なぜ「青色申告」なら、65万円控除が受けられるのか?
事業所得や不動産所得などの確定申告の方法には「青色申告」と「白色申告」があります。
必要となる書類に違いがあるだけではなく、経費として認められる範囲も異なります。それぞれにメリット、デメリットがあり、どちらを選択すべきかは個人によって異なり、一概にどちらの方が良いと言うことはできません。
しかし、税務署の広告や経理関連雑誌などで青色申告をすすめているのをよく見かけます。
税金のマニュアル本やインターネット上の記事などでは、必ずと言っていいほど青色申告をすすめています。青色申告をした方が絶対に有利です!という論調です。そしてそれらを目にした方は「青色申告が有利なんだろうな」と思い込んでしまい、よく理解しないままに青色申告にしているケースがあるようです。
青色申告と白色申告の違いや、基本的なメリット・デメリットは語り尽くされているので、特筆することはないでしょう。簡単にポイントをまとめます。
■青色申告
[メリット]
・65万円の特別控除を差し引くことができる
・青色事業専従者給与を設けることができる
・純損失の繰越しと繰り戻しができる
・貸倒引当金を設定できる
[デメリット]
・正規の簿記が非常に複雑で経理初心者には難しい
■白色申告
[メリット]
・記帳が簡単で申告手続きがシンプル
[デメリット]
・特別控除を受けることができない
・赤字の繰越しや貸倒引当金を設定できない
各種書籍やWeb媒体等では青色申告のメリットにフォーカスし、「青色申告をした方が良い!」と結論づける場合が多いのです。そもそも税務署が青色申告を推奨しているので、税務署の意向に沿っていると言えば沿っているのですが、意外な落とし穴もあるので、その点には注意が必要です。
それではどんな落とし穴があるでしょうか。青色申告のデメリットとして「帳簿管理の複雑さ」を挙げましたが、65万円の特別控除を受けるためには、所得金額の明細を示す「損益計算書」と、現金預金や借入金などの財産の目録を示す「貸借対照表」の作成をゴールに、原則として「複式簿記」で記帳します。
複式簿記というのは収入と経費の計算書だけではなく資産の増減も完全に記録するので、二つの簿記は当期の利益の部分で完全に一致することになります。複式簿記では、収支計算だけでなく、財産の目録も一緒に作っているようなものなので、売上金が今どこでどういう状態にあるということまで完璧に分かるようになっているのです。
逆に言えば「人為的なミス」が起こりにくくなります。複式簿記は損益計算書か貸借対照表のどちらかが間違った場合は、帳簿が一致しなくなるので、うっかりミスをしても途中で気づくはずです。ということは、国税側が売上の計上漏れなどを見つけた時に納税者が、「うっかり間違えました」と言い訳しても一切通用しないことになるのです。
複式簿記での記帳は経理初心者にとってはかなり大きな負担です。税務署の関連団体などが記帳方法などの指導も行なっていますが、複式簿記を素人が自分だけで作るのは事実上無理です。
税務署とは「できるだけ多くの税金を徴収したい機関」であることは何となく理解できると思います。その税務署が「65万円の控除」という大きなアメを与える真の理由は「ミスが生じにくい帳簿を用意させ、チェックが楽になる見返り」と考えてもよいでしょう。
すでに確定申告をしているサラリーマンは注意が必要
青色申告のメリットで「65万円の控除」とありますが、その年の所得がそもそも赤字であった場合には65万円の特別控除を受けることができません。そのため、大きな減価償却費を計上できる不動産オーナーや、事業を始めたばかりで経費の方が大きくなりがちな副業サラリーマン、個人事業主の場合は青色申告のメリットは受けにくくなると考えられます。特別控除の恩恵がないのであれば、複雑な帳簿を用意する手間は無駄と感じる方もいるでしょう。
もう1つ注意するポイントがあるので、これまで副業の雑貨販売で事業所得を毎年確定申告していたサラリーマンのAさんの事例で紹介しましょう。
Aさんは記帳が比較的楽な白色申告をしていました。そしてある年の5月に投資用のアパートを購入。アパートの賃料収入が高く、不動産所得が大きな黒字になる見込みだったため、税金の恩恵がある青色申告に切り替えたいと考えました。青色申告申請の提出期限である3/15は過ぎていましたが、不動産事業を開始した日から2ヵ月以内であるので、税務署に青色申告の申請を出しても間に合うと考えました。
しかし、結果として税務署から承認されませんでした。承認されなかった理由は「不動産事業を開始したのは5月であっても、そもそも事業所得で毎年確定申告をしていたので3/15までに青色申告の申請を出さなければならなかった」というものです。
つまり、何か事業所得を白色申告していた場合、年の途中で別の事業を始めて申請をしても、青色申告の適用は翌年からになる可能性が高いと言えるのです。たとえば、所有戸数が事業的規模に増えた不動産投資家など、白色申告から青色申告への変更を検討している方にとっては注意が必要です。
最後に冒頭の繰り返しになりますが、「青色申告と白色申告のどちらを選択すべきか?」というテーマは、「こちらが有利」という万人に当てはまる答えはありません。それぞれの特徴をよく理解することが重要です。