ポイント
格付会社のムーディーズ社の格下げによって、南アフリカ経済は更なる苦境に陥る可能性があります。
ピクテ独自の公的債務の持続可能性スコア(Zスコア)※1と、ムーディーズ社の格付を遡って検証すると、概ね同方向の動きとなっています。そのため、同社は2019年11月1日に南アフリカを投資不適格に格下げする可能性があります(図表1参照)。
※1. ピクテの公的債務の持続可能性スコアは、ピクテの社内で算出され、先進国と新興国両方の公的債務が、もはや後戻りできないほど悪化する前に、状況を把握しようとするものです。総合的なスコアは、国別の補助スコアと、時系列の補助スコアの合計となります。国別の補助スコアは、他の国との相対的な関係を示して、全体の3分の2のウェイト、時系列の補助スコアは、国の状況を傾向として捉えて、全体の3分の1のウェイトです。総合的なスコアはZスコアと呼ばれて、他の国との相対的な位置付けと過去の動きを示します。Zスコアがプラスということは、国の財務状況が改善していることを示し、マイナスのスコアは悪化していることを示しています。
ムーディーズ社は、大手の格付会社の中で、唯一南アフリカを非投資適格にしていません。格付会社のフィッチ社とスタンダードアンドプアーズ社は、2017年4月当時のブラビン・ゴーダン財務相の解任に伴い、南アフリカを非投資適格である、「ジャンク債」に格下げしています。
この格付の情報に関連して、南アフリカの財政状況の悪化と問題点について見ていきましょう。
南アフリカの悩みの種である債務状況
南アフリカは、他の新興国と比較して財務状況が悪化しています※1(図表2参照)。
南アフリカの経済成長による債務削減は限定的と見ています。GDP成長率と債務に対する支払利息の比率がマイナスとなっているからです(図表3参照)。
また、経済成長力の予期せぬ鈍化によって、政府の歳入が減少したことから、資金調達能力、例えば民間部門の借入残高は、弱含みの状態が継続しています。ピクテが独自に作成している景気先行指数によると、目先好転するめどが立っていません(図表4参照)。
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国営企業が事態をさらに悪化
国営企業に対する資金注入によって、南アフリカの財政事情はさらに悪化しています。実際、政府は同国最大の電力会社であるエスコム※2に対して、2020年~2021年の財政年度において、2,300億南アフリカランド(40億米ドル)の新たな資金援助の予算を発表しています。エスコムへの援助金額は、この既に決定している今後10年間の予算のうち、最大のウェイトを占めています※3。
※2. 国営電力会社であるエスコムは、南アフリカの電力消費の約95%、アフリカ全体の約45%を供給しています。出所:http://www.eskom.co.za/OurCompany/CompanyInformation/Pages/Company_Information.aspx,20.09.2019
※3. 出所:Bloomberg, FX rates as at 23.09.2019
他の危機に陥っている国営企業の例として、南アフリカ航空、南アフリカブロードキャスティング、デネル※4があげられますが、今後緊急の資金援助が必要になると見ています。
※4. デネルは、軍需産業、セキュリティ、航空宇宙、ならびに関連する技術関連の事業を営む企業。ムーディーズ社の格下げは、南アフリカに耐え切れない負担ムーディーズ社による格下げは、南アフリカの経常収支が赤字であることから、対外債務の状況をさらに悪化させると見ています。
対外借入のニーズは依然として高いものの、ポートフォリオ投資(Portfolio Investment)は通常格付けによる制限があることから、海外からの直接投資(FDI)よりも、より不安定な資金に頼らざるを得なくなる可能性があります。
また、非投資適格への格下げは、資本流出につながる可能性があると考えます。同様に、資本流出は通貨安につながります。特に、南アフリカランドは、新興国通貨の中でも割高となっていることから、通貨安が懸念されます(図表6参照)。
南アフリカ経済は、対外債務へのニーズの高まりから、時間の経過とともに悩ましい状況が継続しています。
現状では、弱い経済成長力や国営企業への資金援助の増加を背景に、南アフリカの財政状況が好転するとは考えられないと見ています。11月1日に予想されている非投資適格への格下げは、事態をさらに悪化させると考えます。ラマポーザ大統領の、断固たる財政改革が早急に求められています。
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『南アフリカ経済への圧力』を参照)。
(2019年10月1日)
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