●市場では10月の会合で日銀がマイナス金利深掘りなど政策の枠組み強化を行うとの見方が浮上。
●9月にマイナス金利を深掘りしたECBは新たに階層構造方式を導入し、金融機関の負担を軽減。
●階層構造方式導入済みの日銀はマイナス金利深掘りが技術的に可能だが極力温存が望ましい。
市場では10月の会合で日銀がマイナス金利深掘りなど政策の枠組み強化を行うとの見方が浮上
日銀は9月19日、金融政策決定会合後の声明文において、10月末の次回会合で、経済・物価動向を改めて点検する方針を示しました。また、黒田総裁は同日の記者会見で、①追加緩和については前回より前向きである、②長期金利が操作目標から外れて低下する状態をいつまでも容認することはない、③現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組み全体を変更する必要はない、と述べました。
さらに黒田総裁は9月24日、大阪市での記者会見で、追加緩和が必要になった場合、短期や中期の金利をさらに下げる必要があるとの見解を示しました。一方、超長期の金利低下は、年金や生命保険の運用難という副作用を強める恐れがあり、回避すべきと述べました。そのため市場では、次回会合で、マイナス金利の深掘りを含む長短金利操作の枠組み強化が行われるとの見方が浮上しています。
9月にマイナス金利を深掘りしたECBは新たに階層構造方式を導入し、金融機関の負担を軽減
これに先立ち、欧州中央銀行(ECB)は、9月12日の理事会で、マイナス金利の深掘りを含む金融緩和を決定しました(図表1)。ECBは現在、中銀預金と超過準備にマイナス金利を付利しています。中銀預金とは、民間金融機関が保有する余剰資金の中銀預け金です。超過準備とは、民間金融機関が預金の一定割合を中銀に預け入れなければならない所要額を超える分です。
中銀預金の残高は2019年9月20日時点で約4,600億ユーロ、超過準備の残高は7月31日から9月17日までの期間で約1兆2,000億ユーロとなっており、総額は日本円換算で約196兆円に達します。ECBはこの金額への付利金利を-0.4%から-0.5%へ引き下げましたが、今回、新たに階層構造方式を導入しました。その結果、マイナス金利の適用金額は、単純計算で約103兆円に減少し、民間金融機関の負担は軽減される見通しです。
階層構造方式導入済みの日銀はマイナス金利深掘りが技術的に可能だが極力温存が望ましい
日銀はマイナス金利導入時から、すでにこの階層構造方式を採用しています。具体的には、日銀当座預金残高を、①基礎残高、②マクロ加算残高、③政策金利残高という、3つの階層に区分し、①には0.1%、②には0.0%、③には-0.1%を、それぞれ付利しています。実際の残高は図表2の通りで、マイナス金利が付利される③の政策金利残高は、民間金融機関への配慮から、約19兆円と全体の5%程度に抑制されています。
日銀は階層構造方式を活用し、次回会合でマイナス金利を深掘りする一方、国債買い入れの調整で超長期金利の低下を抑制することは技術的に可能です。ただ、経済・物価動向を点検した上で、物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるリスクが相対的に小さいと判断すれば、一定程度、市場に緩和期待を残すコミュニケーションは求められますが、マイナス金利の深掘りは極力温存することが望ましいと思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『日銀は「マイナス金利の深掘り」をすべきか?』を参照)。
(2019年10月1日)
市川雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト