少子高齢化、子どもの貧困や虐待の問題、地方の衰退…山積する社会問題を解決へと導く「寄付」に注目が集まっています。本連載では、寄付を募る団体と寄付をしたい人を繋ぐファンドレイジングアドバイザーの宮本聡氏が、日本における寄付文化の現状と可能性について解説していきます。

熊本城の復興にも約40億円の寄付金が集まる

2019年4月15日の夜、パリのノートルダム大聖堂が激しい火災に見舞われました。大聖堂の構造体、ファサード(正面壁)、2つの塔は被害を免れましたが、高さ約90メートルの尖塔や屋根の大半がこの火災によって焼け落ちてしまいました。被害に遭った大聖堂を再建するためには当然に多額の修復費用がかかるわけですが、この大聖堂の修復に向けて、フランス国内外から瞬く間に1,000億円(約8億5,000万ユーロ)を超える支援の申し出が相次いだことは、日本でも驚きを持って報道されました。

 

フランスのメディアによれば、化粧品大手のロレアルと大株主は総額で約250億円(2億ユーロ)、高級ブランド大手のLVMHグループとその大株主アルノー家が約250億円(2億ユーロ)、グッチなどを有するケリング社CEOのフランソワ=アンリ・ピノー氏と父フランソワ・ピノー氏は約125億円(1億ユーロ)の寄付を表明し、その他にも、石油大手トタルや保険会社アクサ、BNPパリバなど、数多くのフランス企業、そして米アップルCEOのティム・クック氏や米ディズニー社などが寄付する意向を示したとされています。

 

この寄付は、寄付文化が根付いているヨーロッパの国だから起こったことでしょうか? けしてそうではありません。企業や創業者などによる大口支援1件あたりのサイズが違うので総額で比較すると小さく見えてしまいますが、「平成28年熊本地震」により甚大な被害を受けた熊本城も、その復旧・復元のためにたくさんの支援が集まりました。熊本城公式ホームページによれば、震災直後に募集開始した「熊本城災害復旧支援金」と2016年11月に募集開始した「復興城主」制度を合わせて、2018年12月末時点で40億円近い寄付金が集まっているそうです。

 

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世界の成功者が寄付をする理由

経営者や投資家など、経済的に成功された方々はなぜ寄付をするのでしょうか? 「フィランソロピー(英:Philanthropy)」という言葉があります。ギリシャ語の「愛(Phil)」と「人類(Anthropy)」を合わせた造語で、日本では「博愛主義」や「慈善」と訳されますが、「社会貢献」と訳した方が現代的です。元々は、企業による公益活動・社会貢献活動を意味することが一般的でしたが、寄付や社会貢献活動の先進国であるアメリカでは、企業の社会貢献活動のみならず、個人や企業による社会貢献活動や寄付行為に対する呼称として定着しています。

 

このフィランソロピーを実践する人は「フィランソロピスト」と呼ばれます。代表的なフィランソロピストとして、マイクロソフト社の共同創業者であるビル・ゲイツ氏、アメリカの著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏、同じく著名投資家のジョージ・ソロス氏などの名前が挙げられますが、共通しているのは、自らが働くことで巨万の富を得た実業家か投資家です。

 

彼らの行動は単に寄付をして終わりというものではなく、たとえば自らの財団を立ち上げ、そこにビジネスや投資で培った知識や知恵を交えて社会問題の解決に挑むなど、積極的に社会貢献活動に参加しているのが特徴といえます。富裕層は経済活動を通じて資産形成をしたのちに、第二の人生のステップとしてフィランソロピーに向かう傾向があります。

 

事業や投資に成功し富を得た人たちのなかには、稼いだお金の使い道として、多額の消費を好む人もいれば、フィランピストとして社会貢献に勤しむ人もいます。主に後者は、自分たちが富を築けたのは自分の努力だけでなく社会の支えがあったからだと考える傾向が強く、自分が受けた恩恵を次世代にもつなげて行きたいという強い願いや意志が感じられます。また、欧米には「ノブレス‐オブリージュ(仏:noblesse oblige)」という道徳観があるので、身分の高い者や富を成した者は、それに応じて「果たさねばならぬ社会的責任と義務がある」という考え方が元々身についているのかもしれません。

 

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日本で寄付が広まりにくい理由

日本では寄付や社会貢献活動は高尚なもので、寄付をすることはあってもそれを人に話さずに自分たちだけの心にしまっておく「陰徳の美」という価値観があります。また、寄付をするお金があるということは金銭的に余裕があるということであり、日本では「お金を稼ぐことはよくないことだ」という非常に残念な風潮もあるため、寄付はしていても、批判をされないために隠しておくということもあるかもしれません。

 

そのため、「日本には寄付文化がない」などといわれることも少なくありませんが、「浪花の八百八橋(はっぴゃくやばし)」といわれる大阪・堺の町の橋という橋は、みな財を成した商人たちの“寄付”で造られており、「頼母子講(たのもしこう)」や「無尽(むじん)」と呼ばれる相互扶助の仕組みは昔から地域に存在していました。寄付文化は日本にも昔からあるのです。

 

そんな日本では、寄付という応援を必要とする社会課題がたくさんあります。高齢者福祉、医療、子どもの貧困や虐待の問題、地方の衰退や外国人に関連する問題など、挙げればきりがありません。しかしながら、日本の財政問題は深刻であるため、これらの社会課題への取り組みを、税金を使った「公の担う福祉」では賄い切れないのです。ビジネスや投資の世界で活躍している方は、こういった社会の流れに敏感なはずです。

 

日本社会に善意の循環が回り、よりよい未来を次世代につないでいくために、この記事を読んでいる方にはぜひフィランピストとして、率先して「寄付」という社会投資を実践し、そしてそれを公言していっていただきたいです。

 

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