大学受験の最難関のひとつといえば東京大学だが、国内の最高学府のひとつに合格した学生は、何を考えて東大を選んだのだろうか。学生生活実態調査を紐解くと、東大生が東大を選んだ理由が見えてきた。

東大の志望動機は「社会的地位」と「進学選択制」

日本の大学のなかで、最高学府のひとつに数えられる東京大学。通称、東大。勉強さえできれば、と誰もが一度は思ったことはあるのではないだろうか。そんな東大には、どのような志を持った学生が入学してくるのだろうか。

 

 

東大では、昭和25年から、学部生を対象に「学生生活実態調査」を行っている。当初は経済生活を中心とした学生生活の窮乏の実態を明らかにするものだったが、高度経済成長期以降は、キャンパス・ライフ、レジャー、価値観など、学生の様々な側面を調査している。今回は2018年度の調査から「入学について」尋ねる項目があるので見てみよう。

 

まず東大生の属性だが、出身校で圧倒的に多いのが「中高一貫型の私立学校」(図表1)。その数は53.8%にも及び、続いて「その他の公立学校」23.6%、「公立中等公立学校」11.7%と続く。中高一貫の進学校の場合、中学校~高等学校のカリキュラムは5年で終わらせ、残り1年は丸々受験のために使われることが多い。大学受験における一貫校の最大のメリットであり、東大合格者の半数を占めるのも納得である。

 

出所:東京大学「学生生活実態調査報告書」2018年
[図表1]東大生の出身校 出所:東京大学「学生生活実態調査報告書」2018年

 

そんな受験生の東大へのモチベーションはどれほどのものだったのか。「東大に入学することをどの程度希望していたか」という問いに対して、「浪人してでも」とこだわっていたのが52.9%と半数を占め、「東大がだめなら他大学でもよいと思っていた」の46.9%を上回る(図表2)。ちなみに「他大学がだめなら東大でもよいと思っていた」という猛者が0.7%いた。

 

出所:東京大学「学生生活実態調査報告書」2018年
[図表2]東大入学をどの程度希望していたか 出所:東京大学「学生生活実態調査報告書」2018年

 

東大へのモチベーションの変化を見てみると、80年代から2000年代初頭まで50%を下回る程度で推移してきたが、2003年から2005年にかけて、60%近くまで上昇。しかし2012年以降は微減が続き、その代わり「他大学でもいい」という層が増えている。

 

2003年から2005年に何があったかというと、国立大学の法人化だ。2003年に「国立大学法人法」が制定され、2004年に99の国立大学が89法人に再編されて設立された。これにより改革が進むだろうと国立大学への期待感が高まり、東大にこだわる受験生が増えたのだろう。しかし期待ほど改革は進んでおらず、研究費の困窮など、課題は山積みである。また以前ほど学歴が問われないという社会の変化も、東大へのこだわりが薄れている要因だと考えられる。

 

続いて、東大を目指した志望動機を見てみよう(図表3)。最も高い動機が「東大の社会的評価が高いから」50.6%、「入学後に学部の選択が可能だから」44.1%、「私大に比べて授業料が安いから」という経済的要因をあげる学生が32.1%となっている。東大の社会的評価を志望動機にあげる傾向は以前から変わらず、たとえば2005年の調査では52.5%と、2018年度とほぼ同じ数値である。入学後の進学選択制度を魅力に感じるのは、将来に自信を持てない高校生らしい動機だといえるだろう。

 

[図表3]東大の志望動機

東大生の「9割」が希望の学部・学科に進学

前出の通り、東大で特徴的なのが、3・4年生で進学する学部・学科を決定する進学選択制度である。1~2年生の2年間は教養学部に所属し、2年生前期までは駒場キャンパスで基礎的な知識と方法を学ぶ。その後「進学選択」を経て、2年生後期で進学が内定した学部・学科の基礎となる専門科目を学ぶ。進学選択は、学部・学科ごとに定員があり、第1段階から最大第3段階までを経て内定するが、基本的に定員枠内で成績上位者から順に内定していく。ゆえに、人気のある学部・学科では合格最低点が非常に高くなる。

 

各学部・学科の受け入れは、「指定科類枠」「全科類枠」の2つの枠がある。前者は特定の科類の人のみが対象となる枠で、後者はすべての科類の人が対象となる枠のことで、前者に比べて、受け入れ人数が少ないことが多い。さらに、すべての学部・学科に全科類枠があるわけではない。また文類から理系学部・学科を志望する場合は、進学を希望する学部・学科が指定する科目を履修していないと志望することができない。

 

一般の大学では入学がひとつのゴールになりがちだが、東大の場合、進学選択制があるため、ある意味、入学してから希望の学部・学科に行けるか勝負となる。

 

このように入学後に学部選択の自由度のある東大の合格者は、どの程度、進学する学部・学を決めていたかというと、「学部のみを決めていた」が27.8%、「学科等まで決めていた」が20.0%、「学部・学科は決めていなかった」が52.2%となっている。2001年以降、学部や学科を決めずに入学する学生は年々微増している。進学選択制を東大の魅力と捉える受験生が増えているようだ。

 

さらに東大生が希望通りの学部・学科に進学できたか、という問いには、80.9%が「希望通り」と回答。「ほぼ希望通り」を加えると、9割以上の学生が希望をかなえていることになる。進学選択制は成績がものをいうだけに、この結果から、東大生の勤勉さがうかがえる。

 

しかし近年、学歴社会が否定される場面も目立ってきた。学歴不問を宣言する大手企業も多く、学生が期待していた東大の社会的評価が、将来的に活かされなくなる恐れが出てきた。この危機感は、東大生の進路にも表れ始めている。学部卒業後の進路希望のなかで、「進学」は現在でも東大生の第1位である。2005年以降は半数を超えていたが、近年は減少傾向にある。それに伴い、就職希望が増加傾向にあるのだ。苦労して大学院に進学しても、その学歴は社会に出る際の足かせになることさえある。エリートは現実をしっかりと見つめているのかもしれない。

 

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