受取は「分割」or「一括」、どちらがオトク?
iDeCoで貯めた資金は、原則60歳以降に給付請求をおこなうことで、老齢給付金として受け取ることができます(60歳時点で確定拠出年金の加入期間が10年に満たない場合は、支給開始年齢が引き延ばされます)。
受取方法は大きく2つ。老齢年金として5年以上20年以下の期間で受け取るか、老齢一時金として一括で受け取ることができます。また、年金と一時金を組み合わせて受け取ることも可能です。受取方法にかかわらず、受取金額が一定金額以内だと、税制優遇が適用されます。
老齢年金として「分割」で受け取る場合は、雑所得となり、他の公的年金等の収入の合算額に応じて「公的年金等控除」の対象となります。老齢一時金として「一括」で受け取る場合は、退職所得となり、「退職所得控除」が適用されます。確定拠出年金の積立期間、もしくは、勤続年数によって控除額が算出されます。
年金または一時金、どちらを選べばオトクになるかは、退職金や公的年金の金額によって異なるため、一概にはいえません。ただし、税制面でみると、退職所得控除を適用できる一時金のほうが控除額が大きく、分離課税であるため、税額が低くなるケースも十分に考えられます。そこで、退職金の見込み金額を1つの基準として考えます。
iDeCoで貯めた資金と退職金の総額が、退職所得控除の適用範囲に収まる場合は、一時金で全額を受け取ってもすべて非課税になります。一方、退職金が多い方は、iDeCoの資金を一時金で受け取ると、税金が高くなる可能性があります。この場合は、年金受取を選択したほうが税額を抑えることができます[図表]。
また、公的年金の収入予定額を基準にすると、また別の考え方ができます。年金の収入予定額が多い方が、iDeCoで年金受取を選択すると、今度は雑所得として課税される額が大きくなる可能性があります。このため、一時金として受け取ったほうが有利になるのです。
いずれにせよ、受取方法は60歳以降に受け取る際に決めればよいので、現時点であまり深刻に考える必要はありません。退職金や公的年金の給付予定額がある程度わかった段階で、受取方法と受給開始のタイミングを決めるということだけ覚えておいてください。
Q.「財形」ってやったほうがいいの?
「財形」とは、企業が金融機関と提携して従業員のために提供する福利厚生サービスです。正式名称は「勤労者財産形成貯蓄制度」といい、毎月のお給料から一定額が天引きされ、提携する金融機関に預け入れることで、自動的に貯蓄ができるというものです。
具体的には、「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」の3種類があり、このうち「財形年金貯蓄」と「財形住宅貯蓄」は、一定の条件の下で、元金550万円までの預金利息が非課税になるというメリットがあります(「一般財形貯蓄」は非課税メリットなし)。また、「財形住宅貯蓄」の場合、一定の条件の下で、住宅購入やリフォームをおこなう際に「財形住宅融資」という一種の公的ローンを受けることができます。
ただ、かつては従業員の福利厚生として重要な役割を果たしていた財形ですが、今は時代に合わなくなってきているといえるでしょう。その理由は大きく2つあります。
1つは、預金利息が限りなくゼロに近い超低水準まで低下してしまったということ。「預金利息が非課税」といっても、小数点以下しか付かない預金の利息が非課税になる程度。残念ながら、「大きなメリット」とはいえないでしょう。
2つ目は、働き方の多様化です。財形は、あくまでも企業に紐付いた福利厚生サービスです。転職をする際、転職先に制度があれば継続できますが、なければ全額解約となります。iDeCoのように持ち運ぶことはできません。また、財形住宅融資を受けていた場合、転職時に一括返済が必要になるという点にも注意が必要です。
現に、制度を廃止する企業が増えた結果、財形を福利厚生として導入している企業の割合は年々低下傾向にあります。
厚生労働省の就労条件総合調査によると、最新の平成26年調査で財形貯蓄を導入している企業の割合は、全体で41.4%(従業員数30名以上)でした。より細かくみていくと、導入している企業の業種に偏りがあることもわかります。もっとも高い「金融業・保険業」は、69.3%の企業が導入しているのに対し、もっとも低い「医療・福祉」は、わずか6.4%の企業しか導入していません。
事務処理を含む関連コストが企業側の負担になっているということを考えると、企業に財形貯蓄の商品を提供している金融機関がもっとも高い割合であるのは納得がいきます。
ファイナンシャルプランナーの中には、非課税メリットがあり、財形住宅融資が受けられる「財形住宅貯蓄」だけでもやるべきとの意見もありますが、個人的には、必ずしも最優先すべき貯蓄方法ではないと思っています。現行の金利水準では、しっかり「増やす」には程遠く、また、転職・離職の可能性を考慮すると、使い勝手の悪さは否めません。職場や働き方が変わっても継続できるよう、自分なりに「貯めて増やす」ためのしくみづくりをすることが重要です。
篠田 尚子
楽天証券経済研究所ファンドアナリスト