本記事は、2019年入管法改正で創設された在留資格「特定技能」において、特定技能所属機関が特定技能外国人との特定技能雇用契約締結時に注意すべき事項について、Q&A形式で平易に説明します。※わが国の人手不足解消の一手として政府が打ち出した「特定技能」という新しい在留資格。企業は外国人を雇用する際に、必ずその知識が必要となります。ここでは、外国人雇用や外国人就労の支援を専門としている行政書士・社会保険労務士の井出誠氏が解説します。

報酬額は、日本人が従事する場合と同等以上に

改正入管法が施行されて半年が経過しました。登録支援機関や特定技能試験も少しずつ整備され、特定技能もいよいよ本格的に動き出してきた印象です。

 

多くの企業が、「特定技能」での外国人雇用に関心を寄せるなか、特定技能雇用契約に関する質問を多くいただきます。ここでは、企業が特定技能外国人を受け入れる際に結ぶ雇用契約について、8つの確認事項を見ていきたいと思います。

 

 確認事項① 

労働時間は通常の労働者の所定労働時間と同等ですか?

 

特定技能外国人の所定労働時間が、特定技能所属機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等である必要があります。

 

特定技能外国人は、フルタイムでの業務に従事することが想定されていますので、比較対象となる「通常の労働者」とは、パートタイマーやアルバイト従業員のことではなく、その会社で働くフルタイムの一般労働者の事を指します。フルタイム社員に適用される就業規則において規定されている所定労働時間が例えば週40時間であれば、特定技能外国人の所定労働時間も40時間ということになります。

 

 確認事項② 

日本人と同等以上の報酬額を設定していますか?

 

特定技能外国人に対する報酬が、日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上である必要があります。

 

特定技能外国人に対する報酬の額については、外国人であるという理由で不当に低くなることがあってはなりません。同等程度の技能等を有する者であれば、日本人であろうが外国人であろうが、国籍に関係なく同水準の報酬を支払う必要があります。地方出入国在留管理局への在留諸申請の際、「特定技能外国人の報酬に関する説明書(参考様式第1-4)」を提出することになりますが、ここで申請人に対する報酬が、日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であることを説明します。

 

比較対象となる日本人がいる場合には、その方の職務内容・責任の程度・経験年数等を勘案し、報酬額が申請人と同等である旨を説明することになります。比較対象となる日本人がいない場合には、賃金規定等から判断することになります。ちなみに報酬体系に関しては、月給制に限定されているわけではなく、時給制でも問題ありません。

 

 確認事項③ 

一時帰国を希望した際は必要な有給休暇を取得させますか?

 

特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合、必要な有給休暇を取得させる必要があります。

 

労働基準法第39条には、「労働者の雇入れ日から6か月継続し、全労働日の8割以上の日数を出勤した労働者に対して、継続し又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない」という有給休暇の規定があります。特定技能外国人に対しても当然に労働基準法等、日本の労働法令が適用になりますので、特定技能所属機関は、特定技能外国人から有給休暇の申し出があった場合、有給休暇を与える必要があります。

 

また、特定技能においては、通常の有給休暇だけにとどまらず、特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、必要な有給又は無給休暇を取得させることを「雇用条件書」で定める必要があるのです。どういうことかというと、例えば、10日の有給休暇をすべて使ってしまった特定技能外国人が、一時帰国のための休暇を取得したいと申し出があった場合、追加的な有給休暇の取得や無給休暇を取得することができるよう配慮しなければならないのです。そしてもう一つ、特定技能外国人の家族が『短期滞在』で来日した場合は、家族と過ごす時間を確保するため、有給休暇を取得することができるよう配慮しなければならないともされています。

帰国費用確保のための月々控除による管理は不可

 確認事項④ 

本人が帰国旅費を負担できない場合に補助できますか?

 

特定技能外国人が特定技能雇用契約終了後の帰国に要する『旅費を負担することができないとき』は、特定技能所属機関が、当該旅費を負担するとともに、出国が円滑になされるよう必要な措置を講ずる必要があります。

 

特定技能外国人が帰国する際の帰国費用は、原則、本人による負担となりますが、特定技能外国人が自ら帰国費用を負担できないときには、特定技能所属機関が帰国費用を負担するほか、出国が円滑になされるよう必要な措置、例えば、航空券の予約や購入等も行う必要があります。この帰国費用は、帰国することとなった原因を問いません。ただし、行方不明となった場合は除きます。この帰国費用を確保しておくために、特定技能外国人へ支払う報酬から月々控除するなどして管理することは認められておりませんのでご注意ください。

 

 確認事項⑤ 

定期健康診断を受診させることになっていますか?

 

事業者は労働者を雇用するうえで、労働者の健康を確保する義務が求められます。労働安全衛生法のなかに、「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。」という規定があります。いわゆる一般健康診断を雇入時及び毎年1回以上行う必要があるのです。これは労働者の国籍に関わらず行う必要がありますので、特定技能外国人として、日本で就労活動を行っていただく外国人に対しても当然に適用されます。

 

また、特定技能外国人に対しては、生活状況の把握のための措置として、緊急連絡網を整備したり、定期的な面談において日常生活に困っていないか、トラブルなどに巻き込まれていないかなどを確認することも特定技能所属機関に求められています。

 

 確認事項⑥ 

報酬支払は口座振り込みになっていますか?

 

労働基準法には、労働者への報酬支払について、いわゆる「五原則」というものが規定されています。五原則とは、①直接払い②全額払い③毎月1回以上④一定期日を定めて⑤通貨で支払うという5つです。したがって、労働者への報酬支払は原則、通貨で支払うこととされていますが、労働者の同意を得た場合は銀行振り込み等で支払うことができる仕組みになっています。

 

特定技能外国人への報酬の支払いに関しては、より確実かつ適正なものとするため、当該外国人に対し、報酬の支払い方法として預金口座への振り込みがあることを説明したうえで当該外国人の同意を得た場合は、預金口座への振り込みにより行うこととされています。支払いを口座への振り込みとした場合、四半期ごとに行う特定技能外国人の活動状況に関する届出の際に、口座振込明細書や取引明細書等の写しを添付する必要があります。

 

保証金の徴収、違約金契約の締結は厳禁!

 確認事項⑦ 

特定技能外国人との間で、保証金の徴収や違約金契約の締結が行われていませんか?

 

技能実習制度において、外国人実習生の失踪防止を目的として保証金の徴収や違約金契約の締結が行われる等の不正事例が多く見受けられました。ここでいう「保証金」とは、仲介業者等が受入企業を紹介する際に、外国人から預かるお金のことであり、「違約金」とは、受入企業で契約期間の途中で退職した外国人労働者から徴収するお金のことです。

 

保証金や違約金による制約は、途中退職や失踪の防止を目的としていますが、外国人側からすると「退職することによってお金を失う」ため、不当な労働環境であったとしても、自由に退職することができなくなってしまい強制労働につながりかねないため、特定技能雇用契約においても厳しく禁じられています。所属機関においては、保証金や違約金の存在を知っていながら特定技能雇用契約を結んで特定技能外国人を受け入れた場合は欠格事由に該当します。

 

 確認事項⑧ 

費用負担をさせないことを説明しましたか?

 

1号特定技能外国人に対する支援に要する費用は、特定技能所属機関等が負担すべきものであり、1号特定技能外国人に直接または間接的にも負担させてはいけません。

 

ここでいう「支援に要する費用」とは、例えば、特定技能外国人の出入国時の送迎に要する交通費や事前ガイダンス・生活オリエンテェーション・定期面談実施の際等に係る通訳の費用など、特定技能外国人に対して行われる各種支援に必要な費用のことです。

 

特定技能外国人受け入れに当たっては、事前ガイダンス等において、支援に要する費用を直接または間接的にも負担させないことについて説明する必要があります。説明を受けた証明として、支援計画書及び事前ガイダンス確認書にサインをもらい出入国在留管理局へ提出することになります。

 

 

井出 誠

行政書士・社会保険労務士

社会保険労務士ブレースパートナーズ 代表

行政書士ブレースパートナーズ 代表

 

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