今回は、遺贈寄付と相続財産を寄付した場合の寄付税制について紹介していきます。※本連載では、寄付を募る団体と寄付をしたい人を繋ぐファンドレイジングアドバイザーの宮本聡氏が、日本における寄付文化の現状と可能性について解説していきます。

富裕層を中心に高まる「遺贈寄付」への関心

前回(関連記事:『寄付をしたら受けられる「税制優遇処置」の費用対効果』)、個人が一定の条件の元に民間非営利団体に寄付した場合には「寄付金控除」を受けられることを解説しました。復習になりますが、寄付金控除の税制上の優遇措置は、具体的に下記の3つからなります。

 

1)個人が寄付した場合、一定限度内で寄付金額に応じた所得控除もしくは税額控除が得られる。

 

2)企業が寄付した場合、一定限度内で寄付金額に応じた損金算入(経費処理)が認められる。

 

3)個人が相続財産を寄付した場合、その寄付分が課税対象外になる。

 

今回は、「個人が相続財産を寄付した場合の寄付税制」の解説とあわせて、特に富裕層のなかで関心が高まりつつある「遺贈寄付」について紹介します。

 

そもそも「遺贈」とは、遺言によって遺産を相続人やその他の人・団体に贈ることです。そのなかでも、地方公共団体や学校、民間非営利団体に遺産を贈ること「遺贈寄付」と呼びます。日本ファンドレイジング協会が発行する『寄付白書2015』によれば、遺贈寄付について、40歳以上の男女の21%が相続財産の一部を寄付することに関心があると答えた調査結果があります(図表1)

 

[図表1]遺産寄付の意思
[図表1]遺産寄付の意思

 

日本の年間相続額は、日本総研の試算では37兆円から63兆円になるといわれています。日本の毎年の税収が約60兆円なので、年によっては1年間に発生する相続の金額が、その年の税収に匹敵する規模になることもあります。そのようななか、単身世帯の増加もあり、自分が亡くなった後の財産の贈り先の一つに、社会貢献活動に取り組む非営利団体などを選ぶ、遺贈寄付への関心が高まっているのです。

 

なお、遺贈にも財産の全部、または一定割合を贈る「包括遺贈」と、相続財産のうち特定の財産を贈る「特定遺贈」という方法があります。遺贈寄付も、「全財産を寄付するか、しないか」という、ゼロか100かの意思決定ではありません。一般的に高額になることが多いだけで、金額の多寡を問うものではなく、極端にいえば1万円でも立派な遺贈寄付です。

 

自身が日ごろから力を入れている社会貢献活動への支援が、相続という出来事によって途切れてしまうことは、“未来の笑顔”を社会から減らすことにもつながりかねません。遺贈という方法によって社会貢献の意志を未来に繋げられるということを、一定以上の財産を成した方には、ぜひ知っておいていただきたいところです。

 

寄付について知りたい→「寄付・遺贈寄付特集」を見る>>>

遺言書で「遺贈寄付」の意思を伝える

遺贈寄付は、子どもなど法定相続人がいても可能です。遺贈寄付を実現するための最も一般的な方法は、遺言書を作成することです。遺言書には「どの財産を」「だれに」「どの程度」遺贈したいのか、明記する必要があります。

 

また遺言は大きくわけて、自分で作成する「自筆証書遺言」と、公証役場で作成・保管する「公正証書遺言」の二種類があります。「自筆証書遺言」の作成は手間や費用がかからず手軽に作れますが、形式に不備があると無効になってしまうこともあります。しかし、わかりにくい表現であっても、遺言執行人が遺言者の意思を解釈して手続きができる場合もあるので、まずは自分の想いを書面に書き出してみるといいでしょう。

 

※遺言書の作成にあたっては、遺言があったとしても法律上最低限認められる相続人の権利「遺留分」への配慮が必要です。

 

大手国際協力NGOの「国境なき医師団日本(会長:加藤寛幸、事務局長:ジェレミィ・ボダン)」が2018年8月に公開した、『遺贈に関する意識調査2018』によれば、遺贈の意向度は年代によって大きな差はなく、約5割に遺贈意向があることが判明した、とされています(図表2)

 

[図表2]遺贈の意向度について※2018年6月22日~28日の7日間、全国の20代~70代の男女1200名を対象、インターネット調査(出所:国境なき医師団日本「遺贈に関する意識調査2018」)
[図表2]遺贈の意向度について※2018年6月22日~28日の7日間、全国の20代~70代の男女1200名を対象、インターネット調査(出所:国境なき医師団日本「遺贈に関する意識調査2018」)

 

しかしながら、遺贈寄付の意思のある人のうち、実際に遺言を作成している人は3.9%(実際に遺贈寄付をした件数は、相続税申告件数全体の0.54%)にとどまるという別の調査結果もあり、この「想い」と「実現」のギャップをどう埋めることができるかが、今後、遺贈寄付が一般的なものになっていくための課題でもあります。

 

そんなニーズと課題を受ける形で、2016年11月に、日本で初めてとなる遺贈寄付の推進団体「全国レガシーギフト協会」が発足しました。これは全国的なネットワーク組織で、遺贈に関わる相談が無料でできる中立的な窓口を全国16ヵ所(2019年6月現在)に展開しています。各地の相談窓口に行くと、弁護士や司法書士などの専門家の紹介、寄付先団体選びの相談、実際の遺言書作成のサポートなどを行ってくれます。

 

また、2019年4月から、オリックス銀行は、遺産を手数料無料で寄付できる信託サービスかんたん相続信託〈遺贈寄附特約 〉を開始しました。この信託サービスは業界初の取り組みで、現在のところ寄付先はオリックス銀行の提携先と契約を締結した一部の自治体に限られますが、今後その対象は広がり、より使いやすくなっていくことが期待されています。

 

寄付について知りたい→「寄付・遺贈寄付特集」を見る>>>

相続財産を寄付した場合の税制上の優遇措置

一定の条件を満たした民間非営利団体等に遺贈寄付をした場合、その寄付をした分が相続税の課税の対象から除外されます。また、相続や遺贈により財産を取得した相続人が、その財産を寄付する場合にも、その寄付先が国や地方公共団体、公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、認定NPO法人等の寄付税制優遇措置の対象の場合には、相続税の申告期限(10ヵ月以内)までに寄付を行なえば、その寄付をした分が相続税の課税の対象から除外されます。

 

たとえば、総額3億円の相続財産があった場合に、このうち1億円を認定NPO法人等の公益法人に寄付をすれば、その寄付分は非課税となり、相続税の計算上の相続財産は2億円になります。相続財産からの寄付は金額も大きくなることが多いので、検討する場合には、優遇措置の対象となる団体から寄付先を選んだ方がよいでしょう。ちなみに、この寄付先は一箇所に限らず、何箇所にしてもOKです。寄付した総額分が非課税となります。

 

なお、相続人が相続財産から寄付した場合に、寄付税制優遇措置の対象となる寄付先団体は、個人が寄付した場合に寄付金控除が受けられる団体と同じです。ということは、相続人が相続財産を寄付した場合には、相続税の非課税措置だけでなく、所得税に対しての「寄付金控除」も同時に利用することが可能になります。相続税の申告とは別に、確定申告の際に対象法人への寄付した旨を記載し領収証を添えることで、2つの税制優遇を受けられますので、忘れずに申告してください。

 

[図表3]寄付税制のまとめ(出所:認定ファンドレイザー公式テキストより、筆者作成)
[図表3]寄付税制のまとめ(出所:認定ファンドレイザー公式テキストより、筆者作成)
 

 

<注意>

遺贈や相続財産の寄付は、遺産の総額や相続人の人数などにより、基礎控除額が変動するなど、各人の相続の状況にあわせて複雑な計算が必要になります。無用なトラブルを避けるためにも、遺贈や相続財産の寄付を行う際には、専門知識を持つ弁護士や税理士などへの相談を強くおすすめします。

 

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