副業の推進、公的年金への不安などにより、不動産投資を行う会社員、いわゆる「サラリーマン大家」が増加しています。しかし知識が不十分のまま不動産投資に乗り出してしまい、きちんとメリットを享受できている人は少ないのが現状です。本連載では、サラリーマンの節税相談で定評のある大平宏税理士事務所の中山慎吾税理士が、不動産投資のメリットの一つである節税効果について解説していきます。

不動産投資で節税…肝となる「減価償却」とは?

低金利やいわゆる「老後2000万円問題」によって、サラリーマンの間で資産形成に対する興味・関心が高まっていますが、その手法は様々です。なかでも不動産投資には様々なメリットがあり、その中の1つが節税に関するものです。

 

本来、投資で収益が出れば税金を支払うのは当然ですが、不動産投資において「減価償却」を上手く活用すると、キャッシュアウトを伴うことなく費用を計上でき、結果として節税につながるという事例が多くなっているのです。

 

「減価償却」とは、減価償却資産(不動産投資の場合は建物や付属設備、構築物、器具備品など)をその耐用年数に応じて、各年度に減価償却費として費用配分するものです。

 

不動産投資におけるほとんどの経費は、通常金銭支出を伴うものですが、減価償却費は資産を購入した時に支出した金額を耐用年数に応じて各年分に費用配分されるもので、金銭支出を伴わない費用として代表的なものです。金銭支出を伴うことなく費用計上ができるので結果として不動産所得を小さくすることが可能となります。

 

「減価償却費」を多く計上して目先の節税を図るポイントは、なるべく建物明細書等を参考にして、建築費を建物本体部分(躯体)と、それ以外の付属設備、構築物、その建物に付随する備品などに細分化して計上することです。

 

なぜ細分化することが重要かといえば、建物以外の資産は耐用年数が短く設定されているので、建築費をすべて建物本体に含めて計算するよりも、減価償却費を多く計上することができるからです。たとえば建物はRC造だと耐用年数が47年なので建物価格を47年かけて費用計上していきますが、電気設備や給排水設備の耐用年数は15年なので設備部分は15年間で費用計上します。

 

ちなみに建物付属設備を建物本体と区分せずに建物の耐用年数を適用できるのは、木造、合成樹脂造又は木骨モルタル造の建物に限定されており、マンションなどに多いRC造は、建物と建物付属設備に区分計上しなければならないとされており、ミスが目立つ項目となっています。

 

不動産投資における主な減価償却資産の耐用年数は以下の通りです。

主な減価償却資産の耐用年数

減価償却の計算は「区分計上」と「耐用年数」が重要

「減価償却費」でもう一つの大事なポイントは、取得した物件が中古資産だった場合の減価償却費の計上方法です。通常用いられる簡便法で考えてみましょう。たとえば築10年のRC造マンションを購入した時の躯体、設備それぞれの耐用年数は

 

躯体:47年-10年+10年×20%=39年

設備:15年-10年+10年×20%=7年

 

となり、新築の場合よりも耐用年数は短くなります。目先の節税には非常に効果があるのです。

 

ここで大切なのは、中古不動産を取得した初年度の確定申告において誤って耐用年数を計上してしまうと、後に正しい数値にやり直す(更正の請求)手続きはできないということです。

 

平成26年、国税不服審判所(国税庁に設置される特別機関)に、ある税理士から請求がされました。自身で中古の賃貸不動産を購入したところ、建物の耐用年数を法定耐用年数で申告してしまったというのです。そこで誤った申告をしてしまったと、更生の請求を行いました。

 

これに対し「更生すべき理由がない」と、簡便法による中古資産の耐用年数に訂正することはできないと、判断が下されました。そもそも更正の請求という納税者が有利になるように確定申告をやり直すことは

 

課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていないかったこと又は当該計算に誤りがあったこと(国税通則法第23条第1項より)

 

というのが要件で「間違い」がなければできません。中古の耐用年数を採用していないことは「間違い」に当たらないという解釈になっているのです。税理士のような税のプロでもミスが目立つ項目なので、耐用年数の選定は慎重かつ正確に行う必要があります。

 

このように不動産投資において、減価償却の計算では、① 躯体と設備に区分して計上する ② 中古資産の耐用年数を正しく選定する と2つのポイントがあります。ではこれらを間違えると、どれくらいの差が生じるのでしょうか。

 

東京都の平均年収612万円の独身サラリーマン(所得税・復興特別所得税・住民税合わせた税率が30.42%)が、築10年のワンルームマンション(建物価格2000万円、年初に購入)に投資した場合を例にして考えてみます。

 

まず躯体70%、設備30%と仮定すると、正しい計算は以下のようになります。

 

躯体:20,000,000円×0.7×0.026=364,000円

設備:20,000,000円×0.3×0.143(耐用年数7年の償却率)=858,000円

合計:520,000円+858,000円=1,378,000円

1,378,000円×0.3042(税率)=419,187円

 

まず区分計上していない場合、

 

20,000,000円×0.026(耐用年数39年の償却率)=520,000円

520,000円×0.3042(税率)=158,184円

 

その差額は「419,187円-158,184円=261,003円」となります。

 

次に中古資産の耐用年数を間違えた場合を見てみましょう。

 

躯体:20,000,000円×0.7×0.022(耐用年数47年の償却率)=308,000円

設備:20,000,000円×0.3×0.067(耐用年数15年の償却率)=402,000円

合計:710,000円×0.3042(税率)215,982円

 

その差額は「419,187円-215,982円=203,205円」となります。

 

では、区分計上もせず、耐用年数も間違えた場合はどうなるのでしょうか。

 

20,000,000円×0.022=440,000円

440,000円×0.3042=133,848円

 

その差額は「419,187円-133,848円=285,339円」となります。

 

このように、最大で285,339円も目先の節税額が減少してしまうことになるのです。不動産投資においては購入した年の確定申告が本当に大事です。区分計上と中古資産の耐用年数の計上がいい加減だと、想定通りの税務メリットを享受できなくなってしまうと、十分に心得ておきましょう。

 

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