都市常住者2.2億人以上が「非都市戸籍」
都市(城市、または周辺にある小都市、鎮を含め城鎮)化の推進は一貫して中国当局の重点政策となってきた。「国家新型城鎮化計画(2014~20年)」は20年までに都市常住人口比率(1年のうち延べ6ヵ月以上、都市に在住する者の対総人口比)を60%、都市戸籍人口比率(都市戸籍者の対総人口比)を45%にまで高める目標を掲げ、国務院は16年9月、都市戸籍人口比率の目標を達成するため、第13次5ヶ年計画期間(2016~20年)、1億人に都市戸籍を付与するとの方案を発出した。
都市化政策を所管する発展改革委員会(発改委)によると、都市常住人口比率は2000年36.2%から18年59.58%に上昇している。省市区別に見ると(各省市区統計を基に6月26日付界面新聞まとめ)、18年末、全国平均を上回る省が14、下回る省が10あった。なかでも、上海(88.1%)、北京(86.5%)、天津(83.15%)、広東(70.7%)、江蘇(69.61%)、浙江(68.9%)、遼寧(68.1%)が高く、西蔵(34.14%)、甘粛(45.52%)、貴州(47.52%)、雲南(47.69%)が低い。総じて、経済が発達している沿岸部の省や直轄市が高く、発展の後れている中西部・内陸部の都市化が低い傾向がある。中西部・内陸部の都市常住人口比率はなお低水準だが、多くが17年比1~2%ポイント上昇、特に貴州は14~18年、年平均2%ポイント弱の上昇を続けており、これら地域が都市化の面でなお大きな潜在性を有していることが窺える。
都市戸籍人口比率は同期間26.1%から18年43.37%にまで上昇した。また農村からの出稼ぎで都市に常住している農民工で都市戸籍を取得した者が9000万人を超えた(2019年5月7日付21世紀経済網、以下引用文献日付は特に記載しない限り2019年)。城鎮化計画や方案で掲げた目標の達成が見えてきた状況にある。ただ両比率の差、つまり都市に常住しているが都市戸籍を持たない者の総人口比は15年以降縮小傾向にあるものの、18年末時点でなお16.2%、約2.26億人で絶対数としては減少していない(図表1)。
都市別に見ると18年、少なくとも21都市で非都市戸籍者数が100万人を超えている。最も多いのは上海(976万人、総人口比40%)、次いで深圳(848万人、65%)、北京(765万人、36%)、東莞(608万人、72%)、広州(563万人、39%)が多い注1。
注1 4月14日付第一財経誌が各都市統計公報を基にまとめたもの。ここでの議論は各都市管轄下の総人口を基にしており、都市部の人口のみを示した本文の図表5とベースが異なる。特に直轄都市の天津、重慶、北京の周辺農村部を含めた総人口は図表5の人口を大きく上回る。
地域別には、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀(北京、天津、河北)に集中しており、特に珠江デルタは深圳、東莞で非都市戸籍者が都市戸籍者を上回る「倒挂」と呼ばれる現象が生じているなど、最も非都市戸籍者の比重が高い。都市化の推進にあたって、都市で働きながら都市戸籍を持たず、教育、社会保障等公共サービス面で都市戸籍者と同等の扱いを受けられない「半城鎮人」、半都市民と呼ばれる農民工の「市民化」、つまり都市戸籍を付与し、都市戸籍者と同等の公共サービスを受けられるようにすることが引き続き重要な課題になっている(『中国の重点政策「都市化」・・・これまでの進捗状況は?』)。
発改委は戸籍取得制限を大幅緩和、ポイント政策も
こうしたなか、発改委は2019年4月、「2019年新型城鎮化建設重点任務」(以下、「重点任務」)を発表した。そのなかで最も注目されているのが戸籍取得制限の緩和だ。「すでに都市部で就業している農民工の都市戸籍取得を推進し、戸籍制度改革をさらに進めるため」、また、「すでに常住人口100万以下の中小都市が逐次戸籍取得制限を廃止していることを踏まえ」、都市部の人口規模に応じて、次のように戸籍制限を緩和することが打ち出された(図表2~4)。
①常住人口100万~300万のII型大都市は制限を全面的に廃止
②常住人口300万~500万のI型大都市は戸籍取得条件を全面的に緩和し、「重点群体」の戸籍取得制限を全面的に廃止
③常住人口500万以上の特大・超大都市は戸籍取得のためのポイント(積分)制度を調整・改善し、戸籍取得者を大幅に増やすため、ポイント項目を簡素化すること。また、社会保険料納付年数と居住年数をポイントの主たる要素にすることを再確認すること
ここで「重点群体」とは、範囲は都市によって若干異なるようだが、発改委によると、一般に、都市部で安定的に就業・生活している新生代(1980年以降に出生)農民工、都市部での就業・生活が5年以上で、家族同伴で農村から出てきている者、大学に入学または軍に入るため都市部に来た農村学生などを指す(4月10日付中国新聞網)。また、ポイント制度は社会保険料納付年数、当該都市での居住年数、専門技能など様々な指標を数値化しポイントを計算、ポイントが一定以上になった者に戸籍取得申請を認める制度だ。2011年北京市を嚆矢とし、その後、深圳、広州、上海など各都市が相次いで導入しているが、具体的計算方法は各都市で大きく異なる(中国百度百科)。
全国的には、国務院が14年に発出した「戸籍制度改革をさらに進めることに関する意見」で、「ポイント政策の改善を進め、その制度を完全にしていくこと」とされた。「重点任務」はこの他、一般的な方針として、①都市政府は差別化され精密化された戸籍付与政策を採り、貧困家庭登録カード(建档立卡)に登録されている農村貧困世帯への都市戸籍付与を積極的に推進すること、②都市部で住宅を借りて常住している者も戸籍取得の許可対象にすることを掲げている。
中国住房和城郷建設部(住建部)が発表している「2017年中国城市建設統計年鑑」によると、都市部の人口が1000万を超える超大都市は上海、北京、深圳、広州、500万~1000万の特大都市は武漢、重慶、天津、成都、東莞等10都市、300万~500万のI型大都市は13、100万~300万のII型大都市は65に及ぶ。すでに制限を廃止している100万以下の中小都市とII型大都市を合わせると、全都市の8割以上で制限が廃止されることになる(図表5)。
「重点任務」が発表された際、「戸籍取得制限の緩和はすでに大きな流れになっており、多くの人にとって今回の措置は意外なものではなかった」とする反応がある(4月9日付中国寧波網)。
他方で、城鎮化計画では100万~300万都市は「制限を合理的に緩和」、300万~500万都市は「制限条件を合理的に確定」、500万以上都市は「人口規模を厳格に管理」すると規定されていたことと比較すると、今回の措置はこれまでの「雷声大雨点小」「口恵而実不至」(「雷は大きいが雨は少ししか降らない」「他人に対し口先でよいことを言うだけで、実益をもたらしていない」)と揶揄されてきた状況、つまり、戸籍改革が重要と声高に言いながら、たいした政策が出てこなかった状況からの重大な方針転換として、中国内外で評価する声も多い(4月9日付多維新聞)。
特に、これまで地方政府が戸籍付与に消極的だった主たる理由は、戸籍付与に伴い、戸籍新規取得者に対する公共サービス提供で財政負担が増すこと、人口増で都市用地がひっ迫することへの懸念だったが、この点に関し、「重点任務」は「人地銭挂鈎」の深化、つまり都市戸籍付与数(人)と中央からの歳入移転(銭)、および都市建設用地(地)の増加をリンク(挂鈎)させる方針を明確に示した点が注目されている。それぞれ一般には「銭随人走」「地随人走」と称されている。
今後も「北京・上海」の戸籍取得は困難か
「重点任務」の発表を待たず、事実上、2019年に入り、50を超える地方都市が4月初までに、人材誘致のため戸籍付与推進や住宅購入補助などの様々な措置を相次いで発表しており、その数と内容の豊富さはかつてないものという。そのうち戸籍取得制限緩和に関しては、例えば石家庄は3月、戸籍取得の際に課していた「安定的な住所と就業」という条件を廃止し、省都としては初の「零門檻」、つまり戸籍取得にあたって敷居のない都市となった。また西安は2月、過去2年間で7回目となる緩和策を発表し、学歴に応じて年齢制限を緩和した(本科大学卒注2は年齢制限なし、本科未満は45歳以下など)。
注2 日本の4年制大学に相当。学士資格を取得できる。高等教育機関にはその他、専科大学(日本の専門学校に相当)、職業大学(職業専門教育を実施)などがあるが、学士資格は得られない。
さらに、「重点任務」は戸籍未取得者について、希望者全てに居住証注3を発行し、居住証でカバーされる公共サービスの範囲を拡大するとの方針を提起したが、これも先行して実施している都市がある(4月20日付人民網他)。
注3 居住証については主要関連拙稿「中国の都市化と土地改革の行方」(外国為替貿易研究会「国際金融」No.1309、2018年6月)17~18ページ参照。
超大・特大都市についても、「重点任務」が発表される以前から、すでに戸籍取得の新たなルートを導入する動きがある。例えば、深圳は17年、大幅に簡素化したポイント制を試行し(申請資格から学歴や技術の要件を廃止し、年齢、居住・就業、法令順守状況の3つの要件に限定)、それに基づき、17年、18年の定数枠を各々1万名とした。広州はポイント制を導入した11年の定数枠は1000名にすぎなかったが、16年6000名、18年7000名と枠を拡大している。
19年1月には、今後、戸籍付与の際に出生計画との整合性を前提条件にしないこと、大卒以上の者が戸籍取得する際の年齢制限を5歳引き上げる(学歴に応じ35~45歳→40~50歳)などの一層の緩和措置も発表した。ただ、広州では19年1月だけでも担当部門への問い合わせは10万件以上あったという。
また、深圳では17年実績で、簡素化したポイント制に基づく戸籍申請総数に対し、実際に取得が認められたのは4割程度に止まっており(1月25日付深圳入戸直通車等)、全面的な開放にはほど遠い。
北京と上海の戸籍取得が最も困難という状況は続くとの見方が一般的だ。北京市担当部局は少なくとも2019年内、現行ポイント制度になんら変更はないと明言している。北京市人口は現在約2150万人、同市の最新都市計画は20年常住人口を2300万人と設定しており(何れも北京市管轄の都市部周辺を含むベース)、流入人口が増加する余地が少なく、そうした状況下で戸籍取得も益々厳しくなると見られている。
上海は戸籍取得要件として居住証を7年以上保有し、その間、市の社会保険に加入し保険料を支払っていることが必要とされ、その上で学歴に応じて申請に必要なポイント数が決められており、広州や深圳に比べてもはるかに要件が厳しい。10年以降、ポイント制に基づく戸籍取得者数は年当たり5000人に止まっている(4月12日付21世紀経済網等)。