非居住者や国際遺産税の取扱いに強い会計事務所を選ぶ
前回説明したように、日本人でアメリカ非居住者が亡くなった場合の基礎控除額は、原則、6万ドルしかありませんが、日米租税条約に基づき、アメリカ市民権やアメリカ居住者の基礎控除(2014年は534万ドル)を使った計算方法も認められています。
このままその数字が控除されるわけではありませんが、全世界相続財産のうち、アメリカの遺産の割合に応じて算出されますので、場合によっては連邦遺産税は免除されるケースもあります。ただし、州の遺産税は租税条約の適用外ですので、ハワイ州の場合、2010年以降の相続開始では大抵の場合、納税義務が発生しています。
この租税条約を適用してアメリカの遺産税を計算する場合、まず、日本で作成された申告書の金額を、アメリカの遺産税に調整する作業を行います。従って、日本の相続税の申告書の数字を把握できる人でないと対応できません。
また、アメリカではトラストなどを使って遺産税を繰り延べるエステート・プランニングが発達しているため、遺産税を申告する人があまり多くありません。特に、このところの基礎控除の拡大により、遺産税の対象になる人は減少しており、遺産税を作成できる会計士を探すのも難しいでしょう。ましてや、非居住者や租税条約を使う国際遺産税に対応できる会計士となると、本当に限られてくるでしょう。
ことに、ハワイでは国際税務を得意としている会計事務所の数が、ニューヨークやロサンゼルスに比べて少なく、相続が発生した場合、不動産業者を通じて現地の会計事務所を紹介され、そのまま頼んでいるのが現状です。
しかし、租税条約に関する知識もさることながら、非居住者の遺産税を手がけたこともないような会計事務所に依頼したために、本来払わなくてよいはずの税金を払う羽目になったり、非居住者に適用すべき数字を間違えられ、そのために追徴課税を取られたりするケースもありますので、会計事務所選びには用心が必要です。
評価額算出の際は現地の不動産鑑定士に鑑定を依頼
前回説明したように、遺産税は亡くなった日の時価をもって計算します。この時価の査定は、通常、アプレイザーと呼ばれる不動産鑑定士に依頼します。日本の不動産鑑定士の費用は数百万円もすることがよくありますが、アメリカでは数万円から数十万円で対応してくれます。
鑑定士の算出した金額であれば、アメリカでも日本でも国税当局が異論を唱えることはありません。
以前、筆者のところへ相談に来られた人のなかに、ハワイの不動産に関して、現地の不動産業者に言われた適当な数字を使って相続税の計算をして、日本で申告を行い、その後、相続調査があり、その金額以上の修正を余儀なくされ、追徴金を払わされているケースがありました。
後日、筆者がハワイの不動産鑑定士に依頼し、評価額を算出してもらったところ、最初の相続税で使った金額より低い査定額で鑑定書が届きました。最初から鑑定士に依頼していれば、このようなトラブルは回避できたはずです。
また、ハワイの不動産を売却する際、トラスト名義が母親の名になっていたため、売却ができないので、どうしたらよいかと相談に来られた人がいました。
話を伺うと、日本ではハワイの不動産を相続財産に含めていたものの、アメリカでは名義変更も遺産税の申告書も提出していませんでした。アメリカでは申告書を出していない場合は、時効がありませんので、まず、遺産税の提出をすることをアドバイスしました。
このような過去に遡ったケースでも、亡くなった日を特定すれば、アプレイザーは不動産を鑑定してくれますので、相続税や遺産税の申告書を作成する場合は、必ず不動産鑑定士に依頼しましょう。