農村の貧困一掃を「一諾千金」とする習主席
都市(城鎮)化は一貫して中国政府の重点政策だ。2017年12月開催された経済活動(工作)会議(毎年末開催、翌年の経済運営方針を決める重要会議)、18年3月全人代での李克強首相による政府活動報告では、いわゆる高レバレッジ経済からの脱却による金融リスクの抑制、環境汚染への対処と並んで、農村の貧困撲滅が本年の3大「攻戦」、戦う分野として挙げられ、また習近平主席の18年国民向け恒例年頭挨拶でも、20年までに農村の貧困を一掃するという目標は「一諾千金」、必ず守る約束だとされた(注)。
(注)国家統計局によると、2017年末農村貧困人口は3046万人(貧困発生率3.1%)、16年比1289万人が貧困から脱却。2012年第18回党大会時の9899万人(同10.2%)から大きく減少。18年以降、毎年1000万人を貧困から脱却させ、20年に貧困をなくすことが目指されている。
都市化の推進はこの貧困撲滅のための重要な政策手段と位置付けられる。「国家新型城鎮化計画(2014〜20年)」は20年都市化率を60%にまで高めることを目標に掲げているが、17年10月党大会の習演説、18年全人代政府活動報告とも、過去5年間の「歴史的重大変革」の1つとして、都市化率が52.6%から58.5%、年平均1.2%ポイント上昇したことに言及した。
都市化に密接に関連する農地の収用・流動化についても、近年様々な動きがある。都市化と土地改革の行方は、習政権が党大会で掲げた「新時代における現代的経済システムの建設」にも大きな影響を及ぼす要因だ。
都市戸籍がない「半都市民」への対応が鍵
中国の都市化を測る一般的な指標は、国家統計局の都市常住人口比率だ。都市に1年のうち延べ6か月以上在住する者の対総人口比で、2000年36.2%から17年58.52%へと上昇、都市化は順調に進んでいる。ただ、都市戸籍者の対総人口比は2000年26.1%、17年42.35%、15年ようやく常住人口比率とのかい離が縮小に転じたが、17年その差はなお2.25億人に相当する(図表1)。
[図表1]都市化率の推移
やはり国家統計局が発表している戸籍分離人口(1年のうち延べ6か月以上在住している地と戸籍地が異なる者)2.91億人のうちの流動人口2.44億人にほぼ対応する。都市で働きながら都市戸籍を持たず、教育、社会保障等公共サービス面で、都市戸籍者と同等の扱いを受けられない「半城鎮人」、半都市民と呼ばれる人々だ。
中国では以前からこうした半都市民の「市民化」が叫ばれ、本年の全人代政府活動報告でも「都市化の質的水準を高める」「市民化を加速させる」として、公共交通システムを始めとする各種都市インフラの整備に言及しているが、人的な側面から言えば(こうした報告・演説ではあまり明示的に触れられないが)、半都市民に都市戸籍を付与し、都市戸籍者と同等の公共サービスを受けられるようにすることが最も重要かつ困難な問題になっている。
農民工(戸籍が郷鎮にあり、各年度、出身の農村またはその外で6ヶ月以上非農業に従事している者)は17年2.87億人、うち外出農民工(戸籍がある郷鎮の外で就業)が1.72億人、本地農民工(戸籍がある郷鎮内で就業)は1.15億人だ(図表2)。
[図表2]都市常住人口比率と農民工(2017年)(単位:万人)
「郷鎮」は農村(郷)とその周辺の町(鎮)だが、鎮の一部は「城鎮」、都市部に重なっていると思われる。仮に本地農民工の半分を都市部の「鎮」に居住する農民工とし、外出農民工と合計すると約2.3億人で、上記2.25億人にほぼ対応する。
半都市民の主体は都市およびその周辺に出稼ぎに来ている農民工だ。城鎮化計画では、都市戸籍比率を20年45%にまで高める目標も掲げている。政府は16年10月、第13次5ヶ年計画期間中(2016〜20年)1億人に都市戸籍を付与する方案を発出し、年平均13百万人以上に都市戸籍を付与し、各地域の都市戸籍比率と常住人口比率のかい離を13年比2%ポイント以上縮小させるとの方針を示している。
半都市状態にある農民工は、都市内での2極化、農村に1人取り残された「留守児童」、「留守婦女」、「空巣老人」の発生(国家衛生計画委「中国家庭発展報告2015年」によると、各々農村に居住する総数の35.1%、6.1%、23.3%)、春節時期の大量人口移動(春運潮)といった様々な問題を引き起こしている。
地域差も大きい「都市化」の進展
各省市区の都市常住人口比率は公表されているが、都市戸籍人口比率を公表しているのは31省市区の中で、貴州(17年36.1%)、内蒙古(同43.96%)、四川(同34.1%)、江西(同37.9%)、山西(16年39.14%)、浙江(同44.1%)が見当たる程度だ。推計方法について統一的な基準がないためと思われる。包括的な推計としては、貴州省統計局が2014年時点の各省市区の都市戸籍人口比率の試算結果を出している(図表3)(注)。
(注)ここでの都市戸籍比率は非農民戸籍人口/非農業従事人口で、各地域総人口比で見た全国数値とベースが異なる。北京師範大学「社会体制藍皮書2017年」は50主要都市を対象に対各地域総人口比で試算。それによると、16年時点、都市の流動人口が少なく、早くから戸籍改革を手掛けてきた珠海、南京等上位10都市が56〜69%、上海、北京、天津、重慶の4直轄都市平均50.1%、50都市平均46.6%。
[図表3]地域別都市化率(2014年)
それによると、都市戸籍比率最高は上海(90%)、最低が貴州(16%)だ。遼寧、黒龍江、吉林の東北3省は計画経済時代、大型国有企業が集中し、早くから工業化した関係で、かつては全国の中で最も都市化が進んでいた。現在なお常住人口比率、戸籍比率とも全国平均より高いが、全国的な市場経済化の中で発展が遅れ、若年労働力が他地域に流出している。新疆、海南、湖北、湖南、江西、安徽は10年比、戸籍比率が1%前後低下、地理的に近い長江、珠江三角の両デルタに労働力が流れている。
福建、浙江は沿海部に位置し、経済も発達しており、常住人口比率は高いが、戸籍比率は低く、両者のかい離が全国の中で最も大きい。その理由として、
①伝統的に労働集約的な小規模民営企業が中心で、企業の都市戸籍に対する関心が高くないという企業側要因
②省全体が比較的均衡のとれた発展をしてきた結果、経済的に裕福な郷鎮が存在し、農村戸籍を維持したいという農民工側の要因
が指摘されている(温州では出身地の農村に戻る大学生が増加、16年5月6日付第一財経)。
発展改革委も、福建や浙江では農村の環境が改善し、都市と農村の格差が縮小している点を指摘しているが(同第一財経)、全国的に見ると、そうした現象は都市部に近い農村に限られており、都市から遠く離れた農村と都市との格差は依然大きい。都市戸籍比率が低い主要因は、地方政府が都市戸籍を付与することに消極的なことだ。
16年9月までに31省市区の戸籍改革に関する実施意見が出そろい、多くの省市区が都市戸籍比率の20年時点での数値目標を掲げているが、全国目標45%より低く設定している省区が少なからずある(確認できた範囲で、湖北43.5%、山西、貴州43%、雲南、湖南、江西40%、四川38%、河南37%、安徽35%)(注)。
(注)すでに都市戸籍比率が比較的高い省区は全国並み、またはそれより高い目標を設定(遼寧65%、山東、黒龍江55%、広東、内蒙古50%、福建48%、海南47%、河北、青海、重慶、江蘇45%)。