事例:開業を試み、コンサルに一任したA先生
A先生は、開業医の父親の跡を継ごうとしましたが、父親と意見が合わず中止。自分で開業しようと決心し、勤務先で懇意にしていた業者に開業コンサルを紹介してもらいました。
日々の診療で忙しく、コンサルに全て任せていました。コンサルに紹介されるままに業者と次々と契約を結び、「父親の医院より豪華にしたい」と、内装にはこだわったため、当初のスケジュールを大幅に超えて着工しました。その結果、不要なものや高額な機器を買わされ借金まみれのスタートを切る羽目になり、さらに開業してから数ヵ月間収入が無く、預金を取り崩す生活を余儀なくされたのです。
後に先輩開業医から「開業コンサルは仲介報酬がつきものだからいちいち高額だよ」と忠告されても後の祭りでした。
解説:コンサルに任せきりではスタート時点で火の車
クリニックの開業には、想定外のリスクが潜んでいます。ただ、それはある意味やむを得ないことだともいえます。現在、大学病院や民間の病院で働いている先生方は、患者さんと向き合い、診療に専念することができます。事務のことや経営のことは、専門スタッフに任せることができるからです。
しかし、開業となると、すべてが先生方の肩にかかってきます。立地はどこがいいのか、設備はどの程度必要か、スタッフは何人くらいが適正か・・・これまで経験のないことを、すべて自分で判断しなければなりません。それは開業してからも続きます。多くの患者さんに来てもらうにはどうしたらいいのか、スタッフの教育をどうしたらいいのか──。加えて日々の診療を行わなくてはならないのです。これら一つひとつに悩んでしまうと、いつまで経っても開業などできません。
そこで通常は、開業コンサルに相談することになります。とはいえ、日々忙しく診療を行っている先生方は、自ら開業コンサルを探す時間はないでしょう。そこで接点となるのが、勤めている病院と取引のある薬品の卸会社や、設備を搬入している医療機器会社などです。
先生方にしても、同僚に開業の相談をするわけにもいきません。代わりに日ごろ顔を合わせて親しくなった外部の業者に、「ほかの人には黙っていてくれ」と言いつつ相談するケースが多いのです。すると、業者の社内にある開業支援チームや子会社の開業コンサル、取引のあるフリーの開業コンサルなどを紹介してくれます。
開業コンサルは何から何まで面倒を見てくれます。場所の選定やスタッフの集め方、広告の出し方、クリニックの内装、医療機器の手配など、すべてのサポートをしてくれるのです。先生方にしても日ごろ顔を合わせている業者からの紹介ですから、すっかり信頼して任せてしまうでしょう。
もちろん、コンサル任せでうまくいく場合もあります。しかし、私が数多くの開業に立ち合ってきた経験からいうと、開業コンサル任せでクリニック開業が成功するケースは5件に1件程度ではないかと思われます。
一般的に新規開業したクリニックの場合、地域の患者さんに親しまれて経営が安定するようになるには三年程度かかります。失敗するケースの多くは、そこまで到達する前に資金が枯渇し、ピンチに陥ります。最悪の場合、莫大な借金を抱えたまま閉院せざるを得ない状況に追い込まれるのです。では、そうならないためにはどうしたらいいのでしょうか。
一つは開業コンサルの実態をよく理解しておくことです。彼らは開業のプロですから、上手につきあえば、開業にまつわる煩雑な手続きを代行してくれます。その意味では、開業コンサルなしに開業は難しいと言ってもいいほどです。実際に9割以上の先生方が開業の際にコンサルのサポートを受けています。
しかし、彼らに任せきりにしてはいけません。最初から最後まで常に先生方が主導権を握っておかなければ、コンサルの利益が増える方向に誘導されてしまいます。
まとめ
●開業コンサルに任せきりにすると莫大な借金を抱えることになるかもしれない
●失敗で多いパターンは経営が軌道に乗る前の資金切れ