「全部、俺のものだ」遺言書の書直しを命令した長男…結末は?

夫婦のうち一方の死亡に伴う、残された配偶者と子供による相続を「一次相続」、そして一次相続後、残された配偶者の死亡に伴う子供による相続を「二次相続」といいます。どちらも、しっかり対策を行わないと、泥沼の「争続」に発展しかねません。そこで本記事では、税理士の廣田龍介氏が、実際に携わった相続争いの事例を紹介します。

万全の相続対策をしていた母親だったが…

一次相続で山手線圏内の駅近くに150坪ほどの土地と建物を引き継いだ母親がいました。子どもは長男、長女、次女で、長男一家は母親と住んでいましたが、実際に日常の世話をしているのは長女、次女でした。

 

母親は不動産に明るく、相続のことも考えていたので、資産ごとに受け継ぐ子の名前が明記されている遺言書をこっそり書いていました。というのも、長男は父親が亡くなった一次相続の時から「全部、俺のものだ」と主張しており、母親は自分が亡き後に長男がどのような行動を取るか想像しての対策だったのでしょう。

 

その遺言書を、ある日、長男は母親の部屋から見つけて読んでしまったのです。そしてその遺言書に書かれている自分の持ち分に納得がいかず、それから母親を脅すようにして、何度も遺言書を書き直させました。実際、長男が母親に書かせた遺言書が何通も見つかっており、日付が新しくなる度に長男の持ち分が多くなっていました。長男と長女・次女との交流は母親が存命中からすでになくなっていたので、遺産分割について話し合うどころではありません。

 

遺言書が長男にバレてしまった…
長男に遺言書の存在がバレてしまった…

 

そんな状況が続いている中、ついに母親は亡くなります。高齢だったのでもともといつどうなるかわからない様子ではあったのですが、長男がその場に居合わせたため、「何かあったのか」と長女・次女は不審に思っていました。長男はここぞとばかりに遺言書を振りかざし、その通りに分けるよう主張しますが、長女・次女は事実を解明しようと弁護士を入れ、「相続人の欠格事由」と「遺言書無効の訴え」で争う姿勢を見せました。

 

最終的には長女、次女が折れ、いくばくかのお金で解決となりましたが、あれだけもめてしまったので兄と妹たちは縁を切った状態となり、今後も付き合うことはなさそうです。

 

相続から少しして、すべてが長男のものとなったその土地を見にいくと、自宅は壊され、ブルドーザーが入っていました。デベロッパーに土地を売ったのか、ご自身がビルを建てるのかその後のことは定かではありません。

 

長男も、家督相続という考え方の中で、長男として財産を承継し、それを次世代にも承継させるつもりだったのかもしれませんが、これが故人の希望するものだったのかは外野から見ていて疑問が残ります。

 

これは極端な例と思われるかもしれません。しかし、現代ではこのように自分以外の家族のことを考えずに、自分の権利ばかりを主張する相続が増えてきていると私は感じます。この事例のような争いまで発展せずとも、根本のところでは、権利の主張がもめ事の引き金になっているケースが多くなっているのです。

 

なぜ、現代では権利ばかりを主張するようになってしまうのか。一概に言えることではないかもしれませんが、私は、核家族化が進み、一緒に暮らさないことで家族との絆を深める機会が少なくなったのが一因ではないかと考えています。

 

家族との関係性が薄いままでいることが、相続で問題を引き起こしてしまいます。ますます家族の絆が必要な時代が来ているといえるのではないでしょうか。

「親と同居しているかどうか」が鍵になるケースも

権利の主張でわかりやすいのは、法定相続分です。法定相続通りの取り分をもらう権利を主張する相続人が出てきて、そのためにもめてしまうのです。

 

相続が生じた場合、民法により法定相続分が規定されています。法律による平等の割合ということになります。

 

法定相続というと「財産を相続人で割って、平等に相続する」というイメージを持っている方も多いのではないかと思います。確かに財産を均等に割るような制度ですので、それを頼りにする相続人がいても不思議ではありません。しかし、法定相続とは本当に平等を意味するのでしょうか。ここに一考の余地があると私は考えています。

 

現実的に財産分けを協議して決める時は、一次相続時には親のどちらかは健在です。親には生活基盤である自宅と生活費、収入基盤となる預貯金や賃貸不動産を相続するようにします。子どもたちには、その生活状況や生活環境を考慮した上で、親の目で見た公平、平等の観点で財産を分けます。

 

例えば、自分が親の立場だと仮定して考えてみてください。長男は有名塾の月謝や私立大学の学費などで教育資金がかなりかさんだけれども、次男はそういった経済状況を憂慮し、塾も行かず独学で必死に勉強してお金のかからない国立の大学に見事合格したとします。さて、親の立場から考えて、この息子2人に、法定相続通り平等に財産を分ける気になるでしょうか。

 

これは単純な例です。もちろん教育資金だけではなく、これまでの親子の交流や、結婚資金、自宅購入などで援助した分なども考えられますし、親が高齢化した際に面倒を見てくれたか見てくれていないかなど、実際にはもっとさまざまな要件が関わってきます。しかし、こういうことを考慮しないのが法定相続分です。

 

法の下には平等であっても、親子関係からしたら不平等だということがわかるのではないでしょうか。相続人それぞれの生き方や関わり方で、財産の分け方が違ってくるのは当然です。

 

問題は親のいない二次相続時です。

 

よくあるのが、親と同居していた子どもとそうでない子どもでもめることです。同居している子どもから見れば「親の面倒を見たのだから多くもらうのは当然だし、家も土地も家督も相続する」と思うこともあると思います。介護などをしたのであれば苦労もひとしおですのでなおさらそう思うかもしれません。

 

しかし、それにもかかわらず別居している兄弟と全く同じ取り分になったとしたらどうでしょうか。きっといい気持ちはしないはずです。それも、両親からの遺言などがなくて法定相続通りになったのであれば、兄弟にわかってほしいとアピールしたい気持ちも出てくるでしょう。しかしだからといって、同居している子なら何でもしていいというわけでもありません。

 

私が担当した相続にこんなケースがありました。父親が亡くなり相続となったのですが、子どもの中で唯一同居していた長男が、別々で暮らしていた次男や長女宛てに相続の書類を送ったのです。そこには「印鑑を押して送り返してくるように」と書かれていました。そして中身は、土地、建物などの財産をすべて長男が相続するという内容の遺産分割協議書だったのです。

 

長男は同居していたこともありますし、「法事もあるし、家も守るから後はこちらに任せろ」という意味合いを込めて送ったつもりのようです。しかし、何の相談もなしに印鑑を押して送り返してほしいというのでは、他の兄弟姉妹も穏やかな心情でいられないと思います。

 

別居している子どもにも言い分があります。「親と同居すれば家賃もかからないし生活費も親が出しているはず」と考える方もいるのです。そうなると「財産は法定相続通りに分けてもらおう」というように主張することになります。書類を受け取った兄弟姉妹の配偶者も「簡単に印鑑を押さないほうがいいんじゃないか」ということにもなるでしょう。「うちも裕福ではないのだから」くらいのせりふは容易に想像できます。

 

この事例では、実際に長男が負担しているものは他の兄弟姉妹よりも大きかったのです。だから、別居している子どもを蚊帳の外に置いて不信感を募らせるよりも、客観的な事実を説明して、冷静に納得してもらうことが必要でした。

 

相続人となる子どもたちにも、それぞれ考えがあります。それを納得できる方向に持っていかなければ、平等の思想が出てきて、たちまち争いが起こってしまいます。こういった争いを予防できるのは、やはり親です。親の意志が明確に子どもたちに伝わっていれば、争いは少なくなるのです。

 

相続で一度こじれてしまうと、仲直りせぬまま一生涯、絶縁状態になってしまうことが多いのです。自分の子どもたちがそのように争わないためにも、また親から見た平等を実現するためにも、できることを今から考えておくべきだと思います。

エクスプレス・タックス株式会社 代表取締役
税理士

福島県いわき市出身。昭和60年税理士登録。昭和61年株式会社タクトコンサルティングに入社し、不動産を使った相続税対策の草創期から資産税に携わる。土地は“持つべき資産”から“利用すべき資産”への発想に転換すべきことを早くから提唱。
平成23年1月にエクスプレス・タックス株式会社代表取締役に就任し、個人・法人の資産税を中心とした幅広いコンサルティングおよび講演を行っている。講演では、ケーススタディ方式で易しく解説し、多くのファンを持つ。また、最近では不動産M&A・等価交換事業・法人化対策・家族信託に特化したコンサルティングに力を入れている。

著者紹介

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