入試問題は独自性が強く、模試の結果がアテにならない
医学部入試は難しいと言われますが、難しさには、偏差値の高さ、問題そのものの難しさ、倍率の高さなど、いろいろな要素があります。
倍率から見ていきますと、2019年度の国公立大の平均倍率は前期日程が4.4倍、後期日程が15.4倍でした。国公立大は2段階選抜を行う大学がほとんどで、この関門を通過した受験生だけが2次試験を受験できます。
したがって、センター試験で各大学が設定している基準を満たさなければ、前期試験や後期試験に進むことができません。よって先程の平均倍率は、成績が高かった人だけが集まった中での4.4倍や15.4倍ですから、かなりハイレベルの戦いが繰り広げられているわけです。私立大は補欠からの繰り上げ合格者数を公表しないところもあって、正確な平均倍率は算出できませんが、実質倍率が10倍を超えるような狭き門の大学がほとんどです。
次に偏差値ですが、模擬試験のデータで見ると、ベネッセ・駿台模試の場合、国公立大でも私立大でもB判定偏差値が70以上になっています。ですから、他の学部に比べてかなり学力の高い人が受験しているわけですが、偏差値が高ければ必ず合格するというものでもありません。
ベネッセ・駿台模試の場合、総合評価がA判定だと合格可能性80%以上、B判定だと60%以上80%未満です。数字だけ見ると、A判定ならかなりの確率で合格できる計算です。しかし、各偏差値帯ごとに実際の合格状況を全国の医学部受験生について調査したデータブックによると、A判定でも合格できなかった人が多いというのが医学部入試での現状です。偏差値が同じでも「合格できる」、「合格できない」という差が出るのは、模擬試験の問題と実際の大学の入試問題が大きく異なるのが一つの要因です。
例えば、大分大学の2019年度入試では、英語は長文3題からなる出題で、長文は医学関連の単語が多く、難度が高い。また、例年大問2で語句整序した文章を長文中の空所に挿入する問題が、また、大問3では語形変化を伴う空所補充が出題されています。
一方、富山大学の英語では長文1題と英作文1題の2題だけだが、長文は本格的な医療系長文で設問の難度も高い。自由英作文も他大学のものと比べ語数が多く、模試の英語とは出題内容が大きく異なっています。
このように、大学によって出題傾向が大きく異なり、求められる能力が違うので、それを知って対策を立てる準備をしないと、なかなか合格できません。
出題傾向が大きく異なるため、それぞれの対策が必要
例えば、首都圏で難度が高い日本医科大学、順天堂大学、昭和大学の2019年度入試の英語の出題を比較してみましょう。
【日本医科大学】
長文読解2題で単語数は約1,700単語。これに語彙・発音問題と自由英作文も含めて試験時間は90分。長文の内容は医療科学系に限られないが論説文が頻出で内容理解力が重視されている。設問は発音、アクセント、空所補充、同意表現、内容一致、語句整序、語形変化、要約文完成、内容説明、自由英作文と多様である。
【順天堂大学】
長文読解は4題で単語数は例年より大幅に少なくなったがそれでも約2,700単語と日本医科大学の1.5倍以上もある。これらと自由英作文を合わせて試験時間は80分。日本医科大学より短い試験時間の中でこれだけの分量をこなすということで、よりスピードを要する出題となっている。長文の内容は医療・科学・生物系のテーマが頻出。人文系の文章でも医療現場にかかわりのある内容が出題されている。設問は文章の内容に関するものが中心で、読解力、特に段落を要約する力が問われている。また、同意語選択の出題も多い。
【昭和大学】
長文読解1題で単語数は約750単語で日本医科大学の半分以下。長文以外に発音、文法、語句整序、会話文などの大問があるがすべて標準レベルで、40~50分で解ける内容になっている。試験時間は英語・数学合わせて140分。長文の内容は医療科学系がテーマになっているものが頻出。
このように、大学によって出題が大きく異なるため、対策として行う学習内容も異なります。日本医科大学では例年、内容がやや難しいさまざまな分野の長文が出題されるため、多様な分野の論説文を読み込む必要があります。また、設問形式も多岐にわたるので、色々な形式の問題に慣れることと、日本語での記述も多いので答案作成の練習も欠かせません。
順天堂大学では内容が標準的だがやや長め(1,000単語以上)の長文を内容把握や要約を意識しながら速読する練習は欠かせません。また、その長文の内容に関する背景知識があれば、先を類推しながら読めるので、より早く正確に読解できるようになります。ですから、医療・科学系の長文を多読し、背景知識を身につけておくことも必要でしょう。
昭和大学は医療・科学系の長文(700~800単語)の精読と内容把握に重点を置いた対策が必要です。発音・アクセント・文法・熟語・慣用句など標準レベルの知識は確実に押さえなくてはいけません。
医学部ならではの問題を出す大学は、対策の仕方に注意
次に、医学部の入試問題は難しいかということですが、すべての大学が難しいとは限りません。大学の偏差値の高さと問題自体の難度は一致するとは限らないのです。
国公立大の場合、2次試験は記述式ですから、難しいイメージを抱く受験生が少なくありません。しかし、合格最低点が相当高い大学もあり、こういう大学は標準的な問題が多く、難問はほとんど出題されません。とりわけ総合大学の場合は、他の理系学部と同じ入試問題であったり、英語は文系も含めた全学部共通というケースもあります。
逆に、非常に難しい入試問題を出題する大学もあります。東京医科歯科大学、京都府立医科大学、滋賀医科大学、和歌山県立医科大学など、単科医科大学は難しい入試問題が多いようです。そして、総合大学でも医学部だけが別の問題を出す大学も難しいと見ておいたほうがいいでしょう。例えば、福井大学、大分大学、山梨大学(後期)などは、医学部の独自問題を作成しています(図表7、8参照)。また、合格最低点がかなり低い大学がありますが、そのような大学は当然ながら入試問題は相当難しくなっています(図表9、10参照)。
私立大の医学部の英語では、医療や医学に関する問題がよく出ます。例えば、東邦大学では英語の試験に医療科学系の専門的な長文が毎年のように出題され、2019年度は、大問1が「大気汚染の減少が引き起こす副作用」、大問2が「ペニシリンの種類とそれぞれの利用法」、大問3は「レム睡眠中の行動障害」についての長文問題でした。大問2の長文の文章の一部を日本語訳すると図表11のようになります。ご覧の通り、普通の高校生があまり目にすることがない、医学を学ぶ学生が読むような内容です。
さらに、文中の難解な医療系専門用語にも注釈やヒントがないので、文章全体から医療用語を類推できないと解答できません。医療や医学に関する英文を多読して背景知識を積み、このような英文に慣れておく必要があります。私立大では特徴的な出題が多い分、その特徴をつかんだ対応力を磨いておかないと差がつきやすいため、出題内容に合わせた対策が重要です。
また、医学部で特徴的なのは、面接試験があることです。面接では、医師や研究者としての適性をチェックするという狙いがあります。
英数理の基礎が固まって初めて「医学部受験生」になる
「医学部を目指す『受験生』にあなたはなっていますか?」
受験を意識して勉強を始めた人を「受験生」と考える人、あるいは、高校3年生を「受験生」と考える人も多いようですが、筆者はそれだけでは受験生としては不十分だと考えます。特に医学部を目指すのであれば、英語・数学・理科については基礎に穴がなく、基礎固めがしっかりできた状態になって初めて「受験生」になったと言えるのではないかと思っています。そう考えた場合、あなたは医学部受験生になったと言えるでしょうか。
基礎が固まった状態とは、各教科の基本的な問題や典型問題であれば、見たら瞬間的に解き始めて正解を導き出せる状態だと考えています。そういう状態になっている人も多いと思いますが、もし自信を持って「基礎が固まっている=受験生になっている」と言えない場合は、早急に自分の学力状況を分析し、基礎を固める必要があります。
自分の学力を客観的に分析するためには、予備校などが実施している学力診断テストを受けることをお勧めしますが、自分でもある程度の診断は可能です。本記事末尾に学力診断表を掲載していますので、参考にしてみてください。
例えば数学なら数Ⅰ、数Ⅱ、数Ⅲ、数A、数Bのすべての単元ごとに、得意3点、普通2点、苦手1点(場合の数と確率1点、ベクトル2点など)のように点数をつけます。点数つけに迷う場合は、模擬試験の結果も参考にするといいでしょう。合計点数が低いほど苦手な分野が多い教科ということです。こうした自己診断でわかった結果は、学習計画を立てるときに問題集のレベルを決める参考になります。さらに、どの分野から手をつけるべきかの優先順位も明確になります。問題集を選ぶときには苦手な分野に着目して選ぶのですが、例えば数学だったら自分の最も苦手な単元の問題を見たときに、半分ぐらいは自分で解けそうなものを選ぶのがいいでしょう。
目指す大学によって、合格に必要な基礎学力が異なる
各教科の基本的な問題の解法がすぐにわかる状態になっていれば、受験大学の対策次第で合格できる可能性は十分にあります。
ただし、同じ医学部でも大学によって入試問題の出題傾向はさまざまです。志望校の過去問を活用し、問題の難度、問題量(スピード)、問題形式、頻出分野についてもチェックしましょう。これらは受験校を決めるときにも重要になってくるのですが、基礎固めをする際にも志望校の出題傾向を意識することで、より効率よく合格に近づくことができます。
医学部に合格するためには「模試でいい成績を取らなければ」と考える受験生が多いのですが、模試と実際の入試問題は違いますから、高い偏差値を取ることだけを目標に勉強していくことは良くありません。自分の学力状況に合わせて勉強することはもちろんですが、合格するのに必要な学力は、目指す大学によって異なります。目指す大学の出題内容や問題量、難度、解答形式、頻出分野を意識して、それを解くのに必要な学力を身につけていきましょう。例えば、自分が問題を解くスピードが遅いのに、志望大学の問題量が多い場合は、ただ問題を解くだけでなく、スピードを意識した訓練が必要になりますし、標準的な問題しか出ないということであれば、難しい問題に多くの時間を割く必要はありません。
いわゆる難問がほとんど出題されない大学であれば、標準問題を確実に解けるようにすることで、国公立大の医学部でも合格できる可能性が十分にあります。