●トランプ米大統領の一般教書演説は、実績の紹介が中心で、大統領再選を強く意識したものに。
●実現できた公約は大型減税や輸入関税引き上げなど、できなかったのはインフラ投資や財政再建。
●安定した金融マクロ環境も再選を狙うトランプ米大統領に有利、今後は浮動票の行方が焦点に。
トランプ米大統領の一般教書演説は、実績の紹介が中心で、大統領再選を強く意識したものに
トランプ米大統領は2月4日、上下両院合同会議において一般教書演説を行いました。一般教書演説とは、予算教書、大統領経済報告と並ぶ「三大教書」の一つで、米大統領により、今後1年間の米国の内政や外交、経済など政策全般についての方針が示されます。そのため、世界各国の関心も高く、特に中国や中東諸国などについては、米国がどのように表現するかが注目されます。
2020年の演説のテーマは、偉大な米国の復活でしたが、演説では自らの経済政策の実績紹介に大半の時間が費やされました。また、野党・民主党に対しては、超党派の結束を呼び掛けた2019年の一般教書演説とは打って変わり、医療や移民に関するリベラルな政策を批判し、対決姿勢を強めました。対外政策も、中国やイランについて踏み込んだ発言はなく、演説は大統領選挙での再選を強く意識したものとなりました。
実現できた公約は大型減税や輸入関税引き上げなど、できなかったのはインフラ投資や財政再建
トランプ米政権は今年4年目を迎えますが、以下、改めて主な公約とその実現度合いを確認してみます。まず、実現できた公約は、10年で1.5兆ドルの大型減税、輸入関税の引き上げ、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し、エネルギー開発の規制緩和、金融規制の緩和(ドットフランク法の改正)、入国審査の厳格化などです(図表1)。
次に、実現できなかった公約は、10年で1兆ドルという巨額のインフラ投資、財政再建(任期の8年で政府債務を完済)などです。メキシコとの国境に壁を建設するという公約については、一部建設が進んでいるものの、費用はメキシコ負担ではなく、米国の国防費から捻出しています。また、医療保険制度改革法(オバマケア)の廃止については、一部規制を緩和し、保険料の引き下げを促すにとどまっています。
安定した金融マクロ環境も再選を狙うトランプ米大統領に有利、今後は浮動票の行方が焦点に
このようにみると、トランプ米大統領は、主な公約については、多くを実現してきたことが分かります。また、米金融市場では2月6日に、ダウ工業株30種平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合株価指数が、そろって過去最高値を更新しました。一方、米失業率は歴史的な低水準で推移し(2020年1月は3.6%)、米個人消費支出(PCE)物価指数(食品とエネルギーを除くコア指数)も安定しています(2019年12月は前年比1.6%上昇)。
このような環境は、米大統領選挙で再選を狙うトランプ米大統領にとって、有利に働くと考えられます。しかしながら、米大統領選挙はまだ始まったばかりで、予断を許さない状況です。民主党は、大統領候補を巡り、中道派とリベラル派の対立が激しさを増していますが、今後は、早い段階で候補を絞り込み、浮動票(どちらの党に投票すべきか決めかねている有権者の票)の取り込みに動けるかが、1つの焦点となります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年米大統領選…「トランプの公約」の実現度合いを検証』を参照)。
(2020年2月10日)
市川雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト