「アセアン各国の利下げをどう考える?」
→利下げは景気持ち直しに貢献し、株式市場に追い風
ポイント:「アセアン株式市場に追い風」
●アセアン域内では利下げが相次いで行われています。5月7日のマレーシアを皮切りに、フィリピン、インドネシア、タイと続きました。さらにフィリピンとインドネシアは8月に2回目の利下げを行いました。
●多くのアセアンの中央銀行にとって利下げしやすい環境が醸成されています。具体的には、①米国の利下げ局面では自国から資本流出が誘発されるリスクが小さいこと、②自国のインフレが安定していること、③人民元の安定が自国通貨の安定をもたらしやすいこと、を指摘できます。
●米中貿易摩擦の激化および中国景気の減速を受けて、アセアン地域の景気センチメントは弱含んでいます。アセアンの5カ国(インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム)の実質GDP成長率は2018年実績で5.2%でしたが、2019年には5%割れに減速する見込みです。
●しかし、金融緩和を含めた景気対策によって、アセアン地域の景気悪化には歯止めがかかり、2020年の実質GDP成長率は再び5%程度に戻る展開が予想されます。
●先行きの景気の持ち直しは、アセアン株式市場の追い風になりそうです。アセアン地域で追加利下げが可能な金融市場は景気持ち直しを先取りすると考えます。
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「アセアンの通貨はどうなる?」
→中国政府は元安政策をとらない見込み。
アセアン5カ国の通貨は安定へ。
ポイント:「人民元の急落はない見込み、アセアン通貨の下支えに」
●アセアンを含めたアジア通貨の動向を考える上で、人民元の動向は重要です。人民元が大きく下落するという観測が大勢を占めるようになれば、アセアン通貨にも下落圧力が働きやすくなり、アセアンの中央銀行の金融緩和政策が抑制されるためです。
●8月5日に人民元の対米ドルレートは約11年ぶりに1ドル=7元を超えて下落しました。これまで市場では中国政府にとって7元は死守すべき水準という認識があったことから、中国政府が元安政策を採用したとの観測が浮上しました。トランプ米大統領が8月1日に、中国からの輸入品残り3,000億ドルに対して10%の制裁関税を賦課するとの方針を明らかにしたことに対抗し、輸出競争力の視点から中国が元安政策に踏み切ったのではないかとの見方が強まりました。
●しかし、人民銀行は元安政策を採用しない方針を繰り返し主張しました。実際、8月5日の人民元の対米ドル基準レートは6.9225と、7より元高水準に設定されており、中国政府が意図的に7超えの元安を誘導しなかったことは明らかです。その後、中国政府は、米中貿易摩擦の激化による元安圧力を背景に、市場実勢に近づける形で対米ドル基準レートを7元超えに設定しましたが、小幅な変動にとどまっています。
●人民元の対米ドルレートは7超えの後、安定しており、元安が一気に進んでいく様子はありません。中国政府は2015年8月の「人民元ショック」の際、元安の進行を放置したことから資本流出ペースが加速し、マクロ経済の安定運営が難しくなった苦い経験をしているため元安の加速には歯止めをかけるとみられます。中国政府が元安政策をとらないことはアセアンの通貨にとってアンカーの役割を果たしそうです。
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※当資料は「アジアリサーチセンター」のレポートを基に作成しています。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『利下げが進むアセアン諸国』を参照)。
(2019年8月23日)