い操作が完了します。ロックダウンをいいわけに支払いを回避されるということはないのです。

 

オークション売りの物件は、オークション開催の場をネットに切り替え、予定通り売買を実行することになりました。

 

当初は、オークションの延期告知をし、オークション売りから価格を付け、またはネゴシエーション(交渉による)という広告に切り替えよう話し合われました。しかし、これでは、ロックダウン後間際に予定されているオークションの家主、買い手は非常に惜しい思いをしてしまいます。

 

IT環境が整っているニュージーランドだからこそ可能となったことですが、やはりオークションは延期せず、ネット上でやろうということになり、オークショナーはカメラをセットし、急遽ネットオークションを設定することになりました。その結果、電話やネット画面でのオークション参加が可能となり、無事に結果を出すことができたのでした。

 

上記は、すでにマーケットに出ており、オークション日が差し迫っている物件だったからこそできる技でした。残念ながら新規物件リストではむずかしいでしょう。内覧せずに無条件で買う人は少ないからです。しかし、内覧できないならだれも買わないだろうと決めつけるのも早計です。検討中のセールスマン、売り主がいるかもしれません。


少なくとも、ネット広告のおかげで商談は続いています。無条件で売買が成立している事例もありますし、ほとんどが投資用物件です。そもそも、昔の日本在住の投資家の方々は内覧をせず、購入価格と部屋の広さ、家賃収入見込み額で購入判断を下していました。現在においても、NZ在住者とはいえ、必ずしも内覧にこだわらない投資家がいます。そんな方々にとって、投資用物件の購入とロックダウンは関係ないということです。

 

ネットオークションは無事成功
ネットオークションは無事成功

外出せずとも普通に生活できるよう、様々な配慮

ロックダウンを口実に、少しはゆっくり休めるかな…と怠惰な考えが頭をよぎります。しかし、実際の不動産業界はなかなか休ませてくれません。

 

5月に予定されていた、毎年恒例の不動産業者のカンファレンスは中止となりました。セールスマン資格の維持には20時間の講習が必要であり、従来はこのカンファレンスを通してポイント稼ぎをしていましたが、今年はそうはいきません。

 

かわりにネット上でのセミナー開催が多く設定され、「ロックダウン中の時間を使い、自宅勤務の際に勉学に励め」とばかりに、すきまのないスケジュールが組まれています。

 

現地で学ぶ講習の代わりに、ネット上のセミナーが開催された
オンラインセミナーが多く開催された


ちなみに、大学やプライベートスクールにおいてもネット授業が盛んに開催され、生徒が単位を落とさないように対策されているほか、ニュージーランド政府においては、ロックダウンが決まってから即座にウェブサイトを設定し、必要な情報を得られるように整えていました。

 

アーダーン首相は夜に子どもを寝かせたあと、ネット上で国民の質問に答えています。なるべく国民がストレスを感じることなく普通に暮らせるよう、部屋着姿のままリラックスしたムードで語りかけています。

 

もちろん、昼間は公の記者会見を開いています。テレビでは、「Stay home, Save lives(家にいなさい。命を守るため…)」と呼び掛けています。

 

皆さんがこの記事を読むとき、日本の状況がどうなっているのかわかりませんが、どうか外出を控え、同居人以外の人との接触を控えてご自宅でお過ごしいただければと思います。それがいま、コロナ感染を回避できる唯一の方法だからです。本記事は不動産事情の紹介を主旨とするものですから、締めの言葉としては相応しくないかもしれませんが、アーダーン首相と同じように、私からも「日本の方々もどうか家にいてください」と伝えたいと思います。

 

 

一色良子

Goo Property NZ Ltd.代表取締役社長

 

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