クリニック「税務調査」当日の大まかな流れ
●スタンバイ
税務調査は、午前10時スタートとなります。大体30分前には準備を整えておくべきでしょう。準備内容としては、次の通りです。
*調査実施スペースの確保
税務調査官が調査を行うには、少なくとも机と椅子が必要となります。またあまりにも狭いスペースですと、ドクター、関与税理士や監査担当者、事務長等が同席することができません。通常は、院長室かスタッフルームを利用することが多いですが、休診日の場合には待合室にテーブルを置いて調査を受けることも可能です。
*調査必要資料の確認
調査資料が用意できているかを最終確認します。スムーズな調査進行のためには、税務調査官から提出を求められた資料がすぐに用意できるようにしておくことは重要です。
*お茶・昼食
税務調査時のお茶や昼食についてですが、税務調査官が納税者や立会税理士と昼食をともに摂ることは絶対にありません。というのも税務署のルールで厳格に定められているからです。よって12時になると調査官は昼食のために約1時間外出します。お茶については、特に問題はありません。最近ではペットボトルを用意しておくことが多いです。
●調査開始
さて10時になりました。クリニック入り口の扉が開きます。いよいよ税務調査の開始です。最初に、税務調査官は身分証明書を提示して、「○○税務署・個人課税○○部門の○○です。本日は税務調査にご協力いただきましてありがとうございます」と挨拶します。そこで関与税理士がドクターを紹介し、名刺交換が行われます。その後、関与税理士が調査立会の旨を伝え、自身と担当者の紹介および税理士証票の提示と名刺交換を行います。
なお休診日ではなく、通常の診療日に調査を受ける場合には、事前に税務署へ連絡して表からではなく通用口から入ってもらうように留意する必要があります。待合室にいる患者様の前を横切って、医院受付で名乗られるのは避けたいものです。
●調査終了
大体、16時頃となります。中には17時近くまで粘り強く調べている調査官も居ますが、17時にはお帰りいただくようにしています。
個人情報やクリニックの運営状況を探る「概況調査」
これは調査の冒頭に行われる、クリニック概況に関する質疑応答です。HPや看板などに記載されていることと重複する内容も聞かれますが、面倒がらずに丁寧に応答していくことが重要です。というのも、ここで調査官は納税者である院長の人柄を判断するからです。質問に対して、正確に順序よく応答していくことで納税者の真摯な姿勢が伝わり、1日の税務調査がスムーズに進行するのです。質問事項は次の通りです。
●ドクタープロフィール
出身大学や開院までの職歴、配偶者、家族構成、通勤手段、得意とする治療分野、趣味など院長個人に関する内容を個別に聞かれます。その中で税務調査官は情報収集をするのです。具体的なチェック事項としては、以下のような点が挙げられます。
出身大学:交友関係(接待交際費における相手先)
職歴:病診連携の実態
配偶者:事業従事度合 資格の有無 適正給与水準
家族構成:乳児、幼児がいる場合の配偶者の勤務実態
通勤手段:車両の事業における必要性
得意分野:自由診療収入における着眼点
趣味:経費における家事費混入
●クリニック概要
開院までの経過、取引銀行、診療時間や休診日、診療体制、スタッフ数、電子カルテ・レセコンの有無、医療機器内容、取引業者(薬品材料卸・外注検査会社・技工所・廃棄物処理業者)などクリニックに関する概要を個別に聞かれます。こちらも事前の情報収集となります。
スタッフの職位と人数がスムーズに答えられないと架空人件費を疑われますし、専従者が休診日や診療時間を答えられないと事業従事実態を疑われます。調査官は概況調査の中で不自然なことがないかを精査しているのです。
たとえば、アポイント帳を手書きで作成している場合には、鉛筆ではなくボールペンを使うようにしたほうがよいでしょう。鉛筆で書かれたものは修正が容易なので、どうしても100%信用されづらいところがでてきます。
また、ボールペンで書いた場合でも、修正するときには、修正液を使うのではなく、二重線で消した形で直すことが望ましいでしょう。修正液だらけの帳面は、調査官の心証が良くありません。
●クリニック内見
概況調査がひと通り終わりますと、次は、院内の内見となります。内見箇所は次の通りです。
① 受付周り
税務調査官が一番、熱心に確認する場所です。レジの釣り銭・両替銭、アポイント帳やレセコン・電子カルテの帳票資料、領収証の控、納品書や指示書の控、カルテの保管状況、クスリ(院内処方の場合)の保管状況、名刺ホルダーの内容、院内連絡ノートの有無等、かなり詳細にチェックします。
② 院長室
あくまでも任意調査なので強制はされませんが、金庫や院長デスクに関しては中を見せてくださいといわれるケースもあります。パソコンが置いてある場合にはその使用目的を聞かれることもあります。
③ 診療室および待合室
固定資産台帳の内容とその実態が合っているかを実地検分します。医療機器については、リース物件と購入物件について確認をします。家具や絵画、電化備品等については不一致が発生することもあるので注意が必要です。除却や廃棄をしたはずのものが残っていると除却損を否認されます。購入しているはずのものが存在しない場合には、自宅での使用を疑われます。
④ スタッフルーム
ロッカーの名札、タイムレコーダーの設置場所およびタイムカードの氏名、シフト表が貼ってある場合にはその内容、カレンダー等が貼ってある場合にはその書き込み(パートのシフト)内容等をチェックします。また冷蔵庫、洗濯機、乾燥機等の電化備品の有無のチェックもします。
⑤ 撤去冠
歯科医院においては治療の際の撤去冠を入れてあるケースの確認があります。あわせて金属(パラジウム、ゴールド)の保管状況もチェックされます。
⑥ 駐車場
患者用駐車場や院長およびスタッフ用の駐車場がある場合には、その確認をします。院長がクルマ通勤の場合には、固定資産台帳に計上されている車両と同一であるか、チェックされます。
「レジの中の金銭」もチェックされる!
窓口ではもちろん、レジの中の釣り銭もチェックされます。釣り銭の管理がしっかりと行われているかどうかは、調査官にとって非常に重要です。もし金銭管理がルーズだと、このクリニックはいい加減だと調査官に強い先入観をもたれることになります。
そこで、調査当日は釣り銭の合計がぴったりと合っていることが求められます。10万円なら10万円、金銭出納帳残高通りに、レジの中に現金があることが大切です。
なお、それとは別に小口現金を使用している場合には、小口現金出納帳と現金残高が合っているかも確認されます。両替銭用の現金については特に問題視されません。
ドクター本人がずっと調査の現場にいる必要はない
税務調査に関する相談をドクターの方から受けるとき、「調査の間はずっと院内にいなければいけないのですか?」とよく尋ねられます。税務調査に立ち会う顧問税理士がいるのであれば、ドクター本人が応じなければならない場面を除いて、不在でも問題ありません。基本的には税理士の対応に任せておけば問題ありません。
調査の冒頭に行われる事業概況に関するヒアリングについては、ドクター本人が立ち会う必要がありますが、それが終わった後は、然るべき理由があれば席を外すことは可能です。しかしながら調査官が帰る前には一度、戻ってくる必要があります。というのも、カルテなどのドクターにしか提出できない資料の開示や診療内容などで、税理士には答えられない質問に対応するためです。
法人調査のように調査日数が2日間にわたる場合には、初日の午前中に概況調査が終わった後は、所用があれば戻らなくても問題ありません。ただし2日目の午後2時半ぐらいには戻っている必要があります。その理由は同様です。
「対応したい」という方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、調査官と対応している時間が長くなればなるほど、それだけ会話をする機会が増えます。そうなれば、話さなくてもよいことまでつい喋ってしまい、あらぬ疑いを持たれてしまうかもしれません。その結果、痛くもない腹を探られることにもなりかねません。沈黙は金なりとはよくいったものです。
やはり、顧問税理士が立ち会っているのであれば、任せられることはすべて任せて、ドクター本人は前面に出ないほうが賢明であるといえます。
近隣に借りているスタッフルームを見に来ることもある
クリニックによっては、院内が手狭になっているなどの理由から、近隣にスタッフルームを借りていたり、あるいは備品や医薬品等を保管する倉庫を借りているケースも見受けられます。
これらの家賃について経費計上している場合には、調査官から「そちらも案内してほしい」と言われる場合があります。これはスタッフルームにスタッフではなく、院長自身もしくは、「特殊関係者(愛人)」が住んでいるようなケースがあるためです。
もちろん、後ろめたいことがなければ、堂々と案内すればよいだけです。会計事務所も知らないようなことがある場合については、さすがにフォローはできかねます。肝に銘じておいてください。