受け入れが進まないのは、制度の理解不足も原因
2019年4月1日の改正入管法施行により、動き出した新在留資格「特定技能」。人手不足に悩む各産業分野から非常に高い関心を集めている一方、特定技能外国人の受入れは、なかなか思ったように進んでいないようです。
初年度は4万人程度の受入を想定していたようですが、現状これを大きく下回り、令和元年11月末現在の速報値によると、特定技能在留外国人数は1,019人にとどまっています。
かなりのスピードで法整備及び法施行を行ったことにより、特定技能試験、各種協議会、登録支援機関、二国間協定等といった、特定技能の周辺環境整備の遅れが、受け入れがなかなか進まない主な原因として指摘されています。
また、複雑かつ重層的な「特定技能所属機関」に関わる各種基準及び非常に煩雑な「特定技能」の在留資格諸申請手続も、この制度が使われづらい大きな要因なのかもしれません。
「特定技能」という言葉自体は広まりつつも、その制度自体の理解は広まっていないようにも感じます。事実、「うちの会社でも特定技能外国人を雇用できますか?」という質問を業界問わず非常に多くの方からいただきます。
今回は、「特定技能」制度をぜひ活用したいと考えている企業向けに、「特定技能所属機関」として特定技能外国人を受け入れるにはどのような要件を満たす必要があるのかを解説します。
特定技能外国人の雇い入れができる会社「3つの基準」
「特定技能所属機関」とは、在留資格「特定技能」で、日本に在留する外国人を雇い入れる会社のことです。「受入れ機関」ともいわれます。「受入れ機関」になるための基準をご説明する前に、まず大前提として、特定技能外国人の受け入れを希望する企業は、特定産業分野14業種に該当する事業を行っている会社である必要があります。
特定産業分野とは、生産性の向上や国内人材確保のための取組を行っても、なお深刻な人材不足であり、当該分野の存続のために外国人材が必要と認められる分野のことです。現在は、下記の14業種が指定されています。
また、特定技能2号に関しては、いまのところ「建設」と「造船・舶用工業」の2分野のみ受入れが可能とされています。
さて、「特定技能所属機関」に対しては、特定技能外国人の雇い入れを適切に行っていくことが当然に求められます。ゆえに特定技能所属機関として特定技能外国人を受け入れるための基準が省令(特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令)等において、詳細に定められています。まずは、どのような基準をクリアする必要があるのかを理解しましょう。
特定技能所属機関となるための基準を大きく分けてみると、
A.特定技能所属機関自体が適切であること
B.特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切であること
C.特定技能外国人への支援体制と支援計画が適切であること
上記の3つに分類することができます。
以下では、3つに分類された基準の主要部分の中身を見ていきたいと思います(※一部内容を簡略化及び省略しています。詳細は省令をご確認ください)。
労働者の受け入れには、多くの条件のクリアが必要に…
A.特定技能所属機関自体が適切であること
当然のことですが、「しっかり法令等を遵守している会社でなければ、特定技能外国人を受け入れることはできません」ということです。下記項目を貴社に当てはめてみてください。すべてに該当していれば、貴社が特定技能所属機関となりうる可能性が高まります。
①労働保険料・社会保険料・税金はしっかり納付済みであること
②1年以内に非自発的離職者を発生させていないこと
③1年以内に外国人の行方不明者を発生させていないこと
④5年以内に入管法及び労働法令等における法令違反がないこと
⑤5年以内に技能実習を取り消されていないこと
⑥役員等の行為能力や適格性に問題がないこと
⑦債務超過になっていないこと
⑧保証金の徴収や違約金の徴収を求めていないこと
⑨支援に要する費用に関して、費用負担をさせないこと
⑩労災保険の保険関係成立がなされていること
B.特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切であること
特定技能所属機関として特定技能外国人と雇用契約を結ぶうえで、当然のことながら労働法令の遵守は必須です。プラス特定技能独自の上乗せ条件を満たしている必要があります。下記項目を貴社が結ぶ予定の雇用契約と見比べてみてください。すべてに該当していれば、貴社が特定技能所属機関となりうる可能性が高まります。
①相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事させること
②労働時間は通常の労働者の所定労働時間と同等であること
③日本人と同等以上の報酬額を設定していること
④一時帰国を希望した際は必要な有給休暇を取得させること
⑤本人が帰国旅費を負担できない場合に補助すること
⑥定期健康診断を受診させること
⑦報酬支払方法は口座振り込みになっていること
C.特定技能外国人への支援体制と支援計画が適切であること
1号特定技能外国人を雇い入れる場合、特定技能所属機関は、当該外国人に対して、職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援を行う必要があります。この支援を行える体制がしっかり整っている会社であり、かつ支援計画の内容も適切なものでないと1号特定技能外国人を雇い入れることはできません。
下記支援項目を貴社が行うことができるか確認してみてください。すべてに該当していれば、貴社が特定技能所属機関となりうる可能性が高まります。ちなみにこれらの支援等に関しては、登録支援機関へ支援の全部を委託することで満たすことは可能です。
①外国人が十分に理解できる言語で支援を行うこと
②1号特定技能外国人支援計画が作成されていること
③事前ガイダンスを実施していること
④出入国時に空港等への送迎をすること
⑤外国人の住居確保に係る支援をすること
⑥外国人の入国後に適切な情報提供を行うこと
⑦生活に必要な契約に関する支援を行うこと
⑧日本語学習の機会を提供すること
⑨日本人との交流促進を行うこと
⑩非自発的離職時に転職支援を行うこと
⑪過去2年間に中長期在留者等(就労系資格に限る)の受入れ経験等があること
いかがでしたでしょうか? 非常に多くの要件をクリアしなければ、「特定技能所属機関」として、特定技能外国人を受け入れることが難しいと感じた方も多いと思います。
改正法施行後、昨年末で9カ月が経過しましたが、なかなか特定技能在留外国人数が増えていないのは、やはり制度自体が非常に複雑であり、満たすべき基準も多岐にわたることがひとつの原因だと思います。
「興味はあるが制度自体が非常にわかりづらく手を出しづらい」との声も多く聞きます。
また、「外国人にも単純労働をさせることが出来るようになった」といった誤った理解をされている方も多いように感じます。
5年間で約34万人の受け入れを想定している「特定技能」という新たな在留資格。今後も、人手不足や採用難の悩みを抱え、ぜひ特定技能制度を利用して、特定技能外国人を受け入れたいとお考えの企業関係者及び外国人雇用に携わる方々の制度理解につながるような有益な情報を発信してきたいと考えています。
井出 誠
行政書士・社会保険労務士
社会保険労務士ブレースパートナーズ 代表
行政書士ブレースパートナーズ 代表