TPPの経済効果の恩恵を大きく受ける「ベトナム」
幾田 アジアのフロンティア市場における長期の成長についてお伺いいたします。どういった点に成長の期待がもてるのか、具体的に国を例に挙げてお話しいただけますか?
トーマス アジアのフロンティア市場のなかでも、特にベトナムに注目しています。ベトナムはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の加盟交渉国として、TPP経済効果の恩恵をうけるでしょう。今後中国に代わり、繊維、衣料産業の成長が期待できます。
以前に比べ中国元高や労働賃金の高騰で、中国の競争力が弱まる中、TPPに参加していない中国に代わって、ベトナムの繊維製品などの輸出が活性化されるでしょう。TPPの効果により、繊維、衣料産業の発展だけでなく、他の産業も明るい見通しです。
ベトナムでは、2007年から2008年に株式市場や不動産価格が下落しましたが、その後市場も安定し、特に建設、不動産業やインフラ関連産業において今後の成長が期待できます。
中国から他のアジア諸国へと生産拠点がシフトしている流れの中で、バングラデシュも大きな恩恵を受けると言えるでしょう。さらに、バングラデシュでは、工場の労働賃金が上昇してきており、収入が増えることで国内消費の伸びが期待できます。
前回バングラデシュに行った際、デンマークが出資している冷凍食品を生産する企業を訪問しました。以前はヨーロッパへの輸出が100%を占めていましたが、輸出向け生産を減少し、2、3年前から国内向けにシフトし始めました。今では、アイスクリームの生産ならびに国内向けの冷凍食品の生産が輸出を上回るほど、国内需要が伸びています。
他にも、製薬産業の伸びも期待できます。バングラデシュ政府は、繊維、衣料産業に偏っている現在の産業構成を危惧しており、他の産業の活性化を試みています。その産業が、製薬です。インドも20年前に似た政策を打ち出し、欧米各国より低価で医薬製品を提供し、グローバル市場で競争力のある存在となりました。バングラデシュも同じ過程を歩むことが期待できます。
日本の投資家も興味を示すベトナム、バングラデシュ
幾田 中国から他のアジア諸国へと生産拠点がシフトし、繊維、衣料産業を中心に成長が見られるようですね。中国とインドに隣接していることが、アジアのフロンティア市場に恩恵を与えているということでしたが、インドからはどうでしょうか?
トーマス 中国と違って、インドはITビジネスが成長産業です。インドでは英語が強みとなって、他の国からIT関連業務がアウトソースされています。アジアのフロンティア市場では、インドほど英語の成熟度が高くなく、ITビジネスへの参入の弊害となっています。ですから、中国と違ってインドからは、それほどビジネスは移行していません。
とはいえ、日本の企業がベトナムやバングラデシュにITプログラミングをアウトソースするなどの動きは出てきています。他の産業においても、ベトナムとバングラデシュには、日本と韓国の投資家が興味を見せています。ビジネスの規模はまだ小さいですが、今後の成長は期待できるでしょう。