大学の最高峰の東京大学。将来の日本を背負う東大生は、どのような志向をしているのだろうか。学部生を対象にした「生活実態調査」から紐解いてみた。

いつの時代でも「東大生」の悩み・不安は共通

最近の若者は何を考えているのか、わからない……いつの時代でもそのような声を聞く。そこで役に立つのが、学生を対象にした「生活実態調査」だ。

 

たとえば、東京大学。毎年、学部生を対象に「学生生活実態調査」を行っている。昭和25年以降、後昭和27年、昭和43年を除いて毎年1回実際されているもので、当初は経済生活を中心とした学生生活の窮乏の実態を明らかにするものだったが、高度経済成長期以降は、キャンパス・ライフ、レジャー、価値観など、学生の様々な側面を調査している。

 

そのなかで、「不安・悩み」をたずねる質問があるが、東大生が頭を抱えている問題とは、何なのだろうか。

 

国内大学の最高峰
国内大学の最高峰

 

2018年度(調査期間:同年11月下旬~12月下旬)の調査結果によると(図表1)、最も多かった悩み・不安が「将来の進路や生き方」で、「よく悩む」と「ときどき悩む」 を合わせると、実に8割以上にも及ぶ。続くのが「就職」で71.2%、「勉学(成績・単位など)」が64.7%と続く。

 

出所:東京大学「学生生活実態調査」
[図表1]東大生に聞いた「悩み・不安」 出所:東京大学「学生生活実態調査」

 

「将来の進路や生き方」の回答の具体例としては、「将来に向けて今何をすればいいのかわからない」「就職活動をするか大学院入試を受けるか迷っているが、情報が入手しづらくて困っている」などという声が聞かれた。悩み・不安に対する設問は、2005年から設けられている。その推移を見てみると(図表2)、ほぼ8割を超えており、東大生であっても人生の岐路を前に漠然とした将来への不安・悩みを抱いている、一般的な学生と何ら変わりはない、ということなのだろう。

 

出所:東京大学「学生生活実態調査」
[図表2]「将来の進路や生き方」と回答した東大生の推移 出所:東京大学「学生生活実態調査」

 

では、そのような悩み・不安を誰に相談するのかというと、「父・母」が「よく相談する」と「時々相談する」を合わせて44.0%。続いて「大学内のサークルや団体の友人」で36.7%、「大学内の同じ学科や研究室の友人」が31.3%となっている。意外と相談相手として親が検討していると言えるのではないだろうか。

 

このように、東大生の実に8割が「将来の進路や生き方」に対して不安を感じていることがわかったが、他大学の学生も同じような悩み・不安を抱えているのだろか。

 

一般社団法人日本私立大学連盟が発行する『私立大学 学生生活白書』では、同じように学生の悩み・不安を尋ねている(図表3)。回答方法や選択肢が異なるので、比較は難しいかもしれないが、ここで最大の悩みとなっているのが「就職や将来の進路」で44.2%。やはり、就職・進学を前にして、漠然とした不安に駆られる学生が多いのだろう。

 

出所:一般社団法人日本私立大学連盟「私立大学 学生生活白書」
[図表3]私立大学生の悩み・不安 出所:一般社団法人日本私立大学連盟「私立大学 学生生活白書」

 

しかし「就職や将来の進路」との回答は、2010年に51.5%、2014年に46.1%、2017年に44.2%と、減少傾向にある。一方で増加傾向にあるのが、「友人等との対人関係」(2010年17.7%→2017年23.6%)、性格(2010年9.0%→2017年11.5%)など。景気変動に影響を受けやすいと推測される、就職や進学といった将来の悩み・不安は減少傾向にあり、それに伴い、目の前の対人関係や自身に対する悩み・不安が際立つようになったのだろう。

 

このように、一般の学生も将来に対して、漠然と不安や悩みを抱えているが、その割合は景気に左右されやすく、新卒の内定率が上昇している昨今は減少傾向にあることがわかった。一方、東大生の将来に対する悩みは、景気の影響を受けるものではなく、「東大生が抱きやすい悩み・不安」であるといえるだろう。

 

就活マーケットにおいて、「東大」というネームバリューは依然として強く、ある種のブランド力を持っている。企業にとっても、東大生が多く在籍している、東大生が就職先に選んでくれた、ということは、企業イメージにもプラスに働く。企業によっては、今なお、学歴フィルターは存在し、東大生は優遇される傾向にある。

 

一方で、東大生=優秀という固定観念は、学生にはある種のプレッシャーだろう。企業の選考においても、第一関門は学歴でクリアできても、以降は学歴だけでは通用しない。このあたりを、東大生はシビアに捉えているのかもしれない。

いまどきの東大生の「就職」に対する志向は?

将来に対して、一般の学生よりもネガティブに捉えがちな東大生の姿が見えてきたが、実際に卒業後の進路はどのように描いているのだろうか。同調査内で、学部卒業後の進路希望を聞いているが、「進学」と回答したのが48.1%(「大学院修士までを視野に入れた進学」が38.1%、「大学院博士まで視野に入れた進学」が8.3%)、「就職」と回答したのが36.7%だった。

 

時系列でその推移を見てみると、「進学」への意欲は1993年には38.9%と4割を割り込んでいたが、年々増加し、2005年には50%を突破した。しかし最近は減少傾向にあり、2017年には5割を下回った。一方で「就職」への意欲は、増減はあるものの、だいたい1/3程度で推移している。また2005年ごろまでは「その他」という回答が2割を超えていたが、昨今は減少傾向にあり、進学か、就職かという確実な進路を好む傾向が見られる。

 

「就職」に焦点を当ててみていくと、「民間企業」を志向する回答が62.0%と最大で、「公務員」が22.7%と続く。この2つを比較すると、近年「民間企業」は増加傾向である一方で、「公務員」は減少傾向にあるという。東大生=官僚というイメージが強く、また公務員であれば景気に左右されにくい。将来への不安が強い東大生であれば公務員志向が強まると考えられるが、就職の志向性は別のようだ。

 

そのことは、就職希望理由にも表れている。回答で最も多いのが「自分の特技・能力や専門知識が活かせる」で36.2%。「人を助けたり社会に奉仕できる」が17.4%、「十分な収入が期待できる」が12.7%と続く。いまの東大生は、社会貢献性よりも、活躍できるフィールドや収入を重視する傾向にあり、そのことが、民間企業を志向する結果に表れているのだろう。

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