60歳を定年退職とする企業がいまだに多い一方で、日本人の平均寿命は、毎年最高記録を更新していく。時代の変化に合わせ、「シニア人材」として雇う企業も増えてはいるものの、賃金の低下や降格など、「ただ消費されるだけ」の扱いに、辟易している人も多いことだろう。そこで本記事では、人材育成/組織行動調査のコンサルタント・西村直哉氏の著作『世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、シニア人材の現状を解説する。

シニア人材「文句ばかりが多い。話しかけづらい」

以下に掲げるのは、現役の管理職からヒアリングしたシニア人材の長所です。すべてのシニア人材に当てはまるわけではないでしょうから、あくまでも一つの意見として聞いてください。

 

「知識と経験とスキルがあって、過去のシステムなどが出てきたら右に出る人がいない」

「真面目で責任感が強く、自分の仕事はきっちりと時間通りに終わらせる」

「過去に管理職だっただけあって、部下指導もしてくれるし、リーダーシップがある」

「職場の雰囲気を向上させてくれるムードメーカーになってくれる」

「コミュニケーション能力が高く、後輩に対しての面倒見が良い」

「会社への忠誠心が高く、仕事も丁寧で意識が高く、若手社員のお手本になってくれる」

「何でも頼めば快くやってくれる。頼られることを意気に感じているようだ」

「いつも落ち着いていて、慌てず、頼りになる」

 

一方で、シニア人材について困っている点についてもヒアリングしたところ、次のような声が集まりました。

 

「仕事に対して消極的で、与えられた仕事しかしようとしない。もう現役じゃないし、そこまでやる義理はないと、一歩引いて仕事をしている感じがする。責任も持ちたがらない」

「プライドが高く、頑固で、自分の主張を曲げず、文句ばかりが多い。話しかけづらい」

「病気持ちの人が多く、仕事を休みがちである」

「賃金に対する不満があって、お金の話ばかりしている。話も長い」

「新しい仕事、嫌いな仕事はやりたがらず、仕事に対して欲がなく、やる気もない」

「新しい商材やシステムに抵抗を示し、昔のやり方に固執する」

「物忘れやミスが多く、マイペースで、全体に生産性が低い」

「休憩時間が長く、定時の10分前には帰り支度を始める」

 

シニア人材の長所と矛盾するような短所もありましたが、おそらく個人差も大きいのでしょう。これらをまとめると、シニア人材には以下のような問題があることが分かります。

 

① 下がった給料に対する不満があり、仕事の手を抜いてしまう

 

これまで60歳定年で制度設計をしていたところを、65歳まで雇用しなければならなくなったため、会社に負担がかかることは彼らも理解しています。また、年功序列を前提に設計された50代までの給与が、仕事の成果と連動したものではないことも頭では分かっていることと思います。

 

それでも、まったく同じ仕事をしているのに3分の2や半額になった給与明細を見れば、感情的に納得がいかないのは当然です。給与について感情的に自分を納得させるために彼らが取る戦略が、給与の下がった分、自分への負担を意識的に減らすことです。

 

たとえば「残業はいっさいしない」、「仕事は時間優先で終わらせる」、「責任のある仕事はできるだけしない」、「リスクの高い仕事もできるだけしない」、「大変そうな仕事もできるだけしない」、「言われたことだけやる」、「自分の仕事の範囲を決めて、他人の仕事は手伝わない」、「新しいことは覚えず、勉強もしない」、「時間外の会社イベントにも行かない」など。

 

給料や処遇に対する不満があり、その不満が顕在化すると、このような傾向が出てきます。言い換えると、これらはシニア人材の特徴というよりも、「自分の働きに対して給与が少ない」と感じている人が、年齢に関係なく取りがちな行動です。

 

ただし、シニア人材の場合、実際に以前はそれだけの給与をもらっていたわけですから、ただの不満分子と一緒にするのは酷です。

 

現在の状況は、新たな人事処遇制度や賃金体系改善の過渡期であるために起きているものだと考えられます。日本の企業は終身雇用を前提に、若いうちの給与は低く、年を取るにつれて給与が高くなっていく年功序列制度を採っていました。そのため、役職定年前の50代の社員は、その仕事の成果に比べると高い給与をもらえることになっています。

 

これは60歳定年を前提とした制度設計ですから、そのまま65歳まで延長することは困難です。最初から65歳定年を前提としていれば、このような問題は起こらなかったのです。もちろん、シニア人材のすべてがこうなるわけではありませんが、その改革はまだ始まったばかりです。このような理屈は、シニア人材も理解はしています。

 

たとえば25歳の若手社員の給与が年300万、55歳のシニア人材の給与が年900万だったとして、シニア人材が若手社員の3倍の利益を会社にもたらしているかといえば、自信をもってうなずける人は少ないでしょう。それが分かっていても「明日から給与は減らすけど、昨日までと同じ働きをしてね」と言われると納得できないのが人間です。

 

一方で、事情をすべて呑み込んだうえで給与が減っても同じ働きをしてくれるシニア人材も少なくありません。彼らは愛社精神が強く、月単位の給与ではなくこれまでの長年の会社との関係で受けた恩を残りの期間で返そうとしてくれるので、減額がそれほどモチベーションに影響しません。

 

ただし、そのような人材が少数派であることへの理解は必要です。

処遇が悪くなった相手に「求めすぎていないか?」

② 自分の知識や経験や成功体験に対するプライドがあるので、考えや意見を譲らない

 

一般に「年を取ると頭が固くなる」といわれています。その意味は、新しいことを覚えにくくなるとか、記憶力が衰えるとかになりますが、「頑固」になるということはまた違うような気がします。年を取って経験を積んだために、世の中のさまざまな意見に対して柔軟な態度を取れるようになる人も少なくないからです。

 

では、なぜ「頑固」になるのかといえば、そこに何か譲れないものがあるからです。譲れないものの内容は人それぞれでしょうが、その一つが「プライド」です。シニア人材は、長年会社に貢献してきたという「プライド」を持っています。

 

また、過去の成功体験についても自分の経験であるだけに絶対の「自信」となっています。その成功体験をもとに年下の社員にアドバイスをしてくる人も多いのですが、過去の成功体験が現代でもそのまま通用するとは限りません。むしろ、時代が違えば当てはまらないことも多いのです。

 

しかし、アドバイスが受け入れられないことでシニア人材のプライドは傷つきます。また、役職定年や定年再雇用によって役職を奪われたり給与を減額されたりしたことも、シニア人材のプライドを少なからず傷つけています。制度は制度として仕方ないとしても、その分、他の面で自分に対して十分な敬意が払われるべきではないかと感じています。日本には年長者が敬われる文化があることも、その思いをあと押しします。

 

そのため「敬意」が不足していると思われる「指示命令」には、感情的に反発をします。会社について、仕事について、自分のほうが経験豊富だと思えば、余計に自分の考えに固執します。

 

これは、どちらかが正しくてどちらかが間違っていると言いたいわけではありません。実際のところ、仕事に絶対の正解はないのですから、議論で勝ち負けを決めることはできません。

 

また、議論で勝ち負けを決めたところで感情的なしこりは消えません。シニア人材が求めているのは、本来であれば受け入れがたい待遇の悪化を取り戻せるだけの敬意だからです。

 

③ 体力、気力、記憶力が衰えてくるため、新しい仕事に挑戦する意欲に乏しい

 

年を取ると、体力も衰えてきます。肉体労働でない限り、それほど体力を必要とする仕事はないものですが、徹夜や長時間残業や休日出勤などがきつく感じられるようになります。これについては、会社にはさまざまな人がいるので「そういうものだ」との理解が周囲に必要です。

 

女性であれば、妊娠や出産で休まねばなりませんし、若手社員でも病気になれば以前と同じ働き方はできません。シニア人材に対しても体力を要する仕事を割り当てないように配慮が必要でしょう。

 

体力については配慮できたとしても、気力についてはどうでしょう。新しい環境への適応を渋ったり、リスクを取ることを避けたりするのもシニア社員の特徴ですが、これにも理由があります。

 

そもそも、新しい環境に身を投じたり、リスクを取ったりするのは、年齢に関係なく、若い人でも大変なことです。それでも若い人が挑戦できるのは、それによって自分が「成長」できて、将来に「希望」を持てるからです。

 

しかし、シニア人材の場合は「成長」や「希望」を素直に信じることができません。どうせ「あと何年」かの仕事人生だと諦めたり、「昇給」や「出世」はないものと達観したりしています。

 

また、すでに功成り名を遂げたシニア人材は、新しい環境で新人として頭を下げることにも抵抗があります。できれば、慣れ親しんだ環境で、同じ仕事をしていたいのです。

 

彼らの考えにも一理あります。会社員としての残り時間が決まっていて、給与も減額されているシニア人材に、あまり多くを求めるのもかわいそうです。意欲のある人には、研修を受けさせたり、新しい仕事を任せたりしてもよいのですが、そうでない人まで無理にアサインしてもお互いにメリットは少ないでしょう。

 

「今、苦労しておけば、将来必ずあなたのためになるから」という、若い人に対する決めゼリフは通用しないのです。私の見てきた範囲内でいえば、定年再雇用後に以前と異なる仕事にアサインされたシニア人材は総じて仕事に対するモチベーションが低く、逆に以前と同じ仕事をしているシニア人材は、給与に対する不満があったとしても、全体としてはいきいきと仕事に取り組んでいました。このように、シニア人材の働き方には、他の社員に対するのとは異なる配慮が必要になります。

 

 

西村 直哉

株式会社キャリアネットワーク代表取締役社長

人材育成・組織行動調査のコンサルタント

 

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